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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第4章「流れよ我が涙、とガイアは言った」
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4─VIII

無事に退院致しました。

読者の皆様にご心配をお掛けしました事を、深くお詫び申し上げます。


また、苺さんという絵師様より、序─VIに挿絵を頂きました!

皆様、是非一度ご覧下さい(F`・ω・)ゞ

 暗闇の中から目覚める感覚と共に、五感も釣られて鮮明になっていく。

 そして、目を覚ましたガイアの視界に真っ先に飛び込んできたのは、以前一度世話になった覚えがある、白塗りの天井であった。


(あれ……、俺は、確か──)


 そうやって、身を起こそうとしながら意識が途切れる直前の光景を思い出そうとするガイアであったが──


「……っ、づぁ……ッ!?」


突如、脇腹と右腕、そして全身の至る所に激痛が走った為に起き上がることは叶わず、思考が完全に途切れてしまう。

 そして、意識を失う直前に自分の身に何が起こったのか、その際の光景が激痛と共に脳裏にフラッシュバックする。


(そうだ……、俺は……)


 身を起こすことを諦め、首をもたげて右腕を見る。

 あの衝撃で、骨折でもしてしまったのだろう。未だにじんじんと痛みが残る右腕はギプスでグルグル巻きにされ、首の後ろで結ばれた三角巾にその重みを預ける形になってしまっていた。

 更に、自身の胴体にも同様の処置がされているようで、右側のあばら骨も何本か逝ってしまったのだろうと言うことが、容易に想像出来た。


(俺……、生きてる……?)


 その実感を得るまでに、ガイアは数秒の時間を要していた。

 そして、現状を確認するのに精一杯だったせいもあって、部屋の入口から自分の方へと向かってくる人物が居る事に、全く気付けずにいた。


「おー、(あん)ちゃん気ぃ付いたんやな!」


 不意に飛んできたのが聞き覚えのない男の声であった為、ガイアはそれが自分に向けられた物であると言うことに気付くのに、一瞬の間を要してしまう。

 ガイアの顔を見下ろす形で覗き込んでいたその男は、「会うのは初めてやな」と言いながら、ベッドの脇に用意された椅子に座る。


 ガイアは顔を動かし、改めてその男の人相を確認する。

 その髪の毛は燃え盛る炎のような赤色をしており、顔に掛けた丸眼鏡の奥に覗く瞳は狐目である。

 そうした事から、どうも陽気そうな中年ぐらいのオッサン、と言った第一印象をガイアは抱いた。


 しかし、ガイアはその人物にとんと見覚えが無く、こう尋ねざるを得なくなった。


「えーと……、どちら様ですか……?

後、今日の日付って……」


「今日か? 14月1日や。

丸二日間も死んだように眠っとったから、皆心配しとったんやで。

ほんで、おいちゃんはマグナ言う(もん)でな、兄ちゃんと同じギルドで働いとる、言うなれば先輩や」


 そう言いながら、マグナと名乗ったその男は懐からギルドカードを提示する。

 そこには「氏名:マグナ 職業:傀儡士(マリオネッター) 所属:アインハルト王国城下町支部 ランク:S」という表記が、確かに成されていた。


(ん……?)


 赤髪、丸眼鏡、ランクS、そして独特の訛り口調。

 それらの情報に既視感を覚えたガイアは、記憶の引き出しを遡り──すぐに思い当たる物を見つけ出した。


「あっ……、もしかして、ベズアー討伐の依頼の……?」


 その言葉に、マグナは申し訳なさそうに頷き、こう言った。


「せや……。あれを依頼として出すよう申請したんは、おいちゃんや。

危険な目に遭わせてしもて、ホンマにすまんかった」


 そう言って、マグナは深々と頭を下げた。

 今回の依頼のような「予測が困難な事態によって、その依頼に向かった冒険者が何らかの重大な不利益を被った」場合、その責任はギルドと依頼主に課せられる事になる。

 それは、ギルドの契約書にもきちんと明記されている内容であった。

 しかし──


「いえ、こちらこそすいません。入院費を負担させる事になってしまって……」


今回は「撤退可能な安全な状況にも関わらず、野盗という素性が知れない人間に対する救出作戦を決行し、その結果として怪我を被った」という状態である。

 その為、今回の事案は、ガイア自身にも責任が課せられる事になるだろうと言うことが容易に想像できた。


「まぁ確かに、兄ちゃんにも責任の一端はあるな。

なんや、野盗の連中を助けようってリーダーに提案して、熱弁で半ば無理矢理押し通したんやって、アスナちゃん言うとったわ」


「本当に、申し訳ありませんでした……って、そうだ! 皆は無事なんで……っ!?」


 はた、と自分以外の同行者の安否が脳裏を過ぎったガイアだったが、焦って身体を起こそうとしてしまったせいで脇腹の痛みが復活してしまい、辛い表情のまま再びベッドに身体を預ける。


