猫の集会場と化した聖女
召喚魔法が成功したら、精霊たちに学園の敷地にある、魔法生物育成用の森を案内する時間になる。……んだけど、フェリシエラは大きいので一番最後について来てくださいと先生に言われてしまって、最後尾を一人で歩いている。
精霊は真名を主人にしか明かさないのと、学校で召喚した子供の精霊とは仮契約で抑も真名を教えてもらえないから、仮の呼び名をつける必要があるんだけど。私は抑も小さい子猫の精霊を喚ぶつもりで名前を考えていたから、大精霊相手には可愛らし過ぎる命名になってしまった。
その名もフィリア。イストリア語で「私の天使ちゃん」的な感じの意味だ。海外ドラマなんかで言う「スイート」とか「ハニー」に近い。
「フィーちゃん、皆みたいに小さくなれないの?」
前方を行く皆の背中を眺めながら傍らのフィリアに語りかけると、一瞬の間があって、フィリアの体を淡い光の粒子が包んだ。そして、一般的な大型犬ほどのサイズになると、私を見上げて「どうよ」と言わんばかりの顔をした。
「わ、凄い! それくらいならお部屋でも一緒にいられるね」
私の声で気付いたエリシアちゃんが、予定通り呼び出したリヴェイエと連れ立って私の傍まできた。
「ニーナ、無事召喚成功して良かったです」
「あはは、ありがとう。なんか成功しすぎちゃったけどね」
「大精霊を召喚出来るなんて滅多にないのですから、誇って良いことですわ」
自分のことのようにうれしそうな顔で言うエリシアちゃんの肩には、金色の羽の可愛い小鳥が止まっている。エリシアちゃんが笑うとそれにつられて歌声を奏でる小鳥は、既にエリシアちゃんに懐いているように見えた。
「エリシアちゃんの鳥さんも可愛いね。名前はつけたの?」
「はい。クラジェといいます。普段はクーと呼ぶことにしました」
「クラジェちゃんか……格好いい名前だね」
「ありがとうございます」
エリシアちゃんがお花を飛ばしながらふわふわ微笑む。可愛い。
クラジェって、勇気とか初めの一歩みたいな意味だったはず。エリシアちゃんにしては勇ましい名付けで意外だったけど、それはそれで似合ってると思えるから凄い。
「あら。ゼフィラさん。今日もここにいたのですね。授業ですから、通りますよ」
森の前まで来ると、先生が入口に向かって声をかけた。なにかと思って見れば、入口のところに誰かいるみたいだった。その人影は無言のままに場所をあけて、なにも言わずに佇んでいる。
先生の案内で森へ入るとき、その人の姿が見えた。
(あ、シャーディ先輩だ……)
横目で見ながら、傍を通り抜けるとき、シャーディ先輩もこっちを見た。私というより私の傍にいるフィリアを見たようだったけど、何だろ。
シャーディ先輩も攻略キャラで、黒髪に金色の瞳と褐色肌という野性味溢れる姿をした人だ。滅多に校舎にいないため、遭遇するには昼の時間に森とか中庭とか果樹園なんかの自然がある場所に行く必要がある。
口数が少ないけど根暗なわけじゃなく、獣人種族だから人と関わることに慣れていないだけだって、物語を進めるうちに知っていったっけ。私はゲームで何度も周回して先輩のことを知ってるけど、当然ここにいる先輩は私のことなんか知りもしないので、知人面をしないように気をつけないと。
「さあ、つきましたよ。この大樹が大地の大精霊と繋がっている、精霊樹です。皆さんの精霊は、時折ここで自由に過ごさせる必要があります」
精霊樹は、某アニメで見た楠みたいに大きい。根元に大中小のもふもふの妖精がいてもおかしくないくらい、もの凄く大きい。
「では、精霊にひとときの自由時間を与えてください。皆さんも、この精霊樹広場に限り自由時間としますので、ゆっくり精霊と心を通わせるように」
先生の合図で、生徒たちが相棒の精霊たちを森に放った。子精霊たちは故郷に近い環境だからか、のびのび飛び回って遊んでいる。
でもフィリアはさっき長老って言ってたし性格も落ち着いてるからか、私の傍で優雅に毛繕いをしていて、全然遊びに行かない。まあ、寛いではいるみたいだからいいのかな。
「フィーちゃん、大地の大精霊さんとはお知り合い?」
――――そうさな。腐れ縁、と言っておこうか。
そう答えたフィリアの声と顔は、凄く穏やかで優しかった。きっと、本当なら一言では言い表せない相手なんだろうなって、鈍くさい私でもわかるような。
フィリアと一緒に木の根元でまったりしながら、小鳥と戯れる私の可愛い天使を眺めていると、隣にスッと誰かが立った気配を感じて顔を向けた。
「え……ゼフィラ、先輩……?」
隣にいたのは、シャーディ先輩だった。両肩に小鳥を乗せて、足元に私が本来呼ぶ予定だったシエラ族の子精霊がいて、頭上には子リスに似た魔法生物もいる。先輩の視線は、相変わらずフィリアに向いていて、なにか気になることがあるようだった。
「あの……フィーちゃんがどうかしましたか……?」
「ふぃーちゃん」
私の言葉を復唱して、不思議そうに首を傾げる。そんなシャーディ先輩に答えるように尻尾を振ると、フィリアは私の膝に顎を乗せてきた。自由だ。
そしてシャーディ先輩も、私の隣に腰を下ろしてきた。こっちも自由だ。
「えっと……この子? は、シエラ族のフィリアちゃんです」
「ふぃりあ。おれのも、シエラ族。シファー」
「可愛い名前ですね」
「うん。可愛い。フィリアも」
「ありがとうございます」
先輩にお礼を言ってフィリアを見ると、当然だろうとでも言いたげな顔だった。
これだから、猫っぽい動物は好きなんだ。フィリアは大精霊だけど、仕草はにゃんこ様そのものでとても可愛い。そして先輩も、ネコ科っぽい雰囲気でとても可愛い。
私の周り、可愛いもので溢れすぎててしあわせすぎる。




