ジャンピング土下座
翌朝。
微睡みから浮上しかけたとき。私は、ふわふわしたものに包まれていた。
「………………??」
目の前にあるやわらかなものに手を伸ばし、ふにふにと触ってみる。やわらかくて二つあって、ほんのり甘い匂いもする。何だろうと思っていたら、そのやわらかいものが少し震えて私から離れようとした。
それが何だか寂しくて、ぎゅっと抱きついたら、びくりと小さく跳ねた。でもこれ以上逃げないのがうれしくて、もっと埋もれてすり寄ってみる。やわらかいし、あたたかい。ずっとこうしていたくなる。
「……っ、あ……あの……ニーナ……」
頭上から声がして、そこで私はいままでなにに埋もれていたのか、はっきり自覚した。してしまった。
「!? ご、ごめんなさい!」
瞬間、文字通り飛び起きて、ベッドでジャンピング土下座をした。
だって……だって私、寝ぼけてたとはいえ、エリシアちゃんの、おっ……おっぱいを、もんで……そしてすりすりしてしまっていた。これはもう、打ち首では……?
「ニーナ……顔を上げて」
恐る恐る顔を上げると、頬を染めて胸を両手で押さえている天使がいた。
「ほ……ほんとに、ごめんね……? 嫌だったよね……」
「いえ……それに、ニーナは寝ぼけていただけですもの……気にしませんわ」
「……すみませんでした」
しゅんと俯いていると、ふわりと甘い匂いが近付いて、そして寝起きの瞬間にも感じたやわらかい感触に包まれた。顔が赤く、熱くなるのを感じる。エリシアちゃんの手が私の髪を撫でて、肩を抱きしめている。
……いったい、なにがどうしてこうなった?
「わたくしは、ニーナに触れられることを不快だと思ったことはありませんわ。ずっと、初めから、わたくしは…………」
エリシアちゃんの心音が、耳に響いてくる。とても早く、とくとく脈打っている。顔を上げると、ほっぺたをピンク色に染めて私を見下ろすエリシアちゃんと目が合った。
「エリシアちゃん……?」
「……わたくし、幼い頃から見ていた夢がありましたの」
エリシアちゃんは、いままさに夢の中にいるかのようなとろんとした表情で、ゆっくり語り始めた。
「周りの人は、わたくしこそが月の聖女だと言っていましたけれど、わたくしはそうではないことを何となく理解していました。……いつか、わたくしの前に月の聖女が現れて、わたくしを救ってくださる……そんな都合の良い夢を、眠る度に見ていましたわ」
私は無抵抗だった腕をそっと上げて、エリシアちゃんの背中に添えた。私よりもずっと華奢な体なのに、抵抗しようと思えば余裕で出来るのに、私は身動ぎ一つ出来なかった。
「……昨晩も、ニーナがわたくしの……」
そこへ、ノックの音が聞こえて、エリシアちゃんの肩がビクッと跳ねた。やんわり体が離され、全身を包んでいたやわらかな体温が消える。
「っ……ごめんなさい……こんなこと……」
気になるところで話が途切れたけど、扉越しにカミルさんの声が聞こえて、続きを聞く雰囲気ではなくなってしまった。
「エリシアちゃん」
ベッドから降りて、離れていこうとするエリシアちゃんの背に声をかけると、びくりと震えてから振り向いた。
「私は、エリシアちゃんのことが好きだよ。だから、私でも力になれることがあるなら、なりたいって思う」
「ニーナ……」
エリシアちゃんは哀しそうに微笑んで、泣きそうな顔で言った。
「それなら……わたくしが太陽の騎士としてあなたの傍にいたいと言ったなら、ニーナは叶えてくださるの……?」
まるで、試しているかのような口調だった。断られるとわかっていて問うているような表情だった。いまにも捨てられそうな、幼い子供の目だった。
だから私は、にっこり笑って頷いた。
「いいよ。エリシアちゃんが心から望んで私と永遠を共にしたいって言うなら、私は私の未来と人生全部、エリシアちゃんにあげる。エリシアちゃんの全部をくれるなら、一緒にいよう」
エリシアちゃんは目を見開いて、固まったまま動かない。
「聖女と騎士の運命が軽いものじゃないことは、私よりもエリシアちゃんのほうがずっとよく知ってると思う。だから……」
私はエリシアちゃんに近付いて、やわい体を抱きしめて、耳元で囁いた。
「卒業式のパーティの日。そのときが来ても気持ちが変わらなかったら、そのときは……永遠の契りをしよう」
そう言って頬にキスをしたら、更に真っ赤になった。処理が追いついてないのか、暫くフリーズしていたかと思うと、くしゃりと顔を歪ませて笑いながら涙を流した。
ああ……また、泣かしてしまった。