「全治ひと月半言うとったから、当分は安静にせなアカンで。

……後、兄ちゃん以外の同行者は全員これといった大きな怪我はしてへんから、安心しい」


 マグナの手も借りてゆっくりとベッドに戻ったガイアは、安堵の表情を浮かべた。

 すると、マグナが思い出したようにこう言った。


「そういや、兄ちゃんが寝とる間に、新種の調査が行われることが決まってん。

仮名(コードネーム)"トレント"。報告から推定される討伐難度は、C~B。

当分は、調査のために第二討禁(第二種討伐禁止指定種)に指定されるやろうな」


「そうなんですか……」


 マグナのその言葉に、ガイアは思わず血の気が引く感覚を覚える。

 討伐難度Cとは、魔闘衣の強化倍率を最低でも(・・・・)1.5倍まで引き上げられなければ、太刀打ちできない存在である。

 それに対し、ガイアは基本の「1.1倍」どころか、魔闘衣そのものが未だに扱えない状態なのだ。

 あの新種は自分達を相手に完全に遊んでいたからこそ、今こうして幸運にも生きていられるのだと考えると、ガイアは戦慄せずには居られなかった。


「ホンマ、そんなん相手によう生きて帰れたなと感心するわ」


「……本当に、申し訳ありませんでした」


「せや、今後も気ぃつけや。

……後、あの鉱石の隠し事(・・・・・・・・)の件、忘れてへんよな?」


「……へ?」


 マグナの小声で囁かれたその言葉に、思わず目が点になるガイア。

 すると、マグナも意外と言った様子でこう続ける。


「ありゃ、アストリッドの姉ちゃんから何も聞いてへんかったんか?

ジーノさんの傀儡(ゴーレム)、作ったんはおいちゃんやで?」


 小声でそう続けたマグナの言葉に、ガイアの頭は混乱していた。

 そして、ふとあの時の光景が、脳裏に蘇る。


──ああ。一人の傀儡士(・・・)協力者(・・・)になってもらって、ジーノの遺灰を混ぜた土で作って貰ったのさ。


 それは、アストリッドが布を取って見せてくれた、精巧なジーノの土傀儡について説明した時の台詞。

 あの時は「遺灰」というワードが強烈過ぎて流してしまっていたが、もう一人協力者になってもらったと、確かにそう言っていた。

 つまり、マグナはあの時の事情を知っており、かつアズライト鉱石の用途についての秘密を共有している「共犯者」なのだ。


「なるべく早めに顔合わせな思とってんけどな、おいちゃん直後に遠征の依頼控えとって、数ヵ月留守にせなあかんかってん」


「……成る程、そう言うことだったんですか。

その折は……その、ありがとうございました」


「なぁに、礼には及ばへんて」


 そう言って、マグナはやり甲斐のある仕事を貰って満足した職人のように、無邪気な笑顔を作る。

 そして、それから暫しの雑談の後、マグナはふと思い出したように立ち上がり、ベッド脇のテーブルに置いてある籠を持ってガイアに見せると、こう言った。


「これは、皆からの差し入れや。

そして、今回の依頼の報酬金を入れた封筒も入れといたから、後で確認しいや?

……冒険者や傭兵って仕事は、現場を離れて勘が鈍るんが一番恐いんや。

しっかり治したら、がっつり鍛え直さなアカンで?」


「はい……、分かりました。

マグナさん、皆にもよろしく伝えておいて頂けますか?」


「合点承知や、任しとき。

ほな、おいちゃん用事あるからそろそろ行くわ。

しっかり養生しいや」


 それだけ交わすと、マグナはガイアの病室から去って行った。

 骨折部分の痛みは酷く、数日はロクに動けないだろうということが容易に想像できる。

 元現代人であるガイアは「暇に殺されそうだ」等と思考を巡らせながら、マグナが置き直してくれた籠へと手を伸ばし、中身を漁る。

 そして──その中身は、ガイアが想定していた物とはかけ離れた物であった。


(差し入れって、果物じゃないのか……)


 ガイアは失笑しながら、手に取ったソレをまじまじと眺めた。


(……まぁ、何時目覚めるか分からなかった上に、通信インフラなんて存在しないこの世界じゃ、ある意味最善の差し入れかもな)


 差し入れの籠の中には、『六霊神話』、『伝記 賢人ゼノン』、『牛丼屋の従業員に聞いた厳選絶品コール30選』等々、当分の暇潰しには困らなさそうな本や雑誌が入れられていた。


(読むのは後だな……。腹減った……)


 それらの本のタイトルに一通り目を通したガイアは、数日間何も食べていない腹に食べ物を入れるべく、ベッドの柵に設置されているナースコールに魔力を注ぎ始めるのだった。

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