王子の演説
あのあと緊急会議が開かれることになって、実技のあとにあった最後の一時間は明日に持ち越しとなった。代わりに、王子率いる生徒会が緊急生徒集会を開くと放送したため、生徒たちは講堂に集められた。
学年ごとに着席した生徒たちを見回し、壇上の王子は反響石を加工して作ったマイクの前で、スッと息を吸った。
「栄えあるイストリアの民であり、誉れ高きイストリア学園の生徒たちよ」
ただ一言でざわついていた空気が引き締まり、全員の意識が壇上へ集中する。
こういうところは、本当に魂レベルで先導者としての才能があると思う。
「俺は、貴様らに失望した」
ハッと息を飲む気配が、講堂中から上がった。
かく言う私も、驚いて王子を注視してしまう。
「嘗ての俺がそうであったように、世を知らぬ貴族は、己が立場を大いに誤解している」
王子の表情は、何処か苦しそうだ。
周りも何となくそれを感じ取っているようで、動揺している生徒もいる。
「民は貴族を支え、貴族は民を導くものだ。決して民を踏み躙り、その生活を食い荒らす害獣であってはならない。身分差とは生家の違いでしかなく、魂の尊さの違いではない。そのことを改めて周知する必要があると感じ、この場を設けた」
あの言葉は、エリシアちゃんが王子に対して言ったと、彼自身が教えてくれたものだ。私と出会って少し経った頃、エリシアちゃんが王子の言うことをただ聞く綺麗なお人形でなくなったとうれしそうに言っていたときの。
「俺は、嘗ての自分を恥じている。思い上がり、傲慢で、世間知らずであった己を。もし過去に戻れるなら、驕り高ぶった面を殴ってやりたいとすら思う。罪を認めることは己の心に刃を突き立てるに等しい。恥を前面に突き出され、それを直視しなければならない。それゆえに人は、ときに己の罪から目を逸らし、被害者に罪をなすりつけることがある」
そう言って、王子は講堂をぐるりと見回した。
一瞬目が合ったような気がしたけれど、気のせいかとも思うくらい一瞬だった。
「平民だから。獣人だから。成り上がり貴族だからと、理由をつけて蔑む者がいる。仮に相手に罪があるとするならば、それを裁くのは我々ではない。王庭審議会である。貴様の主張が正しいと心から信じるのであれば、正式な手順を踏んで審議にかけるが良い」
ふ、と。
今度は明確に私と視線がぶつかった。
「尤も、平民の罪で審議にかけるなどとほざけば、審議にかけられるのは寝言を吹かした輩のほうであろうがな」
王子は相変わらず口が悪い。輩というならその言葉遣いのほうだと思う。でも、言っていることは正しい。だから誰も、なにも言わない。
周りの人たちは気まずそうに目を伏せたり、チラチラと私のほうを見たりしている。
「まずは己の罪を知れ。恥を知れ。これ以上愚かで恥知らずな振る舞いを重ねるならば、学園は過去嘗てない人数の退学者を出さなければならなくなる。末代まで語られる愚かな世代であったと歴史書に刻まれたくなければ、崇高なる魂を取り戻すことだ」
王子は目を閉じて、ふーっと長く息を吐いた。
自分でもそう言っていたけれど、以前の王子もひどいものだった。パーティの場で私を振り回して転ばせ、周りに笑いを齎した張本人なのだから。
その事実から目を逸らして「平民なんかが貴族の学園にいるのが悪いんだろう?」と、私に原因を押しつけていたほうが、きっと気持ちの上では楽だったと思う。それに此処の皆なら王子の言葉に賛同して、そうだそうだと一緒に嗤ってくれただろうし。
でも、王子は全く別の選択をした。自分の恥を壇上で晒して、皆にも貴族として正しくあるようにと告げてくれた。
私は、もう、それだけで充分だった。
エリシアちゃんも、シャーディ先輩もいて、王子もいる。貴族と王族しかいない学園で独りぼっちじゃないんだから。
ああ、だけど、私はともかくシャーディ先輩への暴力や暴言はなくなってほしいかな。
言葉と文化の勉強をしにわざわざ遠い異国まで来てくれた先輩が、これ以上傷つくのは見ていたくないし。
集会が終わると、生徒たちは何とも言えない表情のまま寮に帰っていった。その途中でやっぱり私のほうを気まずそうに見ていく人や、お前のせいだって顔に書いてありそうな目で睨んで行く人もいて。
当然だけど、その場で全員の意識が真逆になるなんてことはなかった。
私はいつものようにエリシアちゃんにつれられて、カミルさんが待つお部屋に向かっていたんだけど。
「ニーナ・キリエ様。……少々よろしいかしら」
その途中で、不意に呼び止められた。




