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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第4章「流れよ我が涙、とガイアは言った」
65/156

4─VII

作者入院につき、次回更新は11月12日とさせて頂きます。

また、その頃より作者のスケジュールもより忙しくなる為、更新間隔を七日毎とさせて頂きます。

読者の皆様の御理解とご協力をお願い申し上げます。

 魔闘衣で加速したトーマスは、前衛で注意を引き付け続けているアスナと白バンダナの野盗に向け、素早く指示を飛ばす。


「いいか、これから俺達で奴の注意を引き付ける!

そして、そこの白バンダナが奴の目が狙いを定めて攻撃するだけの隙を作り出すために、絶対に奴自身の足元に注意が向かないように立ち回れ! 以上だ!!」


 その言葉を皮切りに、アスナと白バンダナの野盗の立ち回りが一変した。

 トーマスのその指示を聞いたアスナは相手と一旦距離を取り、改めて対峙している相手を真っすぐに見据える。

 相手はまだ、自分達を相手に戯れているだけ。

 つまり、それは油断というものがどこかにあるということであり、勝機はあると言える。

 だが、先程ガイアが食らった咄嗟の反撃に反応できるかと言われると、かなり厳しいだろう。


 ──しかし、それは通常の魔力体術の体得(・・・・・・・・・・)具合の冒険者(・・・・・・)であればの話であり、ここに一人、その例に当てはまらない女騎士が一人。


 指示を聞いたアスナは魔闘衣を発動させ、放たれた拳を後方宙転(バックフリップ)のバク宙で回避し、即座に頭の中で作戦の具体案を練る。

 そして──視界の端に、新種の攻撃を回避するばかりで、どうにも攻めあぐねている様子の白バンダナの野盗が映りこむ。


「ねえ……っ、ちょっと、あんた!!」


 新種の攻撃を回避しながらであるが故に途切れ気味ではあるものの、アスナはその同年代ぐらいの野盗へと声を飛ばす。

 返事はない。だが、ほんの一瞬だけアスナと目が合い、それを返事と受け取ったアスナはこう続けた。


「今回助けてあげるのは、あそこで寝てる私の相方が提案したお陰だから、勘違いするんじゃないわよ!?

もし外したり私達に当てたりでもしようものなら呪うから、絶対当てなさいよ!!」


 その言葉を飛ばした直後、白バンダナの野盗は一瞬、遠目ながらアスナと目が合った。

 そして、頷く動作を素早く行ったアスナは、自分に飛んできた新種の薙ぎ払い攻撃を後退して回避する。

 すると、それと入れ違いになる形で炎球連弾(ラッシュフレア)がアスナの二メートル横を次々に通り過ぎ、そのまま新種の身体のあちこちから爆炎が舞い上がる。

 そして、それを見たトーマスは、水属性治癒魔法「癒炎痕(ユエラ)」を発動し、新種の体内水分を(・・・・・・・・)代償にして(・・・・・)、即座に火傷を治療する。


「ヴォ……ッ!?」


 一斉に水分を失った新種は立ち眩みを起こし、どうにか立ち続けようとその場でバランスを取ろうとする。

 だが、新種はすぐに自分の異変の原因を察知したのか、足元の地面へと左手の手刀を捩り込む。

 突然の行為に驚くアスナだが、そのねじ込んだ地点を中心に土が乾き始めている現象から、新種は地中の水分を吸収しているのだという事を悟る。

 アスナは白バンダナの野盗の立ち位置があまりよろしくない事を視界の端で確認すると、全速力で新種の左側面へ移動しながら脚部へと魔力を集中させ、無防備かつ高度が下がっている新種の左方へと狙いを定めてそのスキルを発動する。


「"超躍(ジャンパ)"ッ!!」


 その言葉と共に土埃が舞い、アスナは水分補給に注意が向いている新種の左肩へと着地する。

 危急の事態で水分補給にばかり気を取られていた新種は、首と目を動かしてアスナを捕捉する──が、その行為が命取りとなった。


「"穿閃(ガセン)"!!」


 肩から見てもそれなりに高い位置にある目を狙う為、素早く槍を持つ手を柄の端の方へと移してリーチを最大限に伸ばしたアスナは、その左目目掛けて突きを放つ。

 だが──


「ッ!!」


柄の端の方を持ってリーチを伸ばした分、穂先は不安定になり、照準はズレが生じやすくなる。

 更に、足場が新種の肩であることも相まって即座にアスナを排除しようと新種が肩を動かした事によって、穂先は左目のすぐ下の頬を軽く削るのみに終わり、そのままバランスを取れずに落下してしまう。


