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俺の仇は俺が討つ!!   作者: 魔桜
episode.03「灰色の悪魔は真実を嘯く」
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phrase.19「人脈があるってことは、それだけで武器」

「旦那! ちょっと待って欲しいッス」

 午前の授業が終わり、廊下を歩いていた紫苑。

 生徒でごった返す集団の中、窮屈そうに後ろを振り返る。すると、眼帯代わりに包帯を巻いている長身の男が走り寄ってきた。

「ああ、アシュレーか。……なんだかやつれているように見えるけど、大丈夫か?」

 顎が尖って、顔の下半分が青白くなっている。

 精神的に疲弊しているように、痩せこけているように観える。

「そ、そっスか? ……まあそれも仕方ないといえば、仕方ないッス」

「……どうかしたのか?」

「同居人のせいで、精神的にきてるんスよ」

「……どういうことだよ?」

「想像して欲しいッスよ。部屋に戻ればあの陰気な顔した男が、ずっと無言で部屋にいるんスよ? 部屋でやることといえば、チェスッス、チェス。……しかも、何をやっているかと言えば一人チェスッスよ。あの居た堪れない空気に、アッシはこれ以上耐えられる自信がないッスよ」

 身振り手振りを加えながら説明するアシュレー。

 どうやら相当まいっているらしい。

 同居人がヒートリンクスで良かったなと思いながら、紫苑は提案してみる。

「チェ、チェスを一緒にやってあげればいいんじゃないのか?」

「冗談は辞めて欲しいッスよ。もしも下手に声かけて、あんなバケモノの機嫌を損ねたら、アッシみたいな雑魚はひとたまりもないッス。ただでさえ、明日の入学最終試験でピリピリしてるッスから」

 入学最終試験。

 ついに明日行われるのだが、はっきりいって全く自信がない。

 紫苑の能力はどう考えても、実戦向けではない。というよりは、『隷属』であるということ自体が圧倒的に少数派。強制参加の新入生は『操術師』がほとんどであることが、自信を喪失させている。

「まあ、色なしは、合格は絶望的ッスからね。アッシと旦那の二人とも残っていることを祈ってるッス」

「そういえば、どんな試験やるのか決まってるのか?」

「それが、どんな試験をやるか分かってないんスよね。実戦の超難関試験ってことだけは分かってるんスけど、それ以上は……。アッシは情報を集めてみたッスけど、どいつもこいつも口が堅いッス。ってことは、試験は相当やばいんじゃないんスかね」

 アシュレーは軽い口調で言うが、どんな方法で情報を集めているのか分からない。

 最初は、アシュレーが物知りに思えたのは、紫苑が世間知らずなだけかと思っていた。

 だが、この学園で通ううちに、アシュレーの情報収集能力は並みではないことが分かってきた。

「そうなんだよな。フイファンや『国斬り』先輩も、その話には触れて欲しくなかったみたいだしな」

 思い返すと、どちらも顔を渋っていた。

 いくら空気が読めなくても、あれほど露骨にプレッシャーをかけられれば閉口せざるを得なかった。

 アシュレーは横で歩きながら、

「そういえば、旦那って『国斬り』先輩と最近親しげッスよね。パイプが着々と構築できていて、羨ましい限りッス。うーん。できれば、今度紹介して欲しいッス。どうか、お願いするッス」

 できれば、という言葉。

 ペコペコと頭を下げている様子。

 その割には、どこか強引そうな口調に、紫苑は無意識的に回答を渋る。

「うーん。あの人とは、ちょっと話しただけだしな。勝手に俺が紹介してもいいのかな」

「人脈があるってことは、それだけで武器になるッスよ。特にこの学園を生き抜く上では重要なことッス。だから、頼むッスよ。アッシも利用できるものは、なるべく利用したいんス」

「わ、分かった。今度会ったときにで――」

「約束ッスよ! ……そうッスねえ、明日の試験が終わったら祝杯あげないッスか? この学園に生き残ることができたお祝いってことで!」

 一方的な口約束に、一瞬反駁しそうになったが、紫苑は言葉を飲み込む。

(……祝杯か。悪くないかもしれない)

「……そうだな。だったら、ヒートリンクスも誘おうか。まあ。あいつのことだから、試験は軽くパスするだろ」

「あー、あの……。まあ、そうッスね。あんまり気乗りはしないッスけど、あいつも一緒に祝杯を上げるとして、場所のセッティングはあたしがするとして、料理の方は――」

 雷鳴のような轟音が廊下に響き渡る。

 廊下にいた生徒全員が、驚愕に満ちた顔で音を出した張本人に視線を集中する。

 誰かの操術じゃない。

 ただの、紫苑の腹の音だった。

 トマトのように顔を赤くしながら、紫苑は床に視線を落とす。

 無限にも似た瞬刻が流れる。

 気まずげにしていたアシュレーは、やがて最善の提案をしてくれた。

「……まずは今日の昼飯、食べに行くッスか」

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