サイド:火星連合軍⑦狂気の狼
出撃したナイトメア小隊は、地形を生かして進軍して行く。
火星は地球と同じように、地形が存在している。だからこそ、慣れているとも言える。
そこで摩希人は、見つけてしまった。
――あの金色の機体を。
「やっと会えましたね! 行きますよぉ!!」
『待て!』
隊長であるスヴェトの引き留める声が聞こえたが、摩希人は無視して敵である宇宙コロニー軍の精鋭部隊へ突撃して行く。相手も気づいたらしく、すぐに迎撃体勢へ入るのが見えた。
金色の機体は、おそらく銃と鎌が合体しているのであろう武器を構え、摩希人の乗る銀狼幻月と対峙する。その対応に、摩希人の口角が自然と上がる。
(いいですね! 相手になってもらえると、ぶっ壊す楽しみが増えますよ!)
どこまでも歪んだ感情を隠す事無く、摩希人は銀狼幻月の刀の内、打刀の破月刀・納哭を抜刀して構える。どうやら、一騎打ちに出たらしい相手を確認すると、摩希人が先に動く。
全力で、刃を振るう。
相手の金色の機体は、それを鎌の刃部分で受け止めたり、受け流したりしている。
一進一退の攻防だ。
今の摩希人に、周囲等一切見えない。
だから、他の隊員達がそのフォローに回っている事にも、気づいてない。後から間違いなく怒られる上、処罰も当然あるだろう。だが、それすらどうでも良いと言わんばかりに攻撃していく。
全て己の欲望のために。
一心不乱の刃を振るう彼の姿は、狂気そのものだろう。
相手もそれを理解しているのか、スキを見せる様子はない。むしろ警戒しているからであろう、攻撃の仕方だった。
(ははっ! 生きているって感じがして、堪りませんね!)
昔からの、性分だった。
彼の狂気に気づいた両親も、親族も……いつからか彼を畏れ、遠ざけるようになった。もっとも、摩希人はそれに興味を持たなかったが。
今もそうだ。
配布されたアニマロイド狼型のマカミも、いくらAI搭載された自律型とはいえ、摩希人に対し物申す事をしなくなった。初期の頃は、動きで摩希人を制するような動作があったが、今ではただのペット……いや、そばにある便利なツールくらいの印象だ。
摩希人を止められるものは――もう誰もいない。
一度決めたら、徹底的にやりたがる。
だが……その特性を含めての配属であるがために、隊長のスヴェトもあまり言えないという事を本人は知らない。
二機の攻防戦の果てはいかに――?




