サイド:火星連合軍⑧愉しみは……
(しぶといですね! 壊しがいがあります!)
摩希人の加虐心は加速していく。目前の玩具を壊したがる子供のように。
銀狼幻月の主武器、破月刀・納哭と合わせて腰からもう一振り、短刀の煌餓を抜刀する。二刀流スタイルとなった状態で、目の前の金色の機体に向かって行く。
(この敵機、近接が苦手そうですし。どう壊しましょうかね?)
明らかに、金色の機体が一定の距離を取っているのがわかる。だからこそ、接近し続ける摩希人だが、相手の技量が高く上手くかわされる。それがまた、摩希人にとっては愉しくて仕方ない。
相手が強いほど、燃える性質でもあるのが彼なのだ。
どこまでも、ゲーム感覚。
どんな状況でも、楽しむのが摩希人の流儀。
彼なりの誠意。
だが、それを理解する者はいないだろう。
常人が理解し難い領域にいるのが、摩希人という人間の在り方なのだから。
――摩希人の駆る銀狼幻月と金色の機体との攻防は、終わらない。
(いいですねぇ! これぞ、生きている感覚ですよ!)
生を今まさに実感しながら、戦闘を継続する摩希人の耳に、通信が響くが無視した。
(壊したい! この機体を!)
自分の欲望のままに動く摩希人だが、突然機体が動かせなくなった。そこでようやく気付いた。
隊長機から伸びるワイヤーによって、強制的に動きを封じられた事に。
『聞こえんのか! 帰還命令が出ていると何度も告げたであろうが!』
スヴェトの珍しい怒号に、摩希人は冷めたように小さく舌打ちをする。そのスキに、金色の機体は遠のいていた。
「帰還命令って、何故ですか~?」
少し苛立ちながら尋ねれば、以外な言葉がスヴェトから返って来た。
『上からの命令だ。我々はこれより、別任務にあたる』
「は?」
別任務。
つまりは、あの金色の機体が所属する部隊との交戦よりも、重要な任務があるという意味。
それも、今まさに交戦中のタイミングで出たという事が、摩希人には不自然に感じられた。
何より、玩具を取り上げられた感覚が不快で、彼にしては珍しく苛立ちもある。
だが。
その感情にもすぐ飽きた摩希人は、ようやく命令に従い帰還するのだった。




