パーティイベント
ある日の、放課前のHRでのこと。
担任のエミール・インカルナータ先生が、来月にダンスパーティがあると告げた。
これもイベントにあったもので、毎年この時期に開催される、一年生の歓迎会も兼ねたパーティだ。先輩が一年生を誘ってダンスをする習わしで、ヒロインは最も好感度が高い男子と踊ることになるんだけど、一年のこのイベントは所謂負けイベントみたいなもの。好感度なんか前期で稼げるわけもなく、エリシアちゃんや他の貴族令嬢が踊っているのを壁際で眺めて「いつか私もあんなふうに……」ってモノローグが入る感じ。
抑も私はダンスなんて全く習ってないし、攻略対象とも遭遇しないまま来ちゃったから負けイベントどころか空気が確定しているわけで。いっそすっぽかしてしまいたいとすら思っている。
「……では、当日までにドレス等のご用意をお願いしますね」
上の空で聞き流していたら、HRが終わった。
ダンス用のドレスとか平民に用意できるわけないじゃない。ゲームでは学園が用意したモブたち令嬢と同じグラフィックのドレスを着てたけど、今回はどうなるんだろう。
そうぼんやり考えていたら周りもやっぱり同じようなことを思ったみたいで、いつものBGMが聞こえてきた。
「あの平民はどうなさるおつもりなのかしら」
「いっそのこと、給仕でもなさったら宜しいのではなくて」
「それがよろしいですわ。そうすれば余計な恥もかかずに済むでしょうし」
なるほど、その手が。
モブ令嬢BGMたちもたまにはいいこと言うじゃないのって思ってたら、私の隣にいたエリシアちゃんが、じっとこっちを見つめてきた。
「ニーナ、このあとわたくしのお部屋に来てくださらない?」
「え、うん、いいけど……」
なにかあったかなって思いながらも、エリシアちゃんに手を引かれるまま寮の最上階にある、例のお姫様部屋に向かった。
「戻りましたわ」
「お帰りなさいませ、エリシアお嬢様。ニーナ様も、ようこそお越しくださいました」
「お邪魔します」
相変わらずお部屋は可愛いし、従者さんはにこやかに私を迎えてくれる。
そういえば、従者さんに名前を聞いたら、エリシアちゃんのお世話係は全員同じ名前を共有しているって言ってた。何でも、お嬢様と従者が良からぬ仲にならないために、個を識別させないように昔から決まっているらしい。因みにメイドさんたちにも同じ決まりがあって、役割毎に名前があるみたい。食器係は「アン」掃除係は「リズ」みたいに。あと用事を言いつける度に長い名前を呼ぶのは面倒だから、メイドさんは二文字って聞いた。
それで、エリシアちゃんのお世話係でついてきた従者さんは全員「カミル」さんで統一されているので、目の前の従者さんも先日会った別の人も皆カミルさん。
「それで……どうしてお部屋に?」
連れてこられた理由がわからずエリシアちゃんに訊ねると、エリシアちゃんはにっこり微笑んで私の両手を握った。
「採寸を致しましょう」
「はぇ……? 採寸? なんでまた……」
「ニーナ、ダンスパーティ用のドレスはお持ちですの?」
「も……持ってない……」
エリシアちゃんが何だか楽しそうにしているのがわからなくて、若干引きつつ答える。私がドレスを用意出来ないことを喜ぶような、歪んだ性格じゃないのはわかってる。ならなんで、こんなに楽しそうなんだろう。
「では、わたくしが見立てても構いませんわね」
「えっ…………えぇ!?」
驚く私を余所に、エリシアちゃんの意志に忠実なカミルさんがメジャーを構えていた。いつの間に。
「さあニーナ、お覚悟なさいまし。わたくしのお部屋に入った時点で、ニーナに逃げ道はありませんのよ」
「エリシアちゃん!??」
なんでいまちょっと悪役っぽさを思い出したように表わしてきたの?
そんなエリシアちゃんも可愛いからいいけど。
困惑する私の背中を、カミルさんがずいずい押して鏡の前まで誘導していく。そして、いつもはエリシアちゃんがお召し替えしてもらっているところまで来ると、カミルさんが背後に立ってメジャーを当ててきた。
「エリシアお嬢様は、ニーナ様とのパーティを楽しみにしておいでです」
それは、まあ、何となく伝わってくる。私も、もし逆の立場で初めてのお友達とダンスパーティに出られるって思ったら、はりきって色々用意したくなると思うし。
横目でエリシアちゃんのほうを見ると、ソファに座ってお茶を飲みながらも、何となく落ち着かない様子でそわそわしているのが見えた。
「それに……」
採寸をメモに控えながら、カミルさんが小声で囁いた。
「……公爵家が用意したドレスをお召しでいらっしゃれば、ニーナ様もある程度悪意から守られることでしょう」
なるほど。
着ているのが平民でもドレスが公爵家のものなら、飲み物をぶちまけたりアクセサリが引っかかった振りして破いたりみたいなことは、気持ち的にやりにくくなるのか。
またエリシアちゃんに守られることになるんだなぁって思いつつ、こういう場で自分が何の役にも立たないのは、これまでの生活でうんざりするくらい自覚している。だから、今回もエリシアちゃんの優しさに甘えることにした。




