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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第2章「始まりの日々」
43/156

2─XVI

Q:商業ギルドに空き瓶を持っていくと何がありますか?


A:空き瓶一本辺り5G貰えます。

 それから、暫く経って。

 ガイアは、自分のギルドカードに自動的に刻まれていたタミアスタイガーの討伐記録について、シュウに解説を仰いでいた。


「ああ、それか? えっと……、ギルドで登録の手続きをする時に、石に魔力を注いでくれって言われただろ?

その魔力の情報がギルドカードに登録されててな、非戦闘時と戦闘時の魔力の流れの僅かな違いや、スキルを発動するために魔力を宿した得物が敵に触れたときの敵の魔力情報、登録者の視界情報なんかを感知して、登録者が戦ってる相手が何なのか測定するって仕組みが、魔術式で組み込まれてるんだよ。

それで、死んだら、体内から魔力が消えるだろ? それを感知して、その内容が自動的に書き込まれるんだ」


 その説明を聞いて、ガイアはこう思った。「この異世界の技術力は、つくづくちぐはぐだ」と。

 スマホもない。電話もない。テレビもない。それどころか、ラジオすらない。しかし、大抵の物が「あるよ」と言われて目の前に出されたり、時折元いた世界の代物を超える物が、こうしてひょっこりと出てきたりもするのだ。

 何故、こんなにも技術がちぐはぐなのか。

 その答えは、この世界のあり方と深く結びついている。


 この世界には白と黒の魔力があり、その魔力の比率によって、人間が安心して暮らせる場所がかなり限られている。

 それは、魔物に"白の魔力比率が高い場所には余り近付かない"という習性があるためだ。

 しかし、いくら白の魔力比率が高いと言えども、それはあくまで"あまり近寄らない"というだけであり、約束された安全では決してない。

 人類が安心して暮らせる場所を作るには、高くて頑丈な"壁"を設けるようなことをしなければならなかったのだ。

 しかし、町を囲む壁は安全と同時に、人々に窮屈感を与えていた。

 故に、人々はその暇潰しに娯楽を求めた。

 その内の一つが、魔物が蔓延(はびこ)るこの世界を生き抜くためだったり、あるいは日々の暮らしを快適に暮らすために、新たな発明を求めて試行錯誤を重ねることだったのだ。

 そして、それらの数々の発明の中で生み出された「ギルドカード」という物は、人に化ける魔物や、野に下って野盗となった人間達を判別するため。そして、虚偽の討伐報告を防ぐ為に作られたのである。

 そして、後年その事に気付いたガイアは、こう思ったという。

 "窮屈な場所で暮らしていて、工夫を凝らすのが大好きなのは、日本人と同じか"と──。




◇ ◇ ◇




 それから更に数分経過し、干していた獣皮が程よく乾いてきた頃。


「ごめんなさい! お待たせしました!」


 その声と共に、身体を清めに行っていたフェズとアスナが、二人の視界に姿を現し、二人の前で足を止めた。


「おかえり。んじゃあ、合言葉……"真冬の客人"」


 そして、シュウが本人確認の合言葉を告げる。


「"壊れるベッド"」


 すると、事前に打ち合わせした通り、フェズがその後に続く。


「"緑衣の帰還者"」


 続けて、ガイア。


「"混沌空間"……全員本物ね」


 最後にアスナがそう言うと、確認を終えた男二人は干していた獣皮を回収し、素材用の大袋へと詰め込む。

 すると、その作業が終わるなり、フェズがこんなことを言い出した。


「さぁ、早く帰ってシュウのお耳をモフモフしますよ!!」


「ええ、そうですね。早く帰──はい?」


 その言葉を繰り返そうとして、ガイアは思わずフェズの方を二度見する。

 すると、フェズはたった今自分が口走った内容を思い出したらしく、エルフの特徴である鋭利な耳の先まで真っ赤にさせてこう言った。


「あ……、その……、ごめんなさい……。つい、本音が……」


 ──本音。

 その言葉を聞いたガイアは、他の二人へと目を向ける。

 そこには、ピシリと凍りついて思考停止したシュウと、フェズから視線を逸らしているアスナの姿。

 そして、アスナが静かにこう言った。


「ビーストの人はね……、耳の感覚が敏感なのよ……」


「……それを何故今俺に言う」


 同じく、静かな声でツッコむガイア。

 しかし、当の標的である本人から飛び出したのは、意外な言葉であった。


「……しゃーねぇ。キッチリ五分間だけだからな?」


 その言葉に、三人は目を見開いた。

 中でも、フェズの食い付き様は尋常ではなく──


「ほっ、本当ですか!? 嘘じゃ無いですよね!?

