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派遣の人格  作者: 神村 律子
七日目
23/37

草薙復帰

 そして翌日。


 律子が出社して作業室に行くと、すでに草薙がいてパソコンを操作していた。


「おはようございます」


「おはようございます。ご迷惑をおかけしました」


 草薙は立ち上がって頭を下げた。律子は恐縮しながら、


「もう大丈夫なんですか?」


「はい。それ程重症化した訳ではないので大丈夫です。もちろん、感染の恐れはないので安心してください」


 大丈夫だという草薙の顔は気のせいかやつれて見えた。


「無理なさらないでくださいね」


 律子は草薙が頑張り過ぎないように言った。


「ありがとうございます」


 草薙は微笑んで応じると、また席に着いてパソコンを操作した。


「おはようございます」


 そこへ野崎と小松が入ってきた。二人も律子同様、草薙がいるのに驚き、声をかけた。


「本当に大丈夫ですから。遅れを取り戻しますね」


 草薙は心配そうな顔の野崎と小松に言うと、もう一度パソコンを見た。


「邪魔にならないように別の作業をしましょう」


 野崎の提案で三人は草薙から離れたテーブルに着き、作業を開始した。


「おはようございます」


 更に関がやってきたが、草薙は会釈をしただけで操作を続けた。関も会釈を返して律子達に近づいた。


「午前中にはシステムの不整合は修復できると思いますので」


 関はチラッと草薙を見てから小声で言った。


「それより、社長は大丈夫なんですか?」


 野崎が小声で尋ねた。関は苦笑いをして、


「本人が大丈夫だと言っている以上、こちらも強くは言えませんし、感染の恐れは皆無だと医者からは連絡があったので」


 草薙を休ませる理由がないという事なのだ。律子達は顔を見合わせた。


「先日、ご指摘いただいた箇所なのですが、それに対応するマニュアルを考えてみました」


 小松が清書した書類を関に渡した。関はそれをサッと見て、


「ありがとうございます。早速、検討させますね」


 作業室を出て行った。


「さて、どうしましょうか?」


 小松が小声で言う。仕事が止まってしまっているのをアピールしていると思われると、草薙に無用なプレッシャーをかけてしまうからだ。


 そっと草薙を見てみると、眉間にしわを寄せて、ハイスピードでキーボードを叩いている。


「手順書を再検討してみましょう。去年、不都合があったところを洗い出すとか」


 野崎が言った。


「そうですね」


 小松が応じ、律子は黙って頷いた。三人は手順書を見て、問題がないか探った。


「この作業からこの作業に進める時に、チェックをする事にしましょうか。そうすれば、間違ったまま先に進む事が未然に防止できますから」


 律子の提言を野崎も小松も同意してくれた。


「この流れの不自然な部分は、むしろ、神田さんの方が気づけるのかもね」


 野崎が言ったので、小松も、


「そうですね。私達は当事者だから、客観視できないんですよね」


 律子の立場を褒めてくれたので、律子は照れ臭くなってしまった。


 


 しばらくして、


「もうこんな時間なんですね。お昼休みですから、食事にしてください。私はキリがいいところで別に休ませてもらいますから」


 草薙が促してくれたので、


「ではお先に」


 律子達は気兼ねなく作業室を出て昼食にした。


「そう言えば、スゲジュール表に書いてありましたけど、来週からクライアントから質問の電話が入る事になっていましたね」


 律子が弁当を食べ終わったタイミングで言った。野崎はバッグに弁当箱をしまいながら、


「そうでしたね。長谷部さんがいた時、電話応対のマニュアルを渡すような事を言っていた気がするんだけど、関さんに訊いた方がいいのかな?」


「ですね。ないとか言われると、嫌ですね」


 小松が溜息混じりに言う。今までが今までなので、その可能性は考えられると律子は思った。


「そうね。言われそうな気がする」


 野崎は苦笑いした。


 三人が作業室に戻ると、草薙はまだパソコンと睨めっこをしたままだった。


「社長?」


 心配になった律子が声をかけると、


「ああ、そうですね。一度休憩します。自分で作ったシステムなのに、思うように改善できなくて、イラついてしまいました。頭を冷やしてきます」


 草薙はバツが悪そうに笑うと、作業室を出て行った。


「こういう事、全くわからないから、想像もつかないんだけど、社長が凄いのはよくわかるわ」


 野崎が言った。小松は、


「私、プログラミングを少しやったことあるんですけど、挫折しましたからね。少しだけ、大変さがわかるような気がします」


「私、理数系は中学の時に諦めたので、もうそういう事できる人、尊敬しちゃいます」


 律子が言うと、野崎と小松は笑った。


 三人が午前中の続きを進めていると、関が顔を出した。


「あのマニュアル、大変よくできていました。来月から来る人達にも渡したいので、パソコンが使えるようになったら、入力してプリントしてください」


「わかりました」


 野崎が応じてから、


「実はですね」


 電話応対の件を関に尋ねた。関は目を見開いて、


「そうなんですか? それはこちらには伝わっていないですね。長谷部が残した書類を探してみます」


 慌てた様子で作業室を飛び出して行った。

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