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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第5章「冬の夜明け」
85/156

5─VII

(って)ぇ!!」


 石像のような硬い表皮を持つ飛行タイプの魔物──ガーゴイルが有効射程圏内に入るのと同時に、王国兵達が開戦の合図を出す。

 それと同時に襲い掛かるのは、スキルによって風の影響を受けない貫通矢と化した弓矢の雨に、攻撃魔法。そして、城壁に設けられた幾門もの魔導砲から打ち出される、近接戦闘組の魔力によって生成された砲弾。

 それらの容赦ない攻撃が、ガーゴイルの身体を撃ち抜いていく。

 だが、城壁の巡回路に陣取っている都合上、そこまで大きな隊列が組めるわけでは無い。

 ガーゴイル達は、じりじりとその距離を縮めつつあった。

 しかし──


「よしっ、今だ! 魔凝砲(まこうほう)ーーーッ!!」

「「「「「はーーーーーッ!!!」」」」」


一人の合図を皮切りに、熟練の冒険者達が魔力を溜めていた両手の平を射程範囲内に入ったガーゴイル目掛けて突き出し、そこから琥珀色の光線が射出される。

 そして、あちらこちらから射出された光の筋がガーゴイルを捉え、その石の皮膚を軽々と貫通し、その射線の行く先に居た個体をも巻き込んでその命を刈り取ってゆく。


 だが、それでも群れの勢いは衰えを見せず、ガーゴイル達はいよいよ城壁から目と鼻の先の距離まで侵攻する。


「支援魔法……全種付与っ、完了、しました……っ!」


 ガイア達の体に力が(みなぎ)るのと同時に、各種能力の底上げのために殆どの魔力を使い切って疲弊したミラの声が届く。


「ミラさん、ありがとうございます!

後は任せて、避難を!」


 地上──正確には大地の土から三十メートルを越えているこの場所では、魔力は自然回復しない。

 ミラはその言葉に対して一言「ご武運を!」とだけ言い残し、町に降りるための階段へと向かって駆けて行った。


 そして、実力では敵わない者達や、支援効果の付与が終わった援術士達の退避が完了し、階段の扉が閉められる。


「各自散開!」


 どこからか聞こえた指示に従い、ガイアは魔導砲から離れつつ得物を鞘から抜き、臨戦態勢を取る。

 弾幕を潜り抜けたガーゴイル達は、既に巡回路の石畳の通路へとその足を着け始めていた。


 ──それから間を置かずして、本番開始の号令が下される。


「絶対に通すな!! 一匹残らず殲滅しろ!!」


 巡回路の背中側には、自分達が暮らしている場所がある。

 だが、地上からの高さの関係上魔力が自然回復しないため、魔力管理には特に気を配らなければならない。

 あまりにも背水、かつ水際の作戦。

 だが、現状ではこれが精一杯の対空防御の手段であった。


 そして、戦いが敵味方入り乱れての混戦と化すのにそう時間が掛からなかったことは、当然と言うべきだろう。

 ガイアは先程、砲台から散開した際にルームメイト達と離れてしまっており、ガーゴイルと一対一で戦闘する状態に陥っていた。

 ガイアは自分へと振り下ろされた尖爪をすんでの所で躱し、反撃する。


「"甲斬(ラプサ)"!!」


 チェーンソーのように回転する魔力の刃を宿した剣を、ガイアは頭部を目掛け、振り下ろす。

 だが、ガーゴイルの討伐難度は単体でも"D+"。

 上級職の身体能力をありったけの支援魔法と魔闘衣で上乗せしてはいたが、"ガギ……ッ!"という鈍い音と共に剣の一閃が左の爪で防がれてしまい、傷を与えるには至らない。

 だが、ガイアはそれを無理矢理押し込み、ガーゴイルに隙を生み出そうとする。

 しかし、ガーゴイルはすぐさま先程の攻撃に使った右腕の尖爪で、ガイアの眼球を抉ろうとする。


「くっ!」


 咄嗟に身体を引き、ガーゴイルの腕が眼前を掠めた。

 はらりと黒い髪が宙に舞い、それが落ち始めるのを待つこと無く、ガーゴイルはその凶器(尖爪)を続けざまにガイアに振るう。

 当たる攻撃も散見される物の、胸当てや肩当てが鈍い音を立て、その攻撃の被害を大きく防いでいた。

 だが、本来なら格上の相手とあって、一部の防具には亀裂などの無視できない損傷が目立ち始めていた。

 琥珀色の闘気を滾らせているガイアは、その戦闘を冷静に分析する。


(ギリギリだな……。決めるなら、一撃か)


 開戦と同時に、ガイアは全身に琥珀色の闘気──魔闘衣(マトイ)を張り巡らせていた。

 だが、その強化可能な倍率は僅か"1.1倍"である。

 しかし、たかが10%、されど10%であり、現状「楽に勝てる」とは言えないものの、無ければ恐らく勝てるかどうか本当に分からなかっただろう。


(今だッ!!)


