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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第2章「始まりの日々」
33/156

2─VI(☆)

 それから暫く経ち、時刻はお昼前に差し掛かろうとしていた頃。

 冒険者御用達の様々な携帯食料を専門に扱う店舗を後にし、戦利品が詰まった買い物袋をしげしげと眺める、一人の青年の姿があった。

 ツンツンヘアーの黒髪黒眼で、右の頬に一文字傷があるその青年が誰かと問われれば、それは他でもない──ガイアである。


(激しい多々買いだった……)


 今回の戦いを踏まえ、思わず心の中でそう思うガイア。

 彼が先程まで入っていた店では在庫の最終処分セールが開かれており、目を光らせた冒険者の若者達が、まるで学校の購買パン戦争の如くセール品を取り合っていた。


 そんな中、ようやく商品をその手に取れた喜びからか、一人の男が雄叫びを上げる。


「よっしゃ、取ったどーーー!! って、ああっ!?」


 しかし、その右手に掴んだ商品を頭上に持ち上げた瞬間、横から伸びた別の手がそれを払い落として奪い去る。

 それもそのはず。その現場において、建前、見栄、遠慮や手加減といったような事は言語道断。

 あるのはただ一つ。より安い物をお得に入手したいと誰しもが願う、言わば"本能"。

 商品を掴めたからと言って油断するようでは、今の男ように横取りされてしまうのだ。


 しかし、お得な商品を求めんとする魑魅魍魎(ちみもうりょう)跋扈(ばっこ)する戦場を前世で幾度も乗り越えたガイアにとってみれば、多々買いは最早十八番(おはこ)と呼べるほどの得意分野であった。

 適当なベンチを見つけて人心地ついたガイアは、今回の戦利品を確認するべく、買い物袋に手を入れる。

 そして、そこから取り出されたのは、この世界ではかなりポピュラーな携帯即席麺「キチンヌードル」であった。

 一つ一つ紙で包まれた乾麺と、これまた紙に包まれ、その麺を包む紙にのり付けされた粉末スープ。

 それらを器に入れ、お湯を注いで三分待てば、キチンとしたヌードルが作れるという優れものである。

 そして、一つ五個入りのソレを、ガイアは三つも入手することが出来たのだ。


(味も醤油、味噌、豚骨と三種類あるし……、今日の昼に早速食ってみるか)


 異世界の即席麺に胸を馳せ、ほくほく顔になるガイアであった。

 すると、ベンチに座っていたガイアの視界に映る、往来を歩いていた金髪寝癖放置ヘアーの人物が一人。


(ん……? あれ、シュウ先輩?)


 ガイアと同様に買い物袋をその手に持ったシュウは、朝と変わらず生ける屍のような状態で、フラフラとした頼りない足取りで往来を歩いていた。


(………………)


 その危なっかしい姿を見ていられなくなったガイアは、シュウの元へと駆け寄って腕を掴み、自分が座っていたベンチへと誘導する。

 ベンチに座らされたシュウは、だらんと四肢をだらけさせ、相変わらず口から魂が抜け出している。

 それを確認したガイアは、買い物袋の一番底側──マキナの薬屋で購入した小瓶の中から、赤い液体が入った物を取り出す。

 そして、コルク栓をキュポンと外した小瓶を右手に持ち、左手でシュウの顔を掴んで口を開けさせたガイアは──


(疲れには、マキナミンXッ!!)


そう意気込んで、赤い液体の小瓶──マキナミンXを、シュウの口に注いで行く。


「ごぼふっ!? ぐほっ、が…………ごく、ごく、ごく……」


 その荒療治に、シュウは一瞬だけ()せるような反応を見せるも、すぐに口に注がれた液体を嚥下えんげし始める。

 そして、小瓶の中身を全て注ぎ込まれたシュウはこうべを垂れて俯き、黙り込む。


(まさか、これが効いてないなんてことは……、無いよな?)


 数秒経っても沈黙が続き、つい不安になってしまうガイア。

 しかし、その直後。


「う……」


 ピクリと指が動き、シュウが僅かに声を漏らした。

 その一方で、肝心のシュウはと言うと──


(何だこれは……心が沸き立つ……!

