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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第2章「始まりの日々」
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2─XIII

 それから二分ほどかけて、ガイアは落ち着きを取り戻した。

 水飲みを終えたタミアスタイガーは、呑気に欠伸あくびなどしながら、草原で横になっている。

 その様子を、ガイア達は木の陰に隠れながら、遠巻きに観察していた。


「よし……。皆、準備は良いな?」


 シュウの静かなその言葉に、三人は頷く。

 そして──


「三……、二……、一……、ゴー!」


シュウのカウントと共に、四人は一斉に木陰から飛び出し、草原へと姿を現す。

 先頭をシュウが駆け抜け、その後にガイアとアスナが続く。

 フェズは、自分の魔法がタミアスタイガーに届くギリギリの距離で足を止め、術式に魔力を乗せて詠唱を開始した。

 そして、一行に気付いたタミアスタイガーは立ち上がり、「シャーッ!」と息を荒げて威嚇する。

 しかし、その警戒の威嚇の隙を逃してしまうのは、完全なる愚の骨頂である。


「だらぁっ!!」


 気合の掛け声と共にシュウが両手剣を抜刀し、人の胴体程もあるタミアスタイガーの頭部へと振り下ろす。

 そして、鈍い音と共に脳天に刀身がめり込み、タミアスタイガーの頭部から顔面を伝い、血が落ちる。

 しかし、シュウの一撃は硬い頭蓋骨を貫通するまでには至らない。

 目の前の存在を驚異と見なしたタミアスタイガーはシュウを押し退け、脇をかいくぐって距離を取る。

 そして、目測で距離を測って一気に加速し、鋭い牙を剥き出しにしてシュウへと飛びかかる。

 しかし、そう易々と仕留められるほど、簡単には問屋が卸さない。


「"投槍(ローピア)"!!」


 アスナはその右腕に込めた魔力を解放し、タミアスタイガーの移動先目掛け、槍を投擲する。

 「轟っ!」と音を立てて風を切ったその槍がタミアスタイガーの左前脚の第一関節に直撃した事により、苦悶の声と共に飛び掛かりの勢いが相殺される。

 そして、シュウは剣の腹を使って攻撃を受け止め、それを押し返した。


『"火球連弾(プロミーラッシュ)"!!』


 フェズの声が離れた場所から響き、魔術式の詠唱が完了する。

 身体の周囲に現れた魔術式の文字は、フェズの周囲数カ所の空中に集まり、五発の火球を生成。そして、攻撃対象であるタミアスタイガーに向けて、一瞬ずつタイミングをずらして発射される。

 そして、完全にアウトオブ眼中であった方向から火球が全弾フルヒットし、想像を絶する痛みがタミアスタイガーを襲う。

 タミアスタイガーが大きく怯んだその隙を見逃さず、アスナは投げた槍の回収に走り、その後ろから飛び出したガイアが得物を両手持ちにして飛び上がる。


「"飛斬(ヒザン)"!!」


 落下の勢いをも加えた重い一撃は、確かな手応えと共にタミアスタイガーの胴体へと食い込み、その傷口から鮮血が大量に流れ出る。

 そして──ガイアが即座に剣を抜いて離れたその時、タミアスタイガーの瞳が真っ赤に染まり、全身の筋肉を膨張させて明確な殺意を露わにしたのを、シュウは見逃さなかった。


「咆哮来るぞ、塞げッ!!」


 シュウの咄嗟の指示に、ガイアは即座に両耳を塞ぐ。

 そして、その直後。


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


 怒りに任せんばかりのタミアスタイガーの咆哮が、森の草原に響き渡る。

 ビリビリと空気が震える程の大音量で発せられたその咆哮に、ガイア、アスナ、シュウの三人は耳を塞ぎ、うずくまる。

 そして、タミアスタイガーはその隙を逃さず──


「っ……!?」


気が付いた時、ガイアは自身の斜め上の方向から、凄まじい力によって地面へと押さえつけられていた。

 全体重を掛けた両前足がそれぞれガイアの両腕を捕らえ、目前からは生臭い獣の吐息。

 タミアスタイガーは、ガイアを食らわんとその口を大きく開け──


「うおぉあぁッ!?」


ようやく自分の状態を理解したガイアは、咄嗟に首を捻ってその一撃を回避する。


「"渾身斬(コシンザン)"!!」


「"穿閃(ガセン)"!!」


 ガイアを助けんとする二人の掛け声と共に、タミアスタイガーの身体に両手剣と槍の衝撃が走る。

 しかし、怒りに満ちたタミアスタイガーの身体は全身の筋肉が膨張したせいで先程よりも硬質化しており、手応えがあまり感じられない。

 そうしている間にも、再びガイアに向けてタミアスタイガーの捕食攻撃が行われる。

 ガイアはそれを再びどうにか躱すが、下顎の犬歯が首の付け根に掠り、そこから軽く出血が始まる。


(くそっ……! このッ、離せ! はっ、なっ、せっ!!)


