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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第3章「胡蝶の決意」
48/156

3─V

 湧水の森の木々から、鳥達が一斉に上空へと羽ばたいたその直後。

 上ミノタウラスはその丸太のような両腕を振るい、半ば幹と言っても良いのではないかと思うほどの木の枝をへし折りながら、先程からちょこまかと逃げ続けている二人の傭兵──ダンとヒューズを追撃する。

 しかし、その両腕はあまりにも身体の大きさに対して不釣り合いである。

 そして、不釣り合いということは腕を振るう速度はそこまで速くない訳であり──つまり、二人はその隙を利用して回避を取り、その重撃を難なくひらりひらりと(かわ)している。

 どんなに強烈な一撃でも、当たらなければどうと言うことは無いのである。


 そんな中、適度な反撃でタウラスを刺激していたダンの鼻に、一瞬だけ望んでいた匂いが現れる。


「……っ! ヒューズ、二時だ!!」


 一瞬だけ鼻についたその匂いの方角を捉えたダンは、その手に持っていた得物を素早くホルダーに仕舞うと、自身の正面から右斜め前──二時の方角に向かうよう指示を飛ばす。

 そして、グランドシャークを上空から弓で足止めし続けているロビンの健闘を祈りながら、ダンはその匂いの方角へ向けて走り出す。

 当然ながら、それが陽動であることを知るはずもないタウラスは、人間(極上の餌)を逃すまいと追跡を開始した。


 それから、五分ほど走り続けた頃だろうか。

 二人の視界が一気に開け、眼前には清らかな水をたたえた泉と、その周囲の開けた空間が姿を現す。

 そして、その泉こそ、ダンの嗅覚が捉えた「水の匂い」の元であった。


「ダンッ!」


 ヒューズは一言そう言うと、移動中にベルトから外しておいた道具袋をダンに投げ渡し、迷うことなく泉の中へと飛び込んだ。

 そして、ダンは泉のほとりを右に駆け、走りながらヒューズから預かった道具袋を腰のベルトに装着する。


「MOOOOOOOOOOO!!」


 すると、森から獲物を追い掛けていたタウラスが、先程までダンが立っていたその場所に姿を現す。

 ダンは足を止めてタウラスの方へと向き直ると、背中の戦槌を構えて戦闘態勢に入り──


「"魔闘衣(マトイ)"」


そう呟くのと同時に、ダンの全身から琥珀色の光が(みなぎ)り始める。


(さぁ……、来い!)


「VOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 先程まで二人だったはずの餌が、一人に減ったからだろうか。

 その立派な黄色い双角を真っ赤に変色させながら放たれた咆哮が、辺り一帯に響き渡る。

 そして、咆哮を終えたタウラスは即座に相撲取りのように腰を落とし、そこから一気に大地を蹴って飛び出す。

 しかし、ダンはその攻撃を当たる直前まで引き付けたところで、戦槌でその攻撃の勢いを逸らすように体勢を変える。

 そうして攻撃を僅かな衝撃だけでいなしたダンは、その足で大地をしっかりと踏みしめて体勢を立て直しつつ、自分の方へと振り向こうとしていたタウラスの頭部をしっかりと捉え──


「"脳天衝槌(レインラク)"!!」


戦槌のスキルによって頭部への攻撃に特化させた一振りが、タウラスの頭部へと肉薄する。

 そして──鈍い音と共に真っ赤な二本の角が砕け、その破片が周囲に散乱する。


「MOGYAAAAAAAA!?」


 あまりの激痛に耐えかねたのか、タウラスは両手で角のあった場所を覆い、その場でヘッドバンギングのような滅茶苦茶な動作でもがき狂う。

 そして、完全に憤怒の形相と化したタウラスがダン目掛けて力強く一歩目を踏み出した、その時。

 「水中で自在に行動出来る」というマーマンの種族特性を生かし、泉に潜伏して魔術式を詠唱していたヒューズが、待ってましたと言わんばかりにザンブと顔を出し──


『"氷足枷(フリーズワッパー)"!!』


詠唱完了の合図と同時に、ヒューズの身体の周囲に現れた氷属性の魔術式の文字達が、一斉にタウラスの足下目掛けて飛び立つ。

 辺り一帯の地面に降り注ぐいだ術式は次々と氷を作り出し、タウラスの両足をあっという間に氷漬けにしてしまう。

 そして──


「あばよ……。"脳天衝槌"ッ!」


ダンの全力の一振りが、その脳天をしっかりと捉える。

 頭に直接強い衝撃を受けたタウラスはたまらず気絶し、その場にうつ伏せに倒れ込む。

 そして、標的の息があることを確認したダンは、急いでタウラスの血抜きに取り掛かりつつ、ゴブリンの集落に向かった二人を案じる。

 だが──


(……ま、大丈夫だろ)


仮に「黒い瘴気」の再生能力があったとしても案じる必要は無いだろうと判断したダンは魔闘衣を解除し、血抜きの後にロビンに現在地を知らせるための青の発煙玉を用意しつつ、気絶しているタウラスの血抜きの手伝いを急ぐよう、ヒューズに催促するのだった。

ヘッドバンギング:ロックやヘビメタなどのライブコンサートで、リズムに合わせて頭を激しく上下に振るあの動作。やり過ぎ注意。




─スキル・魔法データ─


脳天衝槌(レインラク)

上級騎士で習得できる、戦槌専用スキル。

頭部に命中させると、威力が大幅に強化される。

騎士で習得できる「脳天衝(シント)」の派生に当たるスキルであり、頭部命中時の威力補正が大きくなっている。



氷足枷(フリーズワッパー)

氷属性の中級支援魔法。

標的の足を地面に氷漬けにして拘束する。




─魔物データ─


◎上ミノタウラス

弱点属性:風、氷

討伐難度:D

特記事項:ミノ(特に上ミノ)が最高に美味い。


コボルド同様二足歩行が可能な牛型モンスター。この異世界において"牛肉"と言えば通常の牛に加えて「タウラス」の名を冠する魔物達から採れる肉の事も指している。

種類によって美味い肉の部位が異なり、原種の「タウラス」は全ての部位の味のバランスが良く、近縁種の「赤タウラス」は赤身が美味いといった具合。

そして、上ミノタウラスはその名の通り、ミノ(特に上ミノ)が最高に美味い。

また、タウラス系は常に需要が尽きない魔物である為、その肉を商業ギルドに持っていくと、良い値段で買い取って貰える。


尚、タウラス系の魔物の角は、粉末状に砕いて乾燥させると天然の保存料になるという特徴がある。

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