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吸血鬼な幼女様と下僕な俺  作者: K・t
第三部 海辺の町と潮風編
39/60

エピローグ

そこそこ長かった第三部もおしまいです。

「あのあと、私達がどれだけ重労働を強いられたか! 大変だったんだから!」

「分かった。分かったって」


 ルフィニアは息がかかりそうな距離で地団駄を踏み、冷や汗をかく俺からようやく数歩下がって、盛大にため息をついた。


「にしても、図太いねぇ」


 父親の秘書の豪胆さに、ルーシュもくつくつと笑っている。


「そこで追求しないってのが、秘書の鑑というかなんと言うか」


 際まで追いやられた俺は、ベランダにもたれかかった姿勢のまま飲み物の残りを飲み干す。強く握っていたせいで、折角冷えていたそれは温くなってしまっていた。


「幸いすぐに連絡が入ったから良かったものの……。心配したのよ」

「悪い」


 結局、突き止めたかった真相はあちこちが穴だらけだった。どこで何がどう繋がっているのか、おぼろげでしかない。


「ま、こんなもんだろ」

「お前、色々と知ってて隠してるだろ」

「さーな。あいつは昔っからあぁなんだよ。なまじ力を持ってるから、飽きるまでやめない」


 ルーシュの意味深な呟きを測りかねて追求しようとしたら、後ろでせっせとジュースを飲んでいたイリスの「ごちそうさまー」が聞こえた。


「フォルト、これおいしかったよ」

「よかったですね」

「こんど、ディーリアにも飲ませてあげたいなぁ」


 そう言って笑う幼女の顔に翳りはない。イリスからディーリアへの友情には問題がないようだ。でも、逆はどうだろう?

 事件のあらましを説明した時、懸念したのはそこだった。どうしても確かめたくて、ディーリアに「怖くないのか」と訊ねずにはいられなかった。

 知らない大人達に捕まり、しかも外は血の匂いでいっぱいとくれば、恐怖に駆られても当然だ。けれど、少女はあっさりと首を横に振った。


『ううん。イリスちゃんと一緒だったから怖くなかったよ。友達だもん』


 こちらが舌を巻かされてしまう。無知から来ているのではないことを、その真っ直ぐな瞳が証明していた。そうして二人は本当の友達になった。


「あ、あれみてー」


 幼い声にはっとしてイリスの指先を追った。そこには一匹のコウモリが飛んでいて、口には何やら白いものを咥えているように見えた。

 コウモリは羽音も立てずにこちらへまっすぐやって来ると、イリスの手にそれを落とした。白い封筒だった。


「ディーリアからだぁ!」


 イリスは嬉しそうに叫び、友達から届いた手紙を見つめた。小さな贈り物ではあったが、彼女にはとても大きなプレゼントである。


「へぇ、手紙のやりとりなんてしてるんだな」


 兄が言うと、妹は笑顔で頷いて俺にそれを預けてきた。今はパーティーの真っ最中だ。それに、今までにも何度か送られてきた手紙も、いつも自室で読むと決めていた。

 開けたくてうずうずしているに違いないのに、ぐっと我慢している姿には周りの大人達も少し感激してしまう。


「えらいですね」


 さらさらと手触りのよい頭を撫でてやると、えへへと笑った。そんな彼女の喜びの余韻が消えてしまう前に会場の灯りが消え、当主の声と共に最後の余興が始まった。


最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

これまでで一番長くなってしまいましたが、なんとか終わらせることが出来ました。

お話の中でフォルトが言っている通り、まだあちこち書き切れていない部分がありますが、そこは改めて裏側を描いて、本当の終わりにするつもりです。

また読んで頂けると、本当に嬉しいです。

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