※サハラ_サイド
俺が一基目の対空砲を無力化した時には、結局あいつは四機のヘリを破壊していた。飛空挺の操作性は零式の方が上とはいえ、鬼神のような戦果だ。俺は負けじと、高度が上がり切らない内に対角にある同型の対空砲を攻撃した。真上にまでは上がられなかったが、準備の不十分な対空砲は無抵抗で、容易に破壊できた。
『……東の……に気を……』
短距離の通信が入ったが、ほとんど聞き取れなかった。この『船』の上は、通信妨害が敷かれているようだ。
一撃離脱戦法をまどろっこしく感じた俺は、地表から一〇〇メートル程度の高度で次の速射式の対空砲を攻撃した。伍式は速過ぎるので狙いを定めるのは難しかったが、一撃離脱戦法では上昇に時間を掛けている間に迎撃態勢を整えられてしまう。
速射式の対空砲を狙った弾丸が着弾するかしないかというタイミングで、機体から約三〇メートルの位置から爆音が響いた。その衝撃で機体が振られたが、上手く三基目の対空砲を破壊して、任務はようやく半分終わった。
『狙い……され……!……飛……』
通信は聞き取りにくかったが、意図はわかる。少々低く飛び過ぎた。地上から小口径の機関銃でこちらを狙っている白装束もいるし、飛び発ちそうなヘリも増えてきた。
俺はスロットルを全開にして機体を持ち上げた。致命的な弾丸はまだなさそうだが、地上からの弾がいくつか当たった感覚がある。
このまま単純に飛行していては危険だろうから、とにかくもう一度高高度に昇って、当初の作戦通り一撃離脱戦法に切り替えよう。フルスロットルで『船』を離脱しつつ、急速に上昇する。推進式の伍式の取り回しは難しくはあるが、高出力のエンジンは零式以上にパワフルに機体を持ち上げる。
自分が飛空艇を駆り、攻撃すると、戦闘中の作業量に驚かされる。
感覚的にわかりやすい三つの可動翼の制御は当然だが、機体のブレを細かく修正するならばトリムする必要があるし、エンジンスロットル、プロペラピッチをこまめに変えることで効率よく加速できる。頻繁に計器で自機の姿勢や速度などを確認し、照準してトリガーする。敵機が迫っていないかはその間にも周りを見回し、たまには通信も入る。だからこそ、零式のあの射撃精度は人間離れしているとさえ思える。
ごく近くで大きな爆発音がして、伍式は激しく振動した。俺は急いで計器を確かめたが、多少バッテリーが消耗している以外は特に異常が無かった。
今回の炸裂弾も外れたようだが、徐々に精度が上がっていることがわかる。
どちらが先にモノにするか。
高度を十分に確保した俺は、背面飛行からもう一度急降下した。