 ガイアはそうして必死にもがくが、タミアスタイガーにとってみれば、そんな程度の抵抗は子供の悪戯程度にしか過ぎない。

 自身の身体を襲う衝撃を物ともせず、再び大きく口を開け、ガイアの頭目掛けて食らいつこうとする。


(ッ、クソッタレェ!!)


 しかし、それを甘んじて受けるガイアではない。首を(ひね)って勢いをつけると、頭に巻かれた鉢金の鉄板部分を、タミアスタイガーの口へと頭突きで直撃させる。

 鉢金越しに壁を殴っているかのような感覚に襲われるが、どうやらタミアスタイガーには有効打になったようで、予想外の痛撃にその顔面を仰け反らせている。

 だが、それでも拘束を振りほどくまでには至らない。

 魔法剣士や加護の力を使えればそこまで苦では無いだろうが、今はシュウとフェズが居るため、迂闊にそれらの力を使うことは出来ない。

 ガイアは、決定打を見出せずにいた。


 すると、不意に横からこんな指示が飛んでくる。


「ガイア、金的だ! 金的で振りほどけ!!」


「ッ!!」


 シュウのその言葉を受け、足の動きがお留守だったことに気付いたガイアは、足をそのまま振り上げ──その鉄板を纏った具足の爪先が、タミアスタイガーの局部に思いっ切りめり込む。


「ギャウォオァッ!?」


 今まで感じたことのない激痛に、タミアスタイガーから悲鳴が上がる。

 二の腕を押さえつけていた前脚から力が抜けたことを好機とみたガイアは、抜け出すために必至にその身体をもがかせる。


『"炎球(フレア)"!!』


 直後、再びフェズの声と共に魔法が発動し、生成された炎球がタミアスタイガーに直撃した。

 すると、苦悶の声と共に大きくよろけたタミアスタイガーは、バランスを取るためにその足で大地を捉え、体勢を整えようとふんばる。

 そして、自身を捕らえていた両足の束縛から開放されたガイアは即座に右側へゴロゴロと転がり、数メートル先に落ちている自分の得物を視界に捉える。

 ガイアはタミアスタイガーの動向に注意を払いつつ、先程束縛された際に手放してしまった片手半剣を回収するため、立ち上がりかけの前傾姿勢のまま駆け抜ける。

 そうして地面に落ちていた得物を拾うと、くるりと方向転換しつつ構えを取った。


「グルルルルルル……」


 タミアスタイガーは威嚇の唸り声を上げながら、自身を囲う三人と対峙しつつ、ゆっくりと歩を進める。

 ガイア達も、何時でも動けるようにしながら一定の距離を保ちつつ、ゆっくりと一定の距離を保って移動していく。

 そして、三人が睨み合っているその隙にフェズは魔術式を詠唱し、再び魔法を発動した。


『"火球連弾"!!』


 再び五発の火球が生成され、それらは全てタミアスタイガーに肉薄する。

 しかし、視界の端でその光景を捉えたタミアスタイガーが何もしない筈もなく──。


「あっ!?」


 ガイアが気付いて詰め寄ろうとした時には、既にタミアスタイガーは大地を蹴り、三人と火球連弾を全て飛び越えてしまう。

 草の生い茂る地面に着地すると、先程負わせた傷口が開いたのか、血液が地面に(したた)り落ちる。

 しかし、タミアスタイガーはそれを気にする様子もなく、そのまま目標を定めて加速した。

 「先程から着実に強い衝撃を与えてくる者」を、真っ先に排除すべき驚異だと判断したのだろう。

 既に前衛中衛の面子から外されたタミアスタイガーの矛先は、後衛から攻撃魔法で援護射撃を行う者──フェズへと向けられていた。

─用語データ─


◎咆哮

魔物が怒ったりしたときに出す、空気が震えるほどの大音量、若しくは高音域の雄叫び。

近距離で耳を塞ぎ損ねると、確実に鼓膜が破れる。

また、咆哮した魔物の正面方向でこれを受けてしまうと、その隙に何らかの攻撃を受ける危険性が非常に高い。




─スキル・魔法データ─


飛斬(ヒザン)

剣士で習得できる両手剣専用スキル。

大きく跳び上がり、落下の勢いを加えた一撃を相手にお見舞いする。



渾身斬(コシンザン)

剣士で習得できる両手剣専用スキル。

渾身の力で両手剣を上段から振るい、眼前の敵をぶった切る。

両手剣の中で最も威力が高いスキルだが、その分構えた時の隙も大きい。



投槍(ローピア)

騎士で習得できる槍専用スキル。

威力を上げた槍投げ攻撃。



穿閃(ガセン)

騎士で習得できる槍専用スキル。

威力を増した一突き。単純だが使いやすい。



火球連弾(プロミーラッシュ)

炎属性の中級攻撃魔法。

火球(プロミー)」を五つ生成し、攻撃対象に向けて発射する。

総合火力では同じく中級の「炎球(フレア)」に劣るが、そちらと比べて詠唱に必要な魔術式が短く、複数の対象を攻撃することが出来るという点で優れている。

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