込み上げてくる熱い思いが、俺を前へ前へと……いや! 上へ上へと突き動かす!)


マキナミンXの効能によって抜けていた魂を呼び戻されたシュウは、己の心の底から込み上げてくる熱いモノを感じ取っていた。

 そして──


「お……、おお……っ、うおおおおおおおおッ!!」


挿絵(By みてみん)


完全に生気を取り戻したシュウはベンチから立ち上がり、青空へ向けて雄叫びを上げる。

 その様子に通行人はおろか、マキナミンXという荒療治を行った本人でさえも、軽く距離を取り始めていた。

 しかし、距離を取ろうとしていたガイアの肩を、シュウの力強い掌ががっしと掴む。

 そして、シュウはガイアの目を真っ直ぐ見て、こう言った。


「確かに聞こえたぜ……。お前が俺に輝けと言ってくれたその言葉が!!」


「いやそんな事一言も言ってないです」


 こうして、シュウは完全に復活を果たしたのだった。

 そして、ガイアにお礼の言葉と共にマキナミンXの代金である1000Gを渡すと、シュウはガイアと共にベンチに腰掛ける。


「買い物か?」


「はい。丁度セールやってたんで、即席麺を三つほど。

後は、薬と携帯食料の保管用にクーラーボックスを買おうかと」


「おお、そっか。

……なあ、そういやお前、昼はどうするつもりなんだ?」


「え、お昼ですか?」


 キチンヌードルが入っている買い物袋を一瞥してから言われたその言葉に、ガイアは正直な答えを返す。


「家に戻って、ちょっとヌードルを試食しようかなーと考えてるんですけど……」


「あー、そっか……」


 すると、シュウは後頭部をポリポリと掻きながら、自分の買い物袋へと視線を落とす。


「? 何かまずかったですか?」


「いや……、実はさ、今夜のお前の歓迎会で作ろうと思って、取り置きしておいてもらってた限定仕様のヌードルを買いに行くんだよ。

俺、人に美味いって言って貰える料理がそれぐらいしか無いからさ……」


「ああ……」


 その言葉から、シュウの料理の腕前を察したガイアは、数秒思考する。

 今夜の歓迎会は、ガイアを除く皆が料理を作ってそれを分け合うという、ホームパーティーの形式と相成った。

 そして、シュウが用意するのは、食事の締め──即席の物とは言え、麺料理ということ。

 そこまで察すれば、シュウが言わんとしていることも理解できる。


「分かりました。そう言うことなら、お昼は適当な物で済ませますよ」


「そっか……。悪いな、わざわざ昼飯を変えるように強制したみたいになっちまって」


「いえ、大丈夫ですよ。

今夜の歓迎会、楽しみにさせて頂きますね」


「ああ、悪いな。だからその分楽しみにしててくれよ。

んじゃ、俺はそろそろ行くわ」


 軽い挨拶を済ませると、シュウは足早にその場を立ち去った。

 そして、ガイアも座っていたベンチから立ち上がる。


(さて、クーラーボックス買ったら一旦帰るかな)


 そう考えたガイアは、足早に目的の物が売られているであろう場所へと足を速めるのだった。

多々買い:セール、特価、大安売り、買い占め、衝動買い等の別称。多々買わなければ生き残れない。


魑魅魍魎(ちみもうりょう):様々な化け物。


跋扈(ばっこ):思うがままにのさばる事。


十八番(おはこ):その人が最も得意とする芸や技。


もっと輝けと(ささや)いて:※いません。


人心地:生きた心地。また、ほっとくつろいだ感じ。




─用語データ─


◎マキナミンX

単価:1000G

マキナの薬屋でしか入手できない、飲料タイプの特製活力薬。

この世界におけるエナジードリンクであり、その液体は鮮やかな赤色をしている。

服用した者の疲れと眠気を吹き飛ばし、物理攻撃力と物理防御力を微強化する。


※一日に二本以上摂取するのは大変危険です。

用法・用量を守ってお使い下さい。

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