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魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第1章「真言」
25/156

1─XVI

 ガイアの言葉に、暫しの静寂がその場を包み込む。


「……理由を言ってみな」


 数秒の間をおいて、アストリッドはガイアに説明するように促した。


「俺は、アスナが切り出しを行っているときに、少し気になってアズライト鉱石の情報を加護の力で覗いたんです。

そして、そこにはこう書いてありました。"ある魔物が条件を満たすと生成される"と。

正直、その時は鉱石のグラム単価にビックリして、それどころじゃありませんでした。

俺も、さっきまですっかりそんなことは蚊帳の外だったんです。

けど……、先程アストリッドさんは、魔物のスケッチをすぐに取り出しました。

まるで、アスナの報告を見越して前もって準備(・・・・・・)していたかのように(・・・・・・・・・)

アストリッドさん、あなたはアズライト鉱石とメタルリザードに、何か関係性があることを知ってて今回の依頼を出したんじゃないですか?

まだ、隠してることがあるんじゃないですか?」


 それは、ガイア自身が導き出した推理。

 アストリッドは、その内容に最後まで真剣に耳を傾けていた。

 そして、全てを聞き終えたアストリッドは──


「……ああ、その通りだよ」


たった二言で、ガイアの推理がまことであることを肯定した。

 だが──


「けど、今から話す事は、一部の人間しか知らない機密情報だ。

決して第三者に一切口外しないと、誓えるかい?」


そう続けるアストリッドの目つきが鋭さを帯び、その視線が二人に突き刺さる。

 だが、二人はもう、既に引き返せない所まで関わってしまっている。

 そもそも、アズライト鉱石を採集してしまっている時点で、無関係であるはずがない。

 その事を覚悟した二人に、迷いはなかった。


「俺は誓います。アスナは?」


「私も……、誓います」


 その言葉を受け取ったアストリッドはフッと笑い、「その言質(げんち)、確かに受け取ったぞ」と言う。

 そして、アストリッドの口から、遂に真実が語られる事となった。


「ガイアの言うとおり、メタルリザードとアズライト鉱石には、切っても切れない深い繋がりがある。

それは、アズライト鉱石が"親の個体のメタルリザードによってもたらされる産物"という事だ。

……簡単に言うなら、アズライト鉱石は、親リザードの"墓標"なんだよ」


 アストリッドの口から語られた衝撃の真実に、アスナが両手で口を覆う。

 そして、驚きに満ちた声で「墓標……?」と言い、アストリッドはそれに頷く。


「じゃあ、俺が見た"特定の条件"って言うのは……」


「ああ、その通り。卵を産み終えた親リザードの"死"さ。

親リザードは、卵を産むと生命力を使い果たして、すぐに死んじまう。

やがて、死んだ親リザードの死体はドロドロに溶けて、地面に吸収される。

そして、そのドロドロした液体が溶け込んだ大地から、お待ちかねのアズライト鉱石が生えてくるのさ。

そしてアズライト鉱石は、子供のリザードが二度目の脱皮を迎えるまでの間の、言わば"離乳食"になるのさ」


 唖然。

 その事実を知った二人の様子をただ一言で現すなら、これ以上に相応しい言葉は無いだろう。

 そして、何かに気付いたアスナが恐る恐る手を上げ、アストリッドはアスナの名を呼ぶ。


「えと……、離乳食って事でしたけど、それを採集しても良かったんですか……?」


「ああ、たった500gぽっちなら問題無いだろうさ。

……ま、本来ならリザードが立ち去った後に残されてる"残飯"を採集する方が望ましいけど、そこまで待ってられないからね。

それに、もし仮に二匹生まれでもしてたら、残飯は残らないしね」


 それを聞いて、アスナはホッと胸を撫で下ろす。

 すると、今度はガイアが新たな疑問が浮かんだようで、アストリッドに挙手を行う。


「メタルリザードの卵って、基本一匹なんですか?」


「ああ……。メタルリザードは雌雄同体だけど、兎に角数が増えないんだよ。

ごく稀に二匹生まれる事もあるけど、基本は一匹の親が一匹の卵を産む、一子相伝の繁殖方法なのさ」


「じゃあ、メタルリザードが討伐禁止指定を受けているのは……」


「まあ、そう言う事さ」


 即ち、個体数保全とアズライト鉱石。

 その二つの理由から、メタルリザードが第一種指定を受けるという事は、確かに納得の行く理由であった。

 すると、アストリッドは「はぁー」とわざとらしく溜め息をつくと、こう言った。


「さて……、表向きは、"傀儡ゴーレムに与える意思に性格を加える実験"と言うていで通しているからね。私事で使ったことがバレたら……、どうなることやら」


 最後の方で二人をちらと見やり、笑顔を作るアストリッド。

 だが、二人に後悔は無い。

 今この場で語られた真言は、墓場まで持っていく心づもりである。

 その意志を確認したアストリッドは──


「これで、アンタ達も共犯だね」


そう言って、二人の肩を抱き寄せたのだった。

言質(げんち):言葉の人質。後の証拠となる言葉。




─魔物データ─


◎メタルリザード

弱点属性:雷、炎(有効度順)

撃退難度:G(第一~第三幼体)→S+(成体)

特記事項:第一種討伐禁止指定種


硬質で銀色に鈍く輝く身体を持つ、トカゲ型モンスター。

その身体は如何なる攻撃も通さないが、炎と雷だけはほんの僅かに効果がある。

地下で生活する為に聴覚と嗅覚が発達している反面、視力はあまり良くない。

また、嗅覚が発達した反動で「魔除けの香草」の香りにも非常に弱い。

ただし、成体に対して使った場合はかえって怒らせてしまうだけであるため、使用を控えた方が無難。


ごく希に二匹生まれることもあるが、基本的には一匹の親から一匹しか子供が生まれない為に個体数が少なく、個体数保護ともう一つの重要な理由から第一種討伐禁止指定種に指定されており、殺してしまったり生態系に影響を与えた人間は死罪、又は無期懲役となる。


生まれた子供は一定の周期で脱皮し、四度目の脱皮を終えるまでの間、親が作り上げた縄張りの中で生きる。

四度目の最後の脱皮を終えて成体になったメタルリザードは、新たな縄張りを確立して鉱石を含んだ土壌を食らうことで体内に卵を生成し、その卵を無事に産み終えるとすぐに絶命する。

その親の死体はすぐに溶けて周囲の地面に吸収され、その場所からは子供が二度目の脱皮を終えるまでの間の主食となる"アズライト鉱石"が姿を現す。


アズライト鉱石には「命の力」と呼ばれる摩訶不思議な力が宿っているが、原則として幼体のメタルリザードが食べきれずに"残飯"となる分しか採集することが出来ない為、非常に希少価値が高い。


以上の事から、メタルリザードが鉱山のある場所に住み着いた場合は、成体のエネルギー補給及び第三幼体の成長の妨げにならないようにするため、立ち去るまで閉山するという措置を執る必要がある。

故に、非常に長い間本来の鉱山事業が成り立たなくなってしまう為、鉱山の作業員達からは"鉱山殺し"と呼ばれて嫌われている。

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