華やかな地獄
――――パーティ当日。
一年生の令嬢たちは、上級生が待ち構えている中、各自の従者さんにエスコートされて会場入りをすることになっている。だからか、この日ばかりは従者さんたちもそれなりの格好をしていて、顔面偏差値も高い人が選ばれるらしい。
従者さんがいない私は独り寂しく入場するつもりでいたんだけど、ダンスホール近くにある控え室で着替えさせてもらったあとも、カミルさんが退室しなかった。
「お手をどうぞ、ニーナお嬢様」
全体的に解像度が高い美男子に、にこやかにそんなことを言われたら、普通はときめくポイントなのかも知れない。でも私は、なんでカミルさんが私のエスコートをとか本物のお嬢様はいいのかとかそっちばかり気になって、間抜け面を晒してしまった。
「エリシアお嬢様には別の者がついておりますので、ご安心を」
「あ……そっか、そうですよね……」
言われてみればそうだ。
安心した私は、教わった通りに手を取って、会場へ向かう列に加わった。
会場入りしたあとは従者さんたちは即座に退室して、一年生だけが残される。そうしてダンスの相手を待つんだけど、私は端から男の先輩と踊る気なんてなかったから、早々に壁際へ避難した。
「皆、凄いなぁ……」
嫌味なお嬢様も、名前も覚えていないようなお坊ちゃんも、皆当たり前に踊っている。一年生だからってぎこちない様を晒したりしない。誰が相手でも息を合わせてステップを踏んで、優雅にドレスを翻している。
そうして眺めていたら、会場がざわっとなって一点に視線が集まった。
「あ…………」
エリシアちゃんだ。
ぽっかりと出来た空間の真ん中。エリシアちゃんが赤い髪をした知らない先輩と踊っている。……いや、知ってはいる。彼は攻略対象の一人だから。
パッケージの中でも目立つ位置に大きく顔が描かれていた人物。イストリア王国王子、オーギュスト・グレイヴローズは所謂俺様キャラで、シナリオ開始時はエリシアちゃんの婚約者でもあるから、周りの玉の輿狙いの令嬢たちも一歩引いて見守っている。さすがに公爵令嬢相手に喧嘩を売るほど、剛毅なお嬢様はいないらしい。
王子様と将来のお姫様が踊っている姿は、一見完璧でお似合いに見える。
ただ一つ。エリシアちゃんの表情が、どこか物憂げなことを除けば、だけど。
一曲踊り終え、優雅に一礼したところで周りから拍手が湧き起こった。
あまりにも絵になりすぎる光景で、思わずぼうっと見つめていたら、王子と目が合ってしまった。王子はフッと笑うと、こっちに足を踏み出した。
人の群が左右に割れて、花道になった中を真っ直ぐ歩いてくる。そして、
「貴様は、確か月の聖女と言われている平民の娘だったな」
私の正面に立って見下ろしながら、不遜な態度丸出しで言った。
「……そうですけど」
だから何だと言うんだろう。
獰猛な肉食獣みたいな金色の目が、私を値踏みするかのように見つめてくる。
「オーギュスト、その子が例の?」
怪訝に思って見上げていると、王子とは別の声が置くから聞こえた。
王子の背後から顔を覗かせたのは、侯爵子息のロザリオ・ディモルフォスだ。お手本のようなナンパ男で、エリシアちゃんの金髪とは違った印象の、もっと派手な黄金色の髪と碧色の瞳をした優男。身分が上の王子にも気安く話しかけ、王子もそれを咎めることなく相手している数少ない人物だ。
「全くそうは見えんが、どうやらそうらしい」
「へえ。可愛い子じゃない? エリシアお嬢様とお揃いってところもいいよね」
「大方、エリシアの引き立て役に用意させたのだろう。平民にドレスが用意出来るはずもないのだからな」
「あはは、本人の前で言ったら可哀想だよ~」
イチャつくなら余所でやってほしいんだけど。
そう思いながら、王子たちから目を逸らして会場を眺めていると、王子に顎を掴まれて無理矢理上を向かされた。
「貴様、この俺が目の前にいるのによそ見とはいい度胸だな」
「別に私は、王子に用はありませんので」
「なっ……!」
あと、さっきからロザリオ先輩と話してて、私に用があるわけでもなさそうだったし。会話してる二人をじっと見つめてるのも変じゃない。
なのに王子は、私の言葉が信じられないみたいな顔で固まっている。そうかと思えば、凶悪な笑みを浮かべて、私に手を差し出した。
ほんとその顔、何とかならないのかな……一国の王子が悪人面とかどうかと思う。
「貴様になくとも、俺にはある。一曲踊れ、聖女とやら」
「は……?」
ああ、思い出した。
なにかと思ったけど、王子によるヒロインの晒し者イベントだ。
周りは私たちに注目していて、平民なんかに王子がお誘いをするなんてって感じの人もいれば、あの場違いな女がどんな恥を晒すのかと楽しみにしてる人もいる。
イベントをこなさないで逃げたらどんな異変に繋がるかわからないし、なによりここでじっとしているのもそろそろ飽きてきたから、私は王子の手を取った。




