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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第2章「始まりの日々」
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2─VII

Q:マキナミンXを一日に二本以上摂取するとどうなりますか?


A:Highになった後、灰になります。

 時刻は11時半を回り、太陽がもうじき中天に差し掛かろうかとしていた頃。

 シェアハウスの玄関の鍵を開け、帰宅する者が一人。


「よっ、と……」


 その両腕に、地面に一旦置いた魔法具「クーラーボックス」を持ち上げたガイアは、その身体で扉が閉まらないようにしつつ、身体と荷物を室内へと滑り込ませる。

 全員出掛けていて誰も居ないのか、家の中はしんと静まり返っていた。

 ガイアは床にクーラーボックスを置いて一息つくと、玄関に鍵を掛けて靴を脱ぐ。

 靴箱にそれを仕舞ったガイアは、廊下から階段に続く扉に入らず、その奥に設けられた魔法具「昇降機」の前で足を止める。

 その昇降機の穴の脇に取り付けられた二つの印の内、「▼」の形に削られて組み込まれた魔法石に魔力を注ぐと、歯車が回転する音と共に上の階に昇っていたテーブルが下降し、一階にその姿を現す。

 ガイアはそのテーブルに中身を入れたクーラーボックスを置くと、今度は白色をした「△」の魔法石に魔力を注ぐ。

 しかし、今度はそうすぐには動き出さない。三階まで上げる為に必要な魔力の量が溜まって緑色に変化するまでの間、ガイアは魔力を注ぎ続けた。

 そして、魔法石が緑色に変化したのを確認したガイアは、魔力の注入を中止する。

 すると、テーブルが上昇を始め、乗せられたクーラーボックスは三階へと向かっていった。

 ガイアも階段を上り、三階へと向かう。

 先に到着していたクーラーボックスを昇降機のテーブルから取り出し、それを自室へと運び入れる。


「ふう……。よし、と」


 ボックスをベッドの下に入れたガイアは、額の汗をハンカチで拭った。

 そして、昼食をどうしようかと思い悩んでいた、その時。


「きゃあああああああああああああああ!!」


 一つ下の階から聞き覚えのある女性の悲鳴が響き渡り、ドタドタと慌てる音がする。

 ガイアは咄嗟に廊下へと飛び出し、二階へと階段を駆け下りる。

 そして扉を開け、二階の廊下へと出ると、そこには部屋の扉の前で腰を抜かしたミラが、涙目になって尻餅をついていた。


「先輩!? 何かあったんですか!?」


 そう言いつつ、ガイアは傍に駆け寄る。

 ミラは全身をカタカタと震わせ、一瞬ガイアに驚いたような顔を見せる。

 だが、今は他に人が居なかったのだろう。

 ミラは震える手で自室を指差し、涙目でガイアを見ながらこう言った。


「ごっ、ごごごっ、ごごごごごごごごごごごごごっ、ごきっ、ごき、ゴキ……ッ!!」


 ゴキ──そこから先は、言われずとも(おの)ずと分かる。


「……出たんですね?」


 ガイアのその問い掛けに、ミラは顔をぶんぶんと縦に振りまくる。

 そして、ガイアはミラを落ち着かせるべく、優しい声でこう言った。


「一旦落ち着きましょう。立てますか?」


 ミラはガイアの手を借り、恐る恐る立ち上がる。

 ガイアはミラに対し、大きく深呼吸をするよう提案し、ミラもそれに従う。


「大丈夫ですか?」


「は、はい……。一応……」


 どうにかまともに話せる程度に回復したミラは、Gが出た際の状況を落ち着いて報告する。

 曰く、静かに自室で読書をしていたところ、家具の裏から壁を伝って出てきたとの事であった。

 そして、その言葉を受けたガイアは、ミラを真っ直ぐ見つめてこう言った。


「分かりました、俺がやりましょう」


「……え?」


 突然の提案に、目をぱちくりさせるミラ。

 しかし、そう言ったガイアの表情は、真剣そのものであった。


「先輩、捨てる予定の新聞とかある場所、分かりますか?」


「え? あ……、い、一階の裏口に……」


「一階の裏口ですね? 分かりました」


「ちょ……、ちょっと待って下さい!!」


 場所を告げた途端に向かおうとするガイアを、ミラは思わず呼び止める。

 そして、二つ年下の後輩であるガイアに対し、申し訳なさそうな顔でこう言った。


「その……、本当に、お願いしても良いんですか……?」


「ええ、ゴキの退治は慣れてますし……」


 その言葉に対し、ガイアは事実を述べる。

 しかし──


「や……、やっぱり無理です! まだ信じられません!!」


「ええっ!?」


ミラに突然そんなことを言われてしまい、ガイアは思い出す。

 ミラが、人見知りであると言うことを。

 確かに、「知らない人が恐い」という感覚は、ガイア自身も重々承知している。

 だが、今ここでゴキを放置したとしても、百害あって一利なしであることは明白であった。


「いやでも、退治しないと──」

「そんなこと言って、終わった後で私に何かエッチな要求するつもりなんでしょう!?

今朝あんなことを言ってしまった私に、謝罪を要求するに決まってます!!

大人のイケナイ雑誌みたいな要求をするに決まってます!!」


「しませんよッ!!」


 興奮してしまったのか、そんな言葉を次々とまくし立てるミラ。

 そして、反射的に放たれたガイアの言葉に驚き、ミラは再び冷静な思考を取り戻す。


「ご、ごめんなさい……。でも、今は本当に何もお返し出来る物が無くて……」


 その言葉から、ガイアはミラが、どうやら自分に借りを作ってしまうのを気に掛けているようだと悟る。

 そして、コンマ数秒で目前の問題の解決策を見つけ出したガイアは、それをミラに提案した。


「じゃあ、先輩が一番お気に入りのお昼ご飯を食べられるお店、俺に教えて下さい」


「……え?」


 その言葉に、ミラは一瞬の間を置いて呆然となる。


「今日のお昼をどうするか悩んでたんですけど、どうも俺一人じゃ決められそうになくて……。

じゃあそう言うことで、どこに行くか決めておいて下さいね」


 それだけ言い残すと、ガイアは古新聞を取りに一階の裏口へと向かうのだった。

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