第65話 操り人形編5
あの恐ろしい『人形劇』から1日が経過した。町を焼き尽くしていた大海のような大きい炎も
無事鎮火され、逃げ惑っていた人々はすでに町の復興作業に入り始めていた。
あの事件の怪我人は玲奈と風花を始め、町の医療班が迅速に行動してくれたおかげで、ほとんど一命を取り留めることができた。怪我人は軽傷のものから重傷のものまでいたが、いずれにしても命だけは助けることはできた。
命が助かっている一方で、死者は数え切れないくらいに膨れあがった。現在確認されているだけでも100人以上は確実に死んでいて、これから瓦礫を除去するにつれ、下敷きになっている人間や、生きながら炎を身に纏い焼け死んだ人間が倍以上になるだろう、というのが、救助班の見解だった。
レオたちはもうこの世界にいる意味はない、と判断した。『罠』はもういないし、復興作業は自分たちがいなくとも無事にやれるだろう、ということからだった。
「・・・こんなに後味が悪い世界は、初めてだな」
『罠』は退けることはできた。しかし、それは自分たちの力ではない。1人の悲しい男の命と引き換えに追い払ったに過ぎない、残酷な結末だ。
自分たちは無力だということを実感させられた世界だった。自分たちにもっと力があったなら、男を死なせずに済んだかもしれない。男に女を殺させずに、自分の手で殺させずに済んだかもしれない。・・・全ては、自分たちの無力さゆえの結果だ。今回自分たちは、何もできなかった。
もっと力をつけなければならない。そうしなければ、世界なんてとてもじゃないが守ることなどできない。神の使いのように人を傷つける力じゃなく、人を守るための力が欲しい。毎日の平凡な日々を送っている人々に、これからも平凡という当たり前すぎて気が付かない幸せを過ごしてもらうために。
「・・・帰るか。刹那たちも戻ってっかもしんねぇしな」
一同は黙って頷き、ゲートを潜ってこの世界をあとにした。もう2度と、こんな悲しい結末は迎えないようにしよう、という強い思いを抱いて。
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「たダいま。帰ッたヨ」
「おかえ・・・・・また、そんな無茶して・・・」
ため息をつきながら、青年は負傷しているアビスに言った。
「油断してネ、やらレちャったよ。でも、すグに直ルと思うカら、大丈夫サ」
「それならいいけど、あまり無理しないでよ?」
「まァ、忠告は受け取ッておくヨ」
さっきよりも深いため息をつき、青年は部屋の奥にあるカプセルに向き直った。・・・そのまま静寂が辺りを包み込む。
「・・・もウそロそロ行くヨ。じャあネ」
「うん。無茶はしないようにね」
ドアを開け、アビスは青年のいる部屋をあとにした。
誰もいなくなったのを見計らい、青年はカプセルに向かって話し始めた。
「・・・みんな、どうして無茶ばっかりするんだろうね。僕に心配をかけるのが楽しいのかな?」
カプセルからはもちろん返事は返ってこない。それでも、青年は話しかけるのを止めない。
「大切な仲間だからね。傷ついて欲しくないんだ。すぐ治るのはわかってるんだけど、やっぱりね。心配なんだよ」
・・・・・再び、静寂が部屋の中を支配した。
さて、いかがでしたでしょうか? 今回の物語は?
今回は残念な結果となってしまいました。守れた人を守れず、加えてアビスも逃すという最悪極まりない終わり方です。
一体レオたちは今回の世界で何を痛感したのか? そしてそれを次の世界へと繋げれるのか?
次回の物語は魔界編。
魔族と神族を中心とした世界をお楽しみください。




