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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第4章「流れよ我が涙、とガイアは言った」
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4─XIV

「あら、珍しい取り合わせね」


 ラウンジに姿を現した二人を見て、少女は少し驚いた様子でそう言った。

 ガイアとイーシスは四人席テーブルの空いた椅子にそれぞれ着席する。

 そして、少女は本にしおりを挟んで閉じると、自分の対面に着席したイーシスにこう尋ねた。


「一体どういう風の吹き回し?

あんたがゼンおじさん以外の男の人と連れ立って歩くなんて、今日は空から煉獄球(ボルケーノ)が降るんじゃないの?」


 普段のイーシスからは考えられない行動に、少女はジョークを交えて言葉を掛ける。

 しかし、イーシスは普段通りの調子だが、ガイアはやや深刻そうな顔つきをしている。

 少女は「これは何かあるな」と思いながらも、イーシスの返事を待ち──それは、間もなく帰ってきた。


「いやなに、男同士の友情と言うのも、たまには悪くないと思ってね。

それと……、今回彼を連れてきたのは、君の為でもあるんだよ」


「私の……?」


 まさかと思いながらも、少女は確認するように訪ね返す。

 そして、直後にイーシスの口から紡がれたのは──


「彼に、君の事を話したんだよ。

君がどういう境遇なのか……、どういう思いを抱いているのかって事をね……」


その言葉に、いつもの調子のいい男の影は微塵もない。

 三人の間に数秒の沈黙が訪れた後、少女は静かに自身の右斜め前に着席していたガイアに問いかける。


「……あなた、自分から聞いたの?」


 少女は、自分の気持ちを全く考慮せずに自分の事を知ろうとするような輩が大嫌いだった。

 それに、ガイアは踏み込んでほしくないことに対しては踏み込まずにいてくれる、そういう人物だったはずだと信じていたからこそ、少女は憤りを禁じ得なかった。

 しかし、ガイアは申し訳ないと言った表情で、少女に聞こえる静かな声でこう言った。


「先に言っておくよ。

俺は、君のそういう個人的なことを詮索するつもりは全くなかったんだ。

イーシス先輩が、自らの意思で俺に明かしてくれたんだ。

君が自分の名前を嫌う理由も……、親族からどういう扱いを受けていたのかも……、全部」




◇ ◇ ◇




 きっかけは、病室に本を置きに戻った時のイーシスとの会話だった。


「──もしも君が、本当にアスナちゃんのようなべっぴんさんを連れて帰ったら、君を生んだご両親はどんな顔をするだろうね……って、すまない、君は──」


──親族の事を覚えていないんだったね。

 そう言おうとしたところで、イーシスは言葉を止めた。


「……っ!!」


 イーシスが軽く発したその言葉に、ガイアは思わず息を呑み、本能的な恐怖心から全身が硬直してしまう。

 そして、その反応を見たイーシスは、今の自分の言葉の後半部分──特に「君を生んだご両親」の辺りでガイアがその反応を示したという事を瞬時に察するが、同時にその事に対して違和感も覚えていた。


 ガイアは冒険者ギルドに登録した際、ギルドマスターのアドルと「建前上は記憶喪失と事にしておく」という話にするという事で、親族関連の事や一部の知識の無知についての理由づけにしていたのだ。

 そして、その事はガイアと歳が近いギルドメンバーを中心に通知され、イーシスも風の便りでその事を知っていた。

 しかし、親族について覚えていないにもかかわらず、今の言葉に反応したのはどういう事だろうか。

 その違和感の正体を探るべく、イーシスは単刀直入にガイアに話し掛ける。


「記憶喪失じゃ、無かったのかい?」


 その言葉に対し、ガイアは何も返さない。

 だが、その肩が静かに震えている事が、イーシスには分かった。

 その震えは恐怖か、はたまた自分へ向けた怒りの現れか。

 どちらとも判別がつかぬまま、数秒の沈黙が訪れる。


 すると、ガイアは静かにイーシスの方へと向き直り、深く頭を下げてこう言った。


「すみません……。立ち聞きして気持ちいい話でもないので、場所を変えてもいいですか?」


 そう言って、ガイアは病室内の他のベッドへと視線を移す。

 薄いカーテンで仕切られただけの静かな病室では、誰かの会話など丸聞こえになってしまう。

 そして何より、ガイア自身もそれをあまり知られたくは無かったのだ。


 イーシスは静かに頷き、再び先程の屋上扉の前へと足を運ぶ。

 ガイアは少々視線を落とし、その重い口をゆっくりと開く。


「まず……、騙してしまって申し訳ありませんでした。詳しくは言えないんですが、あまり過去を詮索されたくなくて、マスターと話し合った上でそうすることにしたんです」


「……そうだったんだね。

じゃあそうすると、君は……」


「はい……」


 六歳の時に事故で母親が亡くなってから暫く経ったころから父親が自分を虐待の対象にするようになり、その頻度と行為の内容は次第にエスカレートしていったという事。

 保護した施設が母方の親族に連絡を取ったものの、家出同然の状態で結ばれた夫婦だった為に、親族の誰もが大地に手を差し伸べるようなことをせず、養子縁組で差光家に入ることになったという事。

 ガイアはそれらの辛い記憶を思い起こしながら、可能な範囲でイーシスに打ち明けていった。

 すると、それを聞いたイーシスは──


「……驚いたな……」


と、目を丸くさせてそう言った。


「驚いた……ですか?」


「ああ……。身体的虐待と育児放棄(ネグレクト)……、方法や境遇が違うとはいえ、君もニコラちゃんと同じ、被虐待児だった過去があるとは思わなかったよ」


「……二コラ?」


 聞き覚えのないその名前に、ガイアは首を傾げながら聞き返す。

 すると、その問いに対してイーシスの口から紡がれたのは、あまりにも無情で、冷たい真実だった。


「ああ……。例の彼女が呼ばれることを嫌ってる、彼女の本名だよ。

名付けたのは、離縁した彼女の母親で……、"二番目の夫の子供"だから、だそうだ」

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