あああああでもでもでもっ、シュウからそんな事言うなんてあり得ないから夢に決まっ──痛っ!」


散々捲し立ててから「これは夢である」等と逃避の自己暗示を始めたフェズの頬を、シュウが(つね)っていた。


「喜べよ、現実だ。

それとも、本当に"夢のまた夢"にしてやった方が良かったか?」


 そのシュウの言葉に、フェズは首をふるふると横に振った。


「……まぁ、一番頑張ってたの、間違いなくお前だからな。

だから……、今回は、特別に我慢してやるよ……。

けど、その前に戻ったらちゃんと病院で検査受けろよ!?」


 虎耳を弄られた時の感覚を思い出したのか、シュウは赤くなる顔を必死に誤魔化しながら、そう言った。


(……ちょっと残念な所もあるけど、純粋にいい人なんだな)


 言葉にこそ出さないものの、ガイアは改めて心の中でそう思ったという。


 その後、病院の検査からフェズが帰宅するなり家中にシュウの悲鳴が響き渡る事となるのだが、それはまた別の話である。

─キャラデータ─


◎シュウ

年齢:18

種族:ビースト(虎)

職業:剣士

ランク:E


ガイアが暮らしているシェアハウスの同居人で、一つ上の先輩。

趣味はオリジナルトレーニングの考案とそれを実践する事だが、あまりにもカオスなそのトレーニング内容は「努力の方向音痴」と表現せざるを得ない。

また、フェズからのお仕置き(と耳モフり)が大の苦手であり、フェズのお仕置きが終わった後は丸一日生きた屍のような状態になる。一応、マキナミンXがあれば復帰可能だが、費用がかさむため投与される機会はほぼ無い。


尚、伝記『魔法剣士ガイア』に登場する人物の中では、一番寝癖のバリエーションが豊か……どころか、所属していた冒険者ギルドでは「誰もシュウの本来の髪型を知らない」とさえ(ささや)かれていた程である。


アイドル系のイケメンな上に良い人ではあるのだが、やや忘れっぽい所や寝癖を整えない辺りからずぼらな面が垣間見えており、「残念なイケメン」としてのイメージがどうしても拭えない。

しかし、戦闘においてはその残念評価は一変。

ビースト特有の身体能力の高さと目端が利く事も相まって、非常に頼りになる人物である。


一方で、料理の腕は壊滅的であり、「調理」という手順が挟まれた暁には即席麺だろうが何だろうが関係なく「物体X」に変貌させてしまう。

だが、自身が作り出した物体Xを口にしても何ともならないという、ある意味無敵の胃袋を持っていたりする。

そのため、自分の料理の腕前については「ちょっと苦手」程度にしか認識していなかったが、ガイアの入院騒動を受けてからは、金輪際料理を行わないことを誓った。



◎フェズ

年齢:18

種族:エルフ

職業:魔術士

ランク:E


挿絵(By みてみん)


ガイアが暮らしているシェアハウスの同居人で、一つ上の先輩。

シュウとは同郷の出身であり、幼馴染み。

実は結構なビースト愛好家(ケモナー)であり、疲れた際にシュウの虎耳を思う存分堪能す(モフ)る事を一番の楽しみとしている……が、毎度毎度逃げられる為、ごく稀にミラのリス耳を捕まえに走ることもある。

しかし、それでもシュウの耳が一番らしく、それをモフっている最中はこれ以上無いほどのデレ顔になる。


普段は几帳面な性格で、シェアハウスのメンバーの実質的な纏め役でもあり、家事の割り振りは彼女が各メンバーと相談の上で決めている……が、その役割をすっぽかした人間には恐怖のお仕置きフルコースで制裁を加える一面も。

また、伝記『魔法剣士ガイア』に登場する人物の中では、一番笑顔で怒るのが得意な人物とも言われている。




Next Chapter:「胡蝶(こちょう)の決意」


To Be continued......

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