 だが、それで充分だった。

 何故なら、新種が肩を揺らし始めたそのタイミングで、鈍い光を反射する鋭利な物体が新種の右目に深々と突き刺さったのだから。


 アスナは体重操作の魔力体術のスキルを使って自身を軽量化すると、地面をゴロゴロと転がって受け身を取って素早く離脱する。

 そして、そのまま新種から全速力で離れた始めた所で、変化は訪れた。


「オォ……ッ、ヴォォォオオオガァァァァァアッッ!!??」


 ガイアも食らった、討伐難度C相当の魔物──ガルヴァノンが持つ、身動き一つ出来なくなるほどの、即効性の激痛毒。

 その痛みは、ガルヴァノンが餌をその場から確実に動けなくするためだけに用いられる。

 故に、命を失う致死毒ではないが、食らえば死んだも同然である。

 その毒は、少々格上の魔物すらも餌にする魔物・ガルヴァノンが生み出した、正に"反逆の刃"であった。


 それに耐えきれなかった新種の大音量の悲鳴が辺り一帯に鳴り響き、アスナ達は反射的に耳を塞ぐ。

 更に、新種は声を荒げつつも、目に入った異物を無理矢理指で取り除いた。

 しかし、その傷口からは鮮血が噴き出し、白目に至っては腫れ上がって真っ赤に染まっている。

 そして、耳を塞いでいた両手を離したミラは、新種があまりの痛みに片膝をついて動かなくなったその隙を見逃さず、地属性の魔法言語で詠唱を開始する。


『大地に宿りし精霊よ! 我が呼び掛けに応え、その力を貸し与えたまえ!

我等が穿たんとする敵を、その地に引きずり込め!

"落とし穴(フォーホール)"!!』


 その身体の周囲に現れた魔術式の文字達が、膝をついていない右足の足下へと集束していく。

 そして、地面に張り付いた魔術式が光を放ったその直後、新種の右足の真下にぽっかりと穴が開く。

 突如現れたその穴は、丁度新種の足がはまるぐらいのサイズであり、右足は重力に従ってその中へと落ちていく。


「ヴォ……ッ!?」


 あまりに突然の出来事と激痛毒で身動きが鈍っていた新種は、それに反応することも出来ぬまま体勢を崩してしまう。

 更に、その右足が穴に膝小僧まですっぽり入り込んだところで、そこから骨が折れるような音が響き渡る。

 それは、新種の八メートル近い巨体が持つ自重(じじゅう)が、完全にあだになった瞬間であった。

 新種の身体が前のめりに倒れ込み、穴にはまっていた右足が土を抉りながら地上に姿を現す。

 その足は関節部分では無く、完全にど真ん中で逝ってしまっていた。


「やった……!」


 その光景に、思わず胸が躍るアスナ。

 だが──


「アスナ、油断するな!! ガイアを回収してとっとと撤退するぞ!!」


ペイントボールを新種の左足に付着させたトーマスの(げき)を受けて我に帰ったアスナは、新種の表情が"怒り"で満ち満ちていることに気付く。

 ガルヴァノンの激痛毒は、致死毒ではない。

 更に、新種の巨躯(きょく)に対して小さな投げナイフの毒だけでは、効果も数分で途切れてしまう。

 その事が容易に想像できたアスナは、トーマスと協力して気絶しているガイアを回収し、一目散にその場から撤退して行ったのだった。

自重(じじゅう):本体そのものの重さ。


巨躯(きょく):並外れて巨大な身体。巨体。




─スキル・魔法データ─


超躍(ジャンパ)

魔力体術による汎用スキル。

使用する魔力量次第で性能が変化し、最大で五メートルの高さまで一気に跳躍する事が出来る。

ただし、修練による魔力コントロールの慣れ具合に比例して性能限界が変化する点は、魔闘衣と同じである。



炎球連弾(ラッシュフレア)

火球連弾(プロミーラッシュ)の上位に当たる技。炎属性上級攻撃魔法。

炎球を任意の数作成し、敵に向けて一斉に発射する。

作成個数に比例した量の魔力を消費する。



癒炎痕(ユエラ)

水属性の初級治癒魔法。

対象の体内の水分と引き換えに、全身の火傷を全て治療する。

消費する水分量は火傷の規模に比例し、尚且つ一斉に治療してしまうために融通が効かない為、火傷面積が体表の三割を超える場合は使用が禁止されている。

戦闘においては、火傷を負った敵の水分を奪って立ち眩みを起こす為に使われる。



落とし穴(フォーホール)

地属性の中級支援魔法。

大人一人が余裕ですっぽり入りきるほどの落とし穴を作り出す。

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