《シャルル》風呂
戻った私を出迎えたのは、仕事を成し遂げた感謝や、労る気持ちの欠片もない、実に腹立たしい顔をした大臣達だった
「シャルル様。お疲れさまでした。」
「ありがとう。お風呂を頼みます。今日は早くに寝て、明日の朝日が昇る前に起きます。朝食は軽めでお願い。」
「畏まりました。お風呂の方は数分もすれば出来ますので、お着替えをお持ちになって下さい。」
家政婦の女性にお風呂を頼み、1度部屋に戻って一休みだ
「はぁ………。」
溜め息をつけば幸福が逃げると言われているが、それなら今日だけで少なくとも1年分の幸福は去っていっただろう
鎧を外して壁の隅に寄せておく
こんな鎧、形だけのもので魔法の前にはすぐに脆く崩れ去る上に、無力だ
重石を持って戦場に行くくらいなら裸で結構。絶対やらないけど
最早儀礼用の剣
名人が叩き上げた刀も、魔法のエンチャントをした木刀にへし折られる事もある。
まぁ、魔法使いは不遇でも有る
1日に使える魔法は、並みの魔導士なら3~4回。
例え一撃必殺でも、戦場にポコポコ持っていく訳には行かないし、何より魔力が尽きれば終わりだ
魔道士といえど、中には下級の回復魔法が使えるだけの物も居る
ポーションで事足りるが、重症なら…………と言えど下級の回復魔法なら意味は無い
だから騎士団は居るが、この国での仕事は他国の牽制くらい
しかし、例え高位の魔法が使えても、更にオリジナルの高位以上の魔法が使えても、権力の前には意味が無い魔法使いと比べたらマシと言われるのだ
「はぁ……………………。」
私には魔法の素質が有る。
他とは比べ物にならないほどの素質と感性が
もっとも、それでも今の現状は変えられないが…
「お風呂………。」
気持ちを切り替えて、タンスから着替えを出してから浴場に向かう
無駄に大きな浴場は、一般市民が週に1度ほど娯楽で訪れる温泉と同じ大きさをしている
1度贅沢に慣れると、無くなるときに困るので、自重しようと思うのだが、やはりお風呂は気持ち良い
私は廊下をゆっくりと音を立てないように歩く
聞くものなど、使用人以外は居ないが、昔の癖だ
「タオルは中に掛けております。」
「ありがとう。」
使用人に扉を開けてもらい、入り口の棚に服を突っ込んで、浴場の扉は自分で開けた
壁には女神が災害と戦う所を描いた、素晴らしい造り…とやらになっているらしい
風呂にまで絵を飾ってどうするつもりなのか?全く建築家の心は理解できない
とっとと魔法で体を浄化して、これで汗や汚れとはおさらばだが、湯船には浸かる
「はぁ…………………………、」
湯に浸かると、体が一瞬緊張して、すぐに解れる
息を吐き出しながら、ゆっくりと湯のそこに倒れる
顔だけ出して、白いタイルで出来た天井を眺める
今日話した二人は、災厄の魔族には全く見えなかった
そう見せてるだけと言われれば、それで終わりなのだが、信用に値する人だと、私は思った
他の物たちは、兎に角自分の命を優先して、家財道具を纏める準備までしている物も居たが、心配は要らないと思った
むしろ、そんなことをしている方が悪く見えて、それが原因で……。等となったら目も当てられない
ドラゴンの方は…、リリアと言っていた
名前付きの魔物…それも最上位ののドラゴンだ。それを従えるハルナも中々の腕前を持っていることだろう
気は抜けない、私には国民の命が掛かっている…と言われた
下手な対応をとれば、全責任は私が負うことになるだろう。それで許されるかは分からないが、私の命が無いのは確実だろう
その時、他のクズが生きているなら…、私は許せるだろうか…。
頭に浮かぶのは、他の議員の邪な目線
思い出しただけで腹が立ってきた
「のぼせたな……。」
私は湯船から上がり、頭をふった
水が髪を伝って撒き散らすが、私が片付ける訳では無い
風呂場まで嫌な奴等の顔を思い出したのは、大変遺憾だ
明日は早い、とっとと眠ろう
私は気分がちっとも良くならずに風呂場を後にした