 ガーゴイルの尖爪を、ガイアは左腕の小盾(バックラー)で受け止め、そのまま左腕を素早く回してガーゴイルの腕を掴んだ。

 そして、そのまま手前へと引き込んだガーゴイルを床へと引き落としし、立ち上がろうとする背中を足で踏みつけて組み伏せた。


「だっ!!」


 ガイアは剣を素早く上下反対に持ち替え、その荒々しい掛け声と共にスキル名を宣言せぬまま"徹甲斬(ブレイク・ザン)"を発動し、その剣を首へと突き立てる。

 石のような表皮の内側にある柔らかい箇所を剣は容赦なく貫き、ガーゴイルはピクリとも動かなくなった、

 全力を出してどうにかとどめを刺せた事に、ガイアはほっと安堵する。

 だが、大混戦の最中、気を抜いている余裕は無い。

 剣を抜き、ガイアはすぐに周囲を見渡す。

 そして──こういった戦闘では不向きな長さの得物のせいで、上手く全力を出せていない相方と、シェアハウスの仲間達の姿が目に映った。

 アスナの着ている防具もまた引き裂かれ、防寒加工した裏地の皮が亀裂から露出し、その内の数カ所から鮮血が(にじ)んでいた。

 ガイアは剣を逆手に持ち変えながら、射線上に立っている戦闘員達と、その向こうの相方に向かって叫ぶ。


「射線を開けて下さい!!

アスナ、伏せろッ!!」


 その声が響いて数瞬、ガイアと標的の間に道が作られ、アスナがその場に素早く伏せる。


「行っけぇ!!」


 ガイアはスキル名を宣言せずに徹甲斬を発動しておいた剣を、大声と共に思いっ切り投げつける。

 先程までアスナの身体があった場所を通過した剣は、ガーゴイルの右上腕と右翼の皮膜を貫通する形で突き刺さり、その激痛にガーゴイルは思わずたじろいでしまう。


「だぁッ!!」


 その体勢が崩れた一瞬を見逃さず、トーマスが気合の一声と共に(メイス)でガーゴイルの足を払い、転倒させる。

 そして、フェズの声と共に紫色の小さな雷が転倒したガーゴイルの顔面に落ち、ガーゴイルがそのまま痙攣し始める。

 そして、フェズの後ろからシュウが飛び出し、ガーゴイルの石の皮膚越しの首へと、その剣を振り下ろした。

 

「大丈夫ですか!?」


「ああ、助かった!」


 そんなやり取りを素早く交わし、ガイアはルームメイト達の元へと合流し、ガーゴイルに刺さったままの剣を抜く。

 だが、片手半剣(バスタードソード)の細長いその刀身は、元となった材料がその負荷に耐えきれなくなり、ボロボロに欠けている。

 砥石等でのメンテナンスも欠かしていなかった剣であったが、それでも限界が来てしまったのだ。


 更に、ガイアが剣を引き抜くのと同時に一同に掛かっていた支援魔法が制限時間に達したことで効力を失い、一同は身体から魔力が外へと抜けていく感覚に襲われる。


「ここまでだな……。撤退するぞ!」


 トーマスのその言葉に、一同も頷く。

 ガイア達は戦場の合間を縫い、階段の扉目掛けて撤退を開始した。


 だが、その扉に到着目前まで迫ったところで、一同は本能から得物を構え、その相手の方へと向き直る。

 それは、"目を離せば殺される(・・・・・・・・・)"と、危険を察知した本能が警鐘を鳴らしていたからに他ならない。


 一同の視線の先には、ガーゴイルの変異種・ヘカトンゲイルが、周囲に惨殺した人間(同業)の死体を積み上げた状態で佇んでいた──。

砥石:刃物を研磨するための石。冒険者や傭兵は、これを専用のポーチに入れて持ち運んでいる。

一生使い続けることが出来るが、実は水に濡らさないと研磨に使用することが出来ない。




─用語データ─


◎魔導砲

魔法具の一種。充填した魔力を使って砲弾を射出する大砲。




─スキルデータ─


魔凝砲(まこうほう)

魔力体術の部位強化を極めて初めて使用可能になる、汎用中距離攻撃スキル。

手から()が出る。琥珀色の波が出る。

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