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第21話 剣術小町であってそうでない少女

俺の宣戦布告と、霧島の受諾があった数十分後。

放課後から随分と経っているにも関わらず、部活が丁度終わり始めた頃だったせいか。

どこからか俺と霧島も決闘の噂を聞きつけたらしく、かなりの数のギャラリーが武道場に押しかけて、賑わいを見せていた。

俺は一人、その雑踏から少し離れた部室棟にある剣道部の部室にいる。

「…仕方ないか」

溜め息混じりに、ここにある一番小さな剣道着に袖を通す。

だが女子部員がいないせいだろう。如何せん、今の俺に――つまりは女子の背丈に合った道着がない。奇跡的にそれに近い剣道着はあるにはあったが、やはり多少の動き辛さを感じる。

「優さん…ホントに防具無くて大丈夫なんですか…?」

その姿に不安を覚えたのか。部室の入り口から顔を覗かせたのは綾奈だった。

「ん、大丈夫大丈夫」

本来、試合を行うなら身に着ける筈の防具はあまりにもぶかぶか過ぎて動けなくなるので着るのは諦めた。だが、その防具を身に着けずに試合に臨む俺を心配して、綾奈はわざわざ様子を見に来てくれたのだろう。その後ろには翼の姿も見える。

「しっかし…。入部した初日にマネージャーの優が試合するなんてね。いつもながら目立つ事するもんだ」

「ホントは目立つのは嫌いなんだけどね…」

翼の言葉に苦笑する。

だが、よくよく考えればデモンストレーションとしてはなかなか効果も有りそうだ。上手くいけば新入部員確保も見込める。一石二鳥である。

「でも…負けたら恋人だなんて」

綾奈が一番の不安を口にする。

それは先程、武道場へと駆けていく男子生徒も言っていたが『神凪優が霧島の恋人になる事を前提条件に試合をするらしい』という、一見俺の負けが決定している試合だからだろう。

「霧島君も油断してるだろうし、その隙をつけば大丈夫だって」

苦笑いを浮かべつつも、努めて明るく振舞う。

その苦笑いが、悲痛な決意からくるものではなく、大勢の前で霧島を叩き伏せる喜びに、必要以上に頬が緩まないようにするためのものだったりするのだが。

「優。準備は万事整いました」

そして、開始を知らせるために薫が俺を呼びに来る。

「それじゃ、皆応援してね」

満面の笑みで言う。

そしてそのままの表情で手を振り、軽やかにスキップしながら武道場に向う俺の後姿を、三人はさも不思議そうな表情で眺めていた。



「すまない…神凪。俺が不甲斐無いばかりにこんな事に…」

武道場について、囁かれる噂を右から左へと聞き流しながら試合までの時間を過ごしていた俺に、相川先輩が頭を下げてきた。

「い、いいですってば!頭なんて下げないで下さい」

両手をぶんぶんと降り、慌てて頭を上げさせる。

最初の奇行はさておき、この相川という男は礼節を重んじるかなり生真面目な方らしい。

そんな彼に、突然俺を抱き寄せて『貴女が欲しい』などと、馬鹿っぽい事を吹き込んだ霧島はやはり万死に値する。

「それでは…両者前へ!」

そして審判役の男子生徒の声が響き渡る。

相対する両名。静まり返る道場内。その中心で両者、共に防具を着けないままゆっくりと竹刀を構える。

「防具を着けないでいいんですか?」

「優ちゃんこそ。それに、そんな道着がぶかぶかだと、打ち込んだ竹刀に偶然引っかかって途中で脱げちゃうと大変だよ」

俺の姿に、霧島がいやらしい笑みを浮かべる。

実際俺の着込んだ道着はぶかぶかで、見るからに激しい動きは出来ない。周りのギャラリーには散々『ギャップが可愛い』だの『チラリズム万歳』だのはやし立てていたが…。

そう言って、俺に心理的プレッシャーをかけてくる辺りは、さすが抜け目がない男である。

だが、それは俺も承知の上。

「……ぬかせ」

対峙してまで、相手の力量を測れぬ霧島に、聞こえぬ様に悪態をつく。

そして―


「始め!」


合わさっていた竹刀と同様に、弾かれるように間合いを取るために後ろに小さく飛ぶ。

試合の数合わせでしかない霧島に、自分が負けるとは思わないが…一本勝負である以上油断は出来ない。一瞬の油断で雌雄が決してしまう事なんてざらにある。

さらに言えば、俺はこの女の体に完全には慣れてない。男であった時と同様に動けると思って行動すれば、最悪負けてしまう可能性だってある。

ならば相手が油断している、今のうちに仕留めるのが理想。十分な力量があり、相手を確実にいつでも仕留められる洗練された技量があれば話は別だろうが…。

少なからず、今の俺はそれほどの腕前など持ち合わせていない。

ゆえの一本勝負。油断が勝負の決め手となる。俺は油断なく中段の構をとる。

「―……あ」

その落ち着いた一連の動作に、審判である剣道部の部員が小さく声を上げた。

しかし、俺をただの素人の女としてしか見ていない霧島はそんな事も気づかない。

小さく竹刀を振り、小手を打ってくる。それなりに女である事を気にかけているのだろうか。その速度は極めて遅い。

即座に見切り、手にした竹刀で相手の竹刀弾くと続け様に―


「めーーーーーん!!」


竹刀をしならせ、何が起こったか分かっていないであろう霧島の面を容赦なく捉える。

(殺った……)

心の中でほくそ笑む。

手加減してやったとは言え、防具も着けずに竹刀で面を打たれたのだ。そのダメージは計り知れない。

当然の如く意識を飛ばした霧島は前のめりに倒れ込む。

そんな霧島を見下ろしつつ。

「…これでデートも恋人も無し、ですよね」

ブロンドの髪を揺らして、にっこりと微笑む。

「め、面有り一本!勝者、神凪優!」

そして一瞬呆気に取られていた主審が、改めて俺の勝利を宣言する。

その瞬間―

「カッコイイ…」

「すげーーー!」

「神凪さん素敵ーーー!!」

あちこちから巻き起こる賞賛の声の嵐。

その声にようやく我に返った俺は、どうも目立たないようにするといった考えからかけ離れた事を仕出かした事に気がつく。

慌てて俺はとにかく体のいい愛想笑いを振り撒きつつ、逃げるようにその場から立ち去った。



その後。霧島は退部届けを出し、剣道部を去った。

そのせいで団体戦への夢を潰えさせてしまったのかと心を痛めたそうになったが、この騒ぎのおかげで剣道部の部員数は跳ね上がり廃部は免れたようだ。

中には感銘を受けて、純粋に剣道へのやる気を見せる新入部員も確保できたらしく、部長である相川はそれをかなり喜んでいた。

しかし、それ以外。不純な動機の入部希望者の多さから、俺が在籍していると他の部活にも迷惑がかかるとして、生徒会から俺への部活動禁止の通達が下ったのは――なんというか。

残念だったような、これで良かったような。

正直その心中は複雑だが…。

当分の間は、俺は以前と同じように帰宅部での生活を満喫する事には変わりはなさそうだ。



二度。ラブ要素がありません(挨拶)

さて。皆さん、部活動編はどうだったでしょうか?

何かの部活に、とも考えたんですが…。こういった形に落ち着きました(苦笑)

次は…とりあえず案としては物語的な夏休み前に一呼吸を入れたい所ですね。頑張ります。

お手紙、コメント、感想大歓迎です!文法的におかしな部分、読み難かった部分があればご指摘、もし宜しければお願いします。

それでは〜。如月コウでした(礼)

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