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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第2章「始まりの日々」
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2─XV

 タミアスタイガーを無事倒し終えたガイア達は、解体用ナイフを使ってその毛皮を剥ぎ取った。

 そして、剥ぎ取った毛皮を小川の清流でしっかりと洗っているのは、ガイアとシュウの男二人。

 二人は今回の戦いについて振り返り、反省や感想などを言い合っていた。


「んで、どうだったよ? 初めて餌にされそうになった気分は」


「生きた心地がしませんでしたよ……」


 そう言って、ガイアは消毒を終えた首の左側の付け根──拘束された際につけられた傷があった箇所をさする。

 道具袋(ポーチ)に補充しておいた三級回復薬の小瓶の中身は、既に空になっている。

 回復薬を掌に垂らして、首元の傷や拘束された際の擦り傷の治療に使われたのだ。


「まあ、拘束された時に慌てちまったら、いつまで経っても脱出出来ねーからな。

難しいかも知れねーけど、そんな時こそ落ち着いて、急所が届くような場所にあるならそこを突くんだ」


「急所に届かないような敵だったら?」


「そんな時は、捕まってない奴がこれを当てて引っ()がすんだ」


 そう言って、シュウは腰の道具袋(ポーチ)から、緑色に染色された手投げ玉を取り出す。

 そこからは、嗅いだ覚えのある匂いが発せられていた。


「この匂いって……、魔除けの香草ですか?」


「ああ。抽出した香草のエキスを数倍に濃縮して作られた"魔除け玉"だ。

どんな魔物も、これをぶつけられたら絶対に怯む。

……まぁ、その分値が張るから、俺達みたいな低い方のランクの冒険者はそう気軽に使えない、ってのが難点だけどな」


 そう言ってシュウは苦笑し、魔除け玉を道具袋に仕舞い込んだ。

 そして──


「……よし、こんなもんだろ」


ガイアはシュウの言葉と共に立ち上がり、洗浄を終えた獣皮を大きめの岩の上に乗せ、乾かす。

 そして、ガイアは未だ戻らぬ女性陣二人を気にして、こう言った。


「フェズさん、大丈夫でしょうか……。

随分(かゆ)そうでしたけど……」


「まぁ、乗りからの決着を狙うなら覚悟はしてたと思うぜ」


 そう言って二人が思い浮かべたのは、フェズの事であった。

 今回、間違いなくMVPと呼べるほどの活躍をしたフェズ。

 しかし、彼女は戦闘が終わるや否やアスナに連れられ、身体を掻き(むし)りながら森の影へと移動していった。

 そして、覚悟はしていただろうと告げるシュウに、ガイアは苦言を呈する。


「でも、ノミって皮膚炎とか引き起こしますよね?

女性が綺麗な肌を捨てる程の覚悟って、リターンよりもリスクの方が高いような気が……」


 ──そう。

 タミアスタイガーの身体には、ノミが付着していた。

 そして、必死に背中にしがみついて勝機を見出したフェズの身体に、そのノミが移っていたのだ。


 しかし、そこまで言ったところで、ガイアは言葉に詰まってしまっていた。

 何故なら、シュウが呆れと怒りが混じったような表情で、ガイアを睨み付けていたからだ。

 そして、ガイアの言葉に対し、シュウは呆れ気味にこんな言葉を返す。


「お前なぁ……、自分の肌荒れと多数の命だったら、どっちが大事なんだよ?」


「それは……、当然、後者ですけど……」


「だろ? それに、肌が傷付く事を恐れてビクビクしてる奴に、例えば……そうだな、アスナみたいな立ち回りが務まるか? アスナと同じように信頼して、任せる事が出来るか? 仲間として、安心して背中を預けることが出来るか?」


「………………」


 珍しく真剣な表情で語られるシュウの言葉に、ガイアは何も言い返すことが出来ない。

 シュウの言葉は正論以外の何物でも無く、ガイアの心に深く刺さった。


「……出来ませんね」


「分かってくれたか」


 疑問が腑に落ちたガイアの返事に、シュウは穏やかな声でそう言った。

 そして、その声色のまま、シュウは言葉を続ける。


「そういうことだ。

そもそも、そんな事を気にするようなら、冒険者みたいな危ない仕事じゃなく、町の中で出来る仕事……。例えば、市場の売り子とかやってた方が百倍正しいと、俺はそう思う。

まぁ、今は医療もかなり発達したから、もし仮に皮膚炎になったとしても、薬屋や病院で治療して貰えるけどな……。

でも、だからと言って、そんな物事の優劣も分からない暗愚(あんぐ)な奴がこの仕事に向いてるかって言われると、答えは当然"いいえ"だ」


「………………」


 その言葉にあったのは、シュウなりの気遣いというか、優しさと形容すべき物。

 言い方こそ不器用だが、不器用なりの思いやりの心は、確かにその言葉に現れていた。


 そして、ガイアはこの時、この世界で生きると言うことがどう言うことなのかと言うことを、薄らと感じ取っていた。

 更に言えば、ガイアはそれらの覚悟を全て受け入れた上で、来たるべき時に備えて強くならければならない。

 シュウのその言葉は、ガイアにこの世界で生活するという現実を改めて認知させるには、充分すぎる物であった。

 その事を失念していたガイアが言った言葉は、実に単純で──


「……ごめんなさい」


ただ、それだけだった。


「何、分かりゃいいんだよ」


 そして、そう言ったシュウの顔は、とても優しいものであったと言う。

暗愚(あんぐ):物事の是非を判断する力がなく、愚かなこと。また、そのさま。




─用語データ─


◎回復薬

単価:250G(三級)、390G(二級)、530G(一級)、670G(特級)

傷口に塗り込むことでその傷を集中的に治療したり、服用することで身体全体の自然治癒力を高めることが出来る液体タイプの薬。

効能の高さによって等級が分けられている。

ただし、使用者の傷を治癒する代わりに体力を奪うため、重篤患者に対する使用は禁止されている。


※使用済みの空になった瓶は再利用致しますので、最寄りの商業ギルドまでお持ち下さい。




─魔物データ─


◎タミアスタイガー

挿絵(By みてみん)

弱点属性:炎、地

討伐難度:F+

特記事項:夏眠する。その最中は、一切の攻撃を受け付けないほどにまで身体が硬質化する。


虎の身体にリスの頭を持つモンスター。

森の一定の範囲を縄張りとし、格下の侵入者には容赦なく襲い掛かる。

ベズアーと対を成す「ランクFの双璧」であり、パワー重視のベズアーに対し、こちらは持ち前の素早い動きで翻弄してくる。

また、ベズアー同様毛皮には需要があり、絨毯や衣服、防具等に加工される。

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