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悪役令嬢が天使過ぎて攻略対象が目に入らない!  作者: 宵宮祀花
三章◆予測可能回避不可能

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本当に偉業だった件

 カミルさんの生暖かい視線を受けながら朝の支度を済ませて、私は一度部屋に戻ろうとした。なのに、エリシアちゃんに服の裾を掴まれて、涙目で訴えられて、私は結局根負けしてしまって、いまもエリシアちゃんの部屋にいる。

 昨晩着た部屋着とか下着は、カミルさんがエリシアちゃんのものと一緒に洗ってくれるらしい。平民の服と公爵令嬢の服を同じに扱っていいのだろうかと迷っていたら、それを察したカミルさんが「寧ろ喜ばれるでしょう」と言ってくれたので、もう内心で大の字になり、どうにでもしてくれとお任せしたのだった。


 今朝はうっかり早く起きすぎたこともあって、並んでソファに座ってエリシアちゃんに抱きしめられながら撫でられている。気分は膝の上の猫だ。私よりも全面猫なフィリアはソファの傍で毛繕いをしている。


「エリシアちゃん……飽きない?」

「いいえ、少しも。授業さえなければ、一日中だってこうしていたいくらいですわ」


 太陽の騎士にしてもいいと言ってから、エリシアちゃんは上機嫌だ。

 私だって一度口にした以上は撤回するつもりはないし、嘘だったわけじゃない。

 永遠を共にしたいと思える「相手」を選ぶのが、月の聖女が持つ重大な役割の一つだ。それは、ゲーム内の表記もそうだった。乙女ゲームという性質上、相手が男性キャラ限定だっただけで、女の子を選ぶなとは一言も言われていない。当たり前過ぎるからわざわざ言われなかっただけかも知れないけど。


「なんか、すごくご機嫌だね」

「はい。ニーナといられるのがしあわせなのです」


 寝ぼけておっぱいもんできた相手に寝間着姿のまま口説かれるとかいう最低のイベントだったのに。エリシアちゃんは周囲にお花が飛んで見えるくらいご機嫌だ。

 お花といえば、馬術場でのあれこれのあとに約束した通り、あれからエリシアちゃんと一緒にこっそりお花を育てている。この部屋の窓辺に植木鉢があるんだけど、小さな芽が出ていて、それがエリシアちゃんみたいにすっごく健気で可愛いんだよね。


「ニーナは、わたくしといるのはしあわせではないのですか?」

「その聞き方はずるくないかな……」


 視線だけで見上げると、エリシアちゃんは目をキラキラさせて私の言葉を待っていた。


「私だって、しあわせだよ」


 毎秒ごとに、エリシアちゃんは今日いちの笑顔を更新していく。


 ずっと部屋でエリシアちゃんを愛でていたいところだけど、学生は学校へ行かなければならない。


「イノシェンテさん、キリエさん」


 寮から本校舎への道を歩いていると、インカルナータ先生が私たちを呼び止めた。


「先ほど、イノシェンテさんのローブが届いたと連絡が入りました。教室へ行く前に学園窓口に寄って行ってください」

「わかりましたわ。ありがとうございます」

「それからキリエさん、申し訳ないのですが、少々手伝ってほしいことがあります。私と施療室まで来て頂けませんか」

「はい。じゃあ、エリシアちゃん、あとでね」

「ええ」


 エリシアちゃんと別れ、インカルナータ先生と連れ立って職員室へと向かう。


「キリエさん、召喚術の授業で大精霊を召喚したと聞いたのですが、本当ですか?」

「え……ええと、はい。でも、あの……ちゃんと習った通りにしたつもりで……」


 クラスメイトから、目立とうとしてわざとやったと後ろ指を指された記憶が過ぎって、慌ててみっともない言い訳をした私を、インカルナータ先生は優しく微笑んで「わかっていますよ」と窘めた。


「もう何百年ものあいだ、大精霊を召喚出来る魔術師は現れていません。彼らがいったいなにを思い、我々の世界に干渉しなくなったのか……それとも、私たちの魔力が薄らいできているだけなのかわかりませんが……あなたの成したことは、歴史書に残るほどの偉業なのですよ」

「えっ、そ、そんなに大変なことだったんですか……?」


 数百年も、誰も出来なかったことをしたと言われたらそうなのかなとも思うけど、でもやった本人的には全くそんなつもりがなかっただけに面食らってしまう。

 豆鉄砲喰らった鳩みたいな間抜けな顔で聞き返す私に、先生はゆったり頷いた。


「聖女は、その性質から大精霊の声を聞くことだけは出来ます。それでも召喚ともなると膨大な魔力が必要になりますから、普通は召喚術師と聖女は兼任出来ないのです」

「あ、そっか……歴代の聖女様は、騎士様に祈りの力を与えて国を守っていたから……」


 言われてみれば、あれもこれもとやっていたら、いくら凄い聖女様でも魔力が尽きたり疲れて動けなくなったりするはず。

 召喚術の座学でも習ったけど、召喚獣は召喚するのに一番膨大な魔力を使う。それに、召喚したあとも微量ながら契約者の魔力を糧にして維持している。だから魔力が尽きればその瞬間精霊界に帰ってしまうし、再度召喚出来るようになるまでには、回復する時間が必要になる。ゲームでは宿屋で一泊したり、回復アイテムがぶ飲みしたら即回復だけど、現実ではそうもいかない。

 大精霊召喚と、魔力を祈りに変換すること。そう考えたら両方なんて普通はやろうとも思わないことだ。


「……大精霊の召喚と維持は並大抵のことではありません。なので、キリエさんには今後暫く、個別で施療医による体調管理をしてもらうことになりました」

「手伝ってほしいことっていうのは、それですか?」

「ええ。今日は問診票の作成だけなので、すぐ終わりますよ」


 話しているあいだに、施療室についた。

 先生に続いて中に入ると、救護医のキュリオス先生が近付いてきた。

 セットなのか寝癖なのか洗いざらしなのか怪しい灰色の髪に、鋭い眼光を湛えた闇色の瞳、そしてこちらもセットなのか伸ばしっぱなしなのか微妙な無精ひげと、右目を覆っているごついデザインの黒眼帯。

 外で出逢ったら海賊かなにかだと思って逃げたくなりそうなこの人が、学園の救護医で国一番の施療術師と誉れ高いレノ・キュリオス先生だ。


「……全く、今回の聖女様は面倒事の塊だな」


 のっけから気怠げにそう言われたけど、その通り過ぎてなにも言い返せなかった。

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