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第二部エピローグ

 乗り込んだ車は、少女が完全に座席に腰を下ろした事を確認すると、まるで示し合わせたかのように動き出した。

 先程まで居たはずの旅館がどんどん遠ざかっていく。

 車に乗ってしまえば、特別気を使う必要性など皆無なのだが、汐の性分だろう。それを確認してから、ほっと一息と言わんばかりに脱力する。

 そして深呼吸を数回繰り返すと、再び気合を入れ直すと運転席の男に声を掛けた。

兵藤(ひょうどう)様。お電話をお借りできませんか?」

「………」

 少女の呼び掛けに、運転席と後部座席を区切るような、外装と同じような黒塗りの窓が開く。そこから見えるバックミラー越しには、ハンドルを握る男のサングラスが映っている。

男は無言ながらも、威圧感ある眼差しをサングラスから覗かせ、少女に携帯電話を手渡す。

 少女は素早く番号を押すと、携帯電話を耳元へと添える。そして繋がった相手に対して――

「もしもし。汐です」

 先程、優達と話していた時とはうって変わった、大人びた表情を伺わせて厳かに言った。

「ご本人様との接触に成功いたしました。主観のみですが、間違いないように思えます」

「――――!!」

 その瞬間に響き渡った、鼓膜を破壊せんが如く相手の大声に電話を耳元から離しつつ、僅かに眉を顰める。

 しかしすぐさま目を伏せ、話が終えた頃を見計らって耳元へと電話を添えると、平然と――

「はい。そうかも知れませんね」

 さも、今の話をすべて聞いていたかのように頷いた。

「しかしそれは……いえ。決して異論がある訳では……はい、了解致しました」

 余程無茶な難癖をつけられているのだろうか。ますます、少女が眉を厳しく顰める。

 そうして相手の話に耳を傾ける事数分後。

「……それでは帰宅後、手続きに入ります。大丈夫です。それぐらい私でも出来ます」 

 話し終えたのか。溜め息混じりに携帯電話を畳むと、少女は窓の景色に視線を移した。視線の先には、地平線の彼方まで広がる壮大な海。私用で来た時であったなら、多少は夏を満喫できたのだろうかと邪まな考えを抱いてしまう。

 しかし今頃、自宅で地団駄を踏んでいるであろう電話の相手の姿を想像して、失笑気味にそんな考えを振り解く。

「兵藤様。このまま峯苫(ほうせん)高校へと向って下さい」

 事前にそうなる事を予想して、彼女の友人から高校名を聞き出しておいた。

 その言葉に兵藤と呼ばれた男は僅かに頷くと、手元にあるボタンのひとつを押し、再び運転席と後部座席を黒い窓で区切る。

(いつもながら不思議な殿方ですね)

 その態度に、汐は困ったような笑みを浮かべた。与えられた立場上、この兵藤という男と行動を共にする機会が多いものの、未だにその心中を理解できないでいる。

 とはいえ、汐の正体を知っているのは当事者と彼だけである。つまりは、現状で最も信用できる他人である事も事実だ。

 だがいつまでもこの状況を周りに隠し通せる訳ではない。

 だからこそ――


「同じ境遇であるはずの翔様のお力添えが必要です」


 決意を秘めた瞳で、汐は呟いた。 

 


ぷらマイS。の第二部、これにて完結でございます。

ここまで執筆出来たのも、やはり読者様のおかげです。多謝!

第三部連載まで少々時間が空く事になりますが、少しの間お待ちくださいね。空く、と言っても一週間ほどだと思いますが……。

執筆中も、色々と面白くするためには課題が多々あると感じたので、第三部ではそういった部分も改善しつつ楽しめるお話作りができればな、と考えております。

お手紙、コメント、感想大歓迎です。文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

それでは〜。如月コウでした(礼)

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