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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第2章「始まりの日々」
32/156

2─V

 奥の診察室へと案内されたガイアは、医師のマキナに勧められた席に着席する。

 そして、マキナも席に座ると、カルテと鉛筆をその手に持ってガイアに向き直った。


「ガイアさん、本日はどういった症状ですか?」


「ええと、実は──」


 ガイアはありのままを告げ、マキナがその内容を書き留める。


「成る程……、分かりました。

その傷を見せて頂けますか?」


 そう言われ、ガイアはズボンの裾をまくり、膝小僧の辺りまで見えるようにする。


「では、そのまま少しじっとしてて下さいね。

『水の精霊よ──』」


 膝小僧の右脇の傷痕を確認したマキナは目を閉じると、医師の資格を持つ者しか詠唱を許可されない水属性他分類魔法「異常探知(ヴィーチア)」を発動する。

 マキナの身体の周囲に現れた魔術式は、その傷口と全身にするすると溶け込んでゆく。

 すると、今度は魔術式がガイアの身体から抜け出し、それがマキナの頭へと入り込んだ。

 そして、マキナはゆっくりと目を開き、ニコリと笑ってこう言った。


「大丈夫です、どこも問題はありませんでしたよ」


「本当ですか?」


「はい。恐らく、瘡蓋かさぶたになった部分がうずいただけだと思います。

毒もガルヴァノンの物でしたから、後遺症等の心配もありませんよ」


 そのガルヴァノンという魔物がどういう奴なのかは、想像が付かない。

 しかし、本職の医師が言うことなのだから信用は出来るだろう。

 そう考え、裾を元に戻したガイアはお礼を告げる。


「そうですか、それを聞いて安心しました」


「はい。今後また何かあれば当店までお越し下さいね」


 それだけ交わすと、ガイアはマキナに連れられて診察室から元の店の方へと戻り、カウンターで診察代800Gを支払った。


「暫く店内を見させて頂いても良いですか?」


「はい、構いませんよ」


 双子の姉妹に許可を貰い、ガイアは店内に置かれている様々な薬を物色し始めた。


「そう言えばお客様、ここの冒険者ギルドの所属なんですよね?」


「はい、そうですけど……」


 不意に、ガイアに近寄ってきた店主の方のマキナから、そんなことを尋ねられる。


「もしかして、当店のご利用は初めてですか?」


「ええ。つい先日、ここのギルドの所属になったばかりでして」


「あ、そうだったんですか?」


「はい。でも俺、一部記憶が欠けてしまってまして、この店にあるもの全てが珍しく見えてしまうんですよ」


「そうだったんですか……。もしよろしければ、商品の説明や、冒険者の方にオススメの商品のご紹介等も致しますが、どうなさいますか?」


「え、いいんですか?」


「はい。……と言うより、ぶっちゃけ今の時間帯って、一人で十分回せちゃうので」


 そう言って、マキナはあははと笑った。

 それから暫く、ガイアはマキナと談笑しながら、薬屋の商品の説明を受けた。

 そして、ふと気になった事を薬師のマキナに尋ねる。


「そう言えばマキナさんって、お姉さんと本当に瓜二つなんですね。双子なんですか?」


「え? ……ああ、違います違います。正真正銘、三つ上の姉です」


「……えっ?」


 その思いも寄らぬ返答に、ガイアは驚きを隠せなかった。

 そしてその時、ガイアが某国民的ゲームのアニメに登場する、一族全員が同じ顔をしているピンク髪のナースの事を連想せずにはいられなかった事は、最早言うまでも無いだろう。


「まさかとは思うんですが……、一族の女性が、全員同じ顔だったりします……?」


 確認するかのように、ガイアは恐る恐る質問する。

 すると、マキナはやや困ったような笑顔を作り、こう言った。


「ええ……。信じられないかも知れないですけど、そのまさかなんですよ。

違うのは、父親から遺伝するので当然と言えば当然なんですけど、髪の色くらいなんですよ。

なので、髪型で見分けられるようにしてるんです」


 その話を聞いて、ガイアは納得する。

 この世界では母親から種族、父親から髪色が遺伝するため、双子、若しくはそれに近い存在となれば、そうやって区別出来るようにしなければならない。それは、当然とも言うべき措置であった。


「……そんなに強力な遺伝って、本当にあるんですね……」


「はい……。作者が物語の人物のデザインを考えるのが面倒くさかったからとか……っていうのはあり得ますけど、まさか現実に起こってるだなんてあまり想像できませんよね」


「確かに……」


 困ったように言うマキナに、ガイアは同情せざるを得なかった。

 すると、マキナはこんな話をガイアに聞かせる。


「記録によると、初代の薬師マキナさんは、薬の試作品を自身の身体で検証していたみたいなんです。

それで……、ここからは私の予想なんですけど、その途中で、偶然素材の飲み合わせが悪い物で薬を配合してしまって、そのせいで自分と同じ外見の女性しか産めない特異体質になってしまった……っていう可能性も、なくはないと思いませんか?」


「あー……、有り得ないと言い切れない所が何ともいえませんね……」


 そう言いながら、ガイアは液体タイプの商品を幾つかその手に持ち始める。


「でしょう? ……あ、お買い上げですか?」


「はい。興味深いお話も聞かせて貰えましたし、今後もお世話になるかと思うので」


「ありがとうございます!」


 マキナはそう言うと、すぐにカウンターの内側へと回って精算を始めた。


「えーと……三級回復薬が三点、三級魔力薬が一点、マキナミンXが一点で、合計2100Gになります」


 ガイアは提示された金額を支払い、持ってきた買い物袋にそれらを詰め込むと、マキナ姉妹に別れの挨拶をしながら店を出る。

 そして、特に他に用事がある場所があるわけでも無かったガイアは、そのまま周辺をブラブラと散策し始めるのだった。

─用語データ─


◎マキナ一族

貴族の身でありながら薬師として活動し、多大な功績を残した初代薬師マキナ・ウィルソンを起源とする、薬剤調合士の一族。

一族の女性全員が同じ顔という特異体質を持っており、その原因は諸説あるが、その真相は定かでは無い。

尚、現在の彼女らが名乗っている"マキナ"という名前は特例措置として三世代目から一族に与えられたミドルネームであり、ファーストネームという訳ではない。




─魔法データ─


異常探知(ヴィーチア)

水属性の上級他分類魔法。

対象者の身体の異常を探る便利な魔法だが、専門知識が無ければ検査結果が分からないため、詠唱するには医師の資格が必要となる。

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