召喚魔法ともふもふ生物
「お待たせしました。授業を開始します」
やっと先生が合流し、半ば休み時間状態だった空気が引き締まった。
「事前にお伝えしている通り、本日は使役魔法を実行して頂きます。まずグループごとに場に立ち、魔法陣を展開、詠唱と同時に心の中で精霊界に語りかけてください。使役とは言いますが、高圧的な態度では、精霊は応えてくれません。協力を求める立場にあるのはこちらなのですからね」
「はい、先生」
さすがに初めて異界の住人を呼び出すとあって、皆緊張気味だ。私もドキドキしてる。
「では、第一グループの方は位置についてください」
六人ずつ所定の位置につき、魔法陣を展開する。目を閉じ集中して、呪文を唱えながら呼び出したい精霊の名と姿をイメージする。精霊がそれに応えれば、呪文詠唱完了と共に魔法陣が発光して、光の中から精霊が姿を現す。
「出来ましたわ……!」
「これが、本物の精霊ですのね」
最初のグループは問題なく呼び出せたみたいで、皆それぞれ初めてのパートナーに命名したり戯れたりしている。こうして見ると普通の女の子っぽいんだけどな。
「次、位置についてください」
先生の合図で、次のグループと入れ替わった。
そうして何組も召喚を成功させていって、ついに私とエリシアちゃんのグループの番が来た。
「まずは、魔法陣を展開してください」
先生の合図で、習った通りの手順で杖を振り、魔法陣を展開。目の前にぼんやりと光る魔法陣が現れたのを確かめると、次は呪文の詠唱に移る。呪文を無理矢理現代語訳するとしたら「異なる世界の賢者であるあなた方に、お願いがあります。どうか、私たちに力を貸してください」みたいな感じだろうか。
先生が言っていた「お願いする立場」は、この呪文にも表れている。
呪文を詠唱しながら、私は教本の挿絵で見た可愛いもふもふを思い浮かべた。真っ白な毛並みの、長毛にゃんこに天使の羽が生えたような姿の可愛い子だ。一目見た瞬間、私は目が離せなくなっていた。挿絵であれだけ可愛いんだから、実物はもっと可愛いはず。
無心で祈っていると、魔力が膨張するのを感じた。
「お願い――――……!」
バサバサとローブが風に靡き、髪が巻き上げられる。魔法陣が強く発光し、目を開けていられなくなったとき。
――――我を喚んだか。
頭の中に声が響いて、体中の魔力がさっきとは比じゃないくらい一気に膨れ上がるのを感じた。
待って。
手乗りの精霊を喚ぶだけで、こんなに魔力が暴走することってあったっけ?
私の疑問は、光が収束したとき、解消されることとなる。
目の前にいたのは、本校舎二階にまで届きそうなくらい大きなもふもふだった。
「え……ええぇ!?」
こんなサイズ感だった?
挿絵の横に書かれてあった解説文を見た限りでは、皆が召喚してる子たちと変わらない手乗りサイズだったはず。少なくともこんな大仏サイズではないし、こんな大きい精霊を一年が呼べるとも思えない。なのに、目の前には巨大なにゃんこ。
――――にゃんこではない。我が名はフェリシエラ。求めに応じ、参じた次第。
また、頭の中に声がした。男とも女とも大人とも子供ともつかない、不思議な声。胸に響く鐘の音にも似た、荘厳な声。
私は自然とお辞儀をして、にゃんこ……もとい、フェリシエラを見上げた。
「来てくれてありがとう。精霊界にも学校でのことは伝わってるって聞いたんだけど……その……あなたも子供の精霊さん……?」
フェリシエラはゆるりと首を振った。
――――我は天空を司る大精霊。いまとなっては、我を召喚出来るほどの強大な魔力の持ち主は、なかなかおらぬゆえ。
「……暇だった?」
今度は頷いた。
――――長老などと呼ばれ持て囃されようと、使われぬ力はないも同然。我が力、主に託そうぞ。
そういうと、フェリシエラはお座り状態から箱座りの形になり、私に頭を差し出した。正直頭部だけでも滅茶苦茶大きいから、撫でようとして背伸びをしても鼻梁がやっと。
でも何とかして額に触れると、触れたところに契約の紋様が浮かび上がった。
「……キリエさん」
ふと、先生の声がフェリシエラの後ろから聞こえて、ハッとなった。
そうだ。まだ授業中なんだった。
先生がフェリシエラの周りをぐるっと避けて、私の傍に立つ。と、フェリシエラは体を起こしてまた見下ろす格好になった。
「せ、先生……これは、その……」
「キリエさん、あなた、こちらの大精霊を喚ぼうと思って喚んだのですか?」
「いえ……シエラ族であることに変わりはないんですけど……思ってたサイズ感と違って私も驚いているといいますか……」
チラッとフェリシエラを見上げると、便宜上の彼は、ふんと鼻を鳴らし、自由気ままにふさふさの尻尾を揺らして、周囲を見回した。いつの間にか皆遠巻きになっていて、私の周りには先生とフェリシエラだけになっていた。
あれに薙ぎ払われたら、他の生徒が喚んだ精霊なんて軽々と吹き飛んでしまいそうだ。っていうか、生徒も吹き飛ぶと思う。
「……わかりました。喚んだ以上、あなたのパートナーです。大事になさい」
「はい」
この一連のドタバタを四階の教室から王子たちが見ていたなんて、このときの私は全く知る由もないのだった。




