白魔導師、再び冒険者ギルドへ
◇
「おい、おせぇぞ」
ずっと変わらない光景が続く森の中だというにも限らず、一切の迷いなく、木々の隙間を駆け抜けるガオン。
「見えたぞ! 一つ目の街!」
「はぁ、はぁ……」
元々、一つ目の街までは急足で、それでもなお四日ほどかけて向かうつもりだった。四日と聞くと長く思えるが、これでも早く、俺とてのんびりと進もうとしