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悪役令嬢が天使過ぎて攻略対象が目に入らない!  作者: 宵宮祀花
一章◆チュートリアルなんてなかった。

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月の聖女

 あのあとすぐ救護室の先生が来て、泣いてるエリシアちゃんを見てもの凄く驚かれたんだけど、倒れて心配かけてしまったと私が説明したら、運ばれた経緯も知っているからかすぐに納得してくれた。

 それで、エリシアちゃんに送ってもらって―――公爵令嬢に部屋まで送らせてしまったことに気付いたのはついさっきだ―――いまは部屋にいるんだけど。


 さて。ここで困ったことが一つ。

 一向に目が覚めないんだけど、どういうことだろう?


「夢にしてはリアルだし、そういえば私、夢で夢だと自覚できるタイプじゃなかった……どうなってるんだろ?」


 頭を過ぎったのは、スマホで読んだ小説の中で見た、異世界転生の文字。

 でもあれってトラックとかにぶっ飛ばされないと飛んでいけないんじゃなかったっけ。ていうか私、家でゲームしてただけだから死んでない……はず。直前の記憶にある、あのやたら眩しい光が実は家の壁をぶち抜いてきたトラックのヘッドライトだったってことがない限りは、転生説はあり得ないと思う。

 だったら、光のショックで意識を失うついでに死んだ? そんな馬鹿な。

 でも、どれだけ思いつく説を並べても、目が覚める気配もないし夢の中とも思えない。だってエリシアちゃんの涙は、凄く温かかった。


「よくわからないけど……よりにもよってモブでも何でもなくヒロインになってるみたいだから、それらしく学園生活を送らない……と……」


 そう呟いて、ふと気付いた。気付いてしまった。

 乙女ゲームのヒロインってことは、攻略対象たちが寄ってくるのではないのか。確か、このゲームには逆ハーレム姫ルートなる地獄の宴も存在したはずだ。待ってほしい。私は画面越しだから、異世界の話だから何度も彼らと接することが出来ていただけで、実際に面と向かって男子と話すなどとんでもないことだ。

 たとえゲームの世界でも、飛び込んでしまったらこれが現実なのだから。実在しないと思って軽く扱うことなんて出来ない。僅かでもエリシアちゃんの心に触れたいま、切実にそう思う。


「どうしよう……ほんとにどうしよう……」


 ヒロインは、月の聖女だ。対となる太陽の騎士を選んで卒業しないと、バッドエンドになってしまう。このゲームのバッドエンドは謎の団体に拉致されて聖女の力を悪用される幽閉エンドだったはず。エンド回収のためだけに一回やって、それっきり見てないくらい悲惨で可哀想な末路だった。

 冗談じゃない。でも、現実の男子は怖い。エリシアちゃんとの会話でも、ゲームと違う箇所が所々あったんだから、攻略対象の人もゲーム通りとは行かないかも知れない。寧ろ現実世界の男子と似たようなものでもおかしくない。


「……そういえば……聖女の印、ほんとにあるのかな……?」


 ニーナってヒロインに付けた名前で呼ばれたから勘違いしただけで、モブにもニーナがいてもおかしくないと思う。日本ではキラキラネームだけど、西洋風のこの世界だったら別に珍しい名前じゃないんだし。

 印があったら、それこそ逃げられない。でも、いつかは確かめなきゃいけないことだ。私は浴室の洗面台前に立つと、深呼吸をしてから、制服のボタンを開けた。


「…………っ、ほんとに、私なんだ……」


 鎖骨より少し下、胸の真ん中に、それはあった。青白い月の印。聖女の証。

 ずるずると崩れて、膝を抱えた。もう、逃げられない。


「聖女として永遠を共にしたいと願う、運命の騎士を見つけよ……かぁ……」


 ゲームで初めて見たときはわくわくした言葉だったけど、リアルに言われるとなると、全く話は別だ。運命だの永遠だのという言葉はフィクションだから楽しめるのであって、実際身に降りかかってみると重たくて仕方ない。


「でも……卒業までまだ二年半くらいあるし……もしかしたら、卒業を待たずに元に戻ることだってあるかも知れないんだから……」


 何とか自分に言い聞かせて、心を奮い立たせるようにしながら立ち上がると、目の前の鏡に映る自分と目が合った。さっきは胸元を思いっきり見てたから気付かなかったけど、私の見た目、ヒロインと私を混ぜたみたいになってる。

 赤毛のロングヘアと青緑色の目はヒロインのものだけど、身長とか雰囲気は私に近い。試しに腰に手を当ててみたら、想像以上に細くて手がスカッと空振りしかけた。


「ウエストほっそ! えっ……こんな体で走れるの……? 内臓どこにあんの?」


 ウエストだけじゃない。よく見たら手足も細いし首なんか簡単に折れそうだった。肌がすべすべになってるのはちょっとうれしいけど、それ以上に不安になる体型をしている。私の蓄えた筋肉ざいさんはどこへ行ってしまったんだろうか。

 身体能力が落ちていたら落ち込むどころじゃないんだけど。明日辺り、走り回れそうな場所を探して軽く走ってみよう。貴族ばかりの学校で駆けずり回ったりしたら「やっぱり平民ってはしたないですわねえ」とか言われそうだけど。知らない。ヒロインも片田舎の平民生まれだけど、私だって生まれも育ちもジャパニーズド平民なんだから。


 そうと決まれば、今日は早めに寝よう。どうやら、目の前で魔法が爆発したイベントの直後みたいだし。だとすると、明日は休みのはずだから。

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