染まりゆく体
申し訳ない気持ちになりながら、エリシアちゃんに向き直る。
「ごめんね、エリシアちゃん。自分で脱ぐから待っ……」
待っててね。と言いかけたところへ、エリシアちゃんの手が襟元に伸びてきた。そしてそのままリボンを解かれ、制服のボタンが外されていく。
「え、えっ、エリシアちゃん……???」
「以前に庶民の暮らしを学んだとき、使用人のいる生活を送っていないと知りましたわ。異性のいる前では、抑も服を脱がないことも。ですからこれからは、わたくしがニーナの服を脱がして差し上げますわね」
「えぇ!?」
どうしてそうなった……?
にこにこしながら言われて、止めるべきなのかどうなのか迷ってしまった。公爵令嬢に着替えを手伝わせるなんてとんでもないと思う一方で、身分なんて関係なく接したいって言っておきながら、自分の都合で相手の身分を意識させるのは違うのではとも思う。
そうこうしているうちに、上半分は綺麗に剥かれてしまった。
「こちら側には見当たりませんわね……後ろを向いてくださる?」
「は、はい……」
言われるまま後ろを向くと、エリシアちゃんの指先が腰をなぞった。
「ひゃうっ!?」
びっくりして振り返ると、エリシアちゃんはくすくす笑って「ごめんなさい」と口では言いながら、私のスカートをストンと容赦なく落とした。
すっかりパンツ一丁なわけだけれど、自分で後ろは見られないから、エリシアちゃんに見てもらわないといけない。もう一度後ろを向いて、しっかりと背面を見せる。
「それで、その……そこになにかあった……?」
「ええ、思った通りでしたわ」
改めてエリシアちゃんと向かい合うと、ぎゅっと抱きしめられた。
「ロザリオ先輩の刻印が、ここに刻まれていますわ」
「ひぅ……!」
またもびっくりして、変な声が出た。
エリシアちゃんの指先が、私の腰をつうっと撫でる。その形は、胸にある聖女の刻印と似ていて、ハート型に蔦のようなものが絡みついた形をしている、っぽい。指が触れる度ゾクゾクして、私は思わずエリシアちゃんにしがみついた。
指がくすぐったいのも気になるけど、それ以上に気になることがある。
「せ、聖女の印って、一つだけじゃなかったの……?」
「持って生まれる印は一つですわ」
「? どういうこと?」
エリシアちゃんの手が、今度は私の胸にある印に触れる。腰のほうはくすぐったいだけだったけど、胸の印に触れるとそこが熱くなって体の中に力が満ちる感じがする。
「たとえ聖女様がお相手といえど、永遠を共にしたいと本心から願うのは簡単なことではありませんわ。更に国を護る運命も背負うとなれば、尚更……」
「うん……それはそうだよね」
だからこそ、ゲーム中でも三年かけて相手を選ばないといけなかったんだし。それに、ハーレムルートは聖女としてというより、何ていうか、宿命とか関係なく愛されルートなふわっとした終わり方だったから、複数の騎士は想定されてないと思ってた。
「それでも、稀に多くの騎士を惹きつける聖女様が生まれるそうなのです。……いまの、ニーナのように」
「わ、私……?」
そんな、大それたことをした覚えはないんだけど、エリシアちゃんは真剣そのものだ。お世辞とかじゃなく、本当にそう思って言っている。
「生まれついての印は、既にわたくしの色に染まっていますわ。そして腰に刻まれていた印は、ロザリオ先輩の色に……恐らくですけれど、殿下もそのうち……」
「えっ、待って。さすがにそれは……」
ないとは……正直、言い切れない。王子のルートも存在自体はしてるから。
でも、だからってふんわりハーレムルートじゃなく、複数の騎士を抱えるルートなんてさすがに想定外というか。抑もエリシアちゃんが騎士候補になっちゃってることだって、ゲームだったらあり得ないことだっていうのに。
「前にも、複数の騎士と契約した聖女様はいたの?」
「お一人だけいたと記憶しておりますわ。あの……歴代で最も絵に描かれたという」
「ああ、あの……もの凄い綺麗な人」
エリシアちゃんやエリシアちゃんのお母さんみたいな、高貴で清廉な雰囲気の美人だ。確かにあれほど綺麗で、しかも歴史に残るくらい多くの人に愛された人なら納得出来る。
納得出来るからこそ、私が歴代二人目らしいことには納得出来ない。本当、なんで?
「ふふ。納得出来ないお顔をしていますわね」
「うっ……だって……エリシアちゃんならわかるけど、なんで私……」
思ったままをポロリしたら、エリシアちゃんは「まあ」って零して恥じらった。
「ニーナにほめて頂くのはうれしいのですけれど、ニーナもご自分の魅力に気付いて良い頃だと思いますわ」
「私の……?」
不思議そうに首を傾げると、エリシアちゃんはにっこり微笑んだ。そして逆再生をするみたいにスカートを拾って私に穿かせ、ブラウスを肩にかけた。
「わたくしも殿下も、何の魅力もない人を、好きになることはありませんわ」
「そ、れは……そうだと思う、けど……なんて言うか、自分のいいとこって自分では案外わからないというか……」
私だって、努力してきたところとか、ここは人に負けたくないってところはある。でもそこがそのまま人から見た魅力になるかと言われると、そうとも言い切れないじゃない。
実際私は、運動が好きで活発だった性格を疎まれて生きて来たんだから。
「でしたら、わたくしが教えて差し上げますわ。どれから申しましょうかしら」
難しい顔をして考え込んでいたら、エリシアちゃんが明るい声でそう言った。ぼんやりしているうちにいつの間にか着替えが完了していたことにも驚いたけど、いまなんて?
「私の……?」
面食らっている私をよそに、エリシアちゃんは指折り数えながら楽しそうにしている。これは、照れ殺される覚悟をしたほうが良さそうだ。




