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吸血鬼な幼女様と下僕な俺  作者: K・t
第三部 海辺の町と潮風編
25/60

プロローグ

「うわわわっ、おちっ、落ちるっ!!」


 草木も眠る丑三つ時。その言葉通りに、風さえ音を立てない夜闇の空に、けたたましい叫び声が響き渡った。


「うわあぁ、楽しいよー!」


 三日月の細面から発せられる薄明かりの中に浮かびあがる影は、二人がぴったりとくっ付いて重なったものであった。

 俺――フォルトは青い顔をして片腕に小さなイリスを抱き寄せ、もう片方の手で頼りない、草の蔓で編まれた縄を握りしめている。


 縄は二人が座る長方形の板を支え、上から引っ張る力で吊り下げられる格好を取る。いわば、宙に浮くブランコであった。

 こわごわ上を見上げると、そこには音もなく飛び続けるコウモリの群れ。彼らがブランコを支え、二人を空へ誘っているのである。もちろん盛大に揺れ、スリル満点なのは言うまでもない。


「ねぇねぇ、フォルト。風がすごいねー!」


 暗がりの中で見るイリスの瞳は紅く輝き、その口元には鋭い牙が覗いている。慣れたといっても、それをこんな状況で目の当たりにするとなんとも言えない気持ちになる。

 いつもの紫のローブではなく、深緑色をしたフード付きの上着に身を包む彼女は、どんなにあどけない表情をしていても吸血鬼であることに変わりはない。


「今夜は冷えますから」

「あぅ」


 そう言って少女にフードをかぶせ、尖った耳をその下に隠した。俺自身も仕事着である黒スーツではなく、今は彼女と似た色のコートで足下近くまで体を覆っている。

 まるでマントのようにそれは風を受けて翻り、一時のみイリスの興味を引いたが、過ぎてしまえばパタパタと耳障りな音をさせるばかりだ。

 中には服と一緒に長い髪も仕舞われている。どこかに引っかかったりしたら目も当てられない。


「フォルトのかみをマフラーにすればあたたかいよー?」

「……」


 確かに長さ的には問題ないが、他の面では大アリである。それにしても旅を始める前に髪も切らせてくれないなんて、と俺は今更ながらに従者の身の上を思い知るのだった。

というわけで第三部開始です。

メインはフォルトですが、このお話は都合により視点があちこち移ります。

ご注意ください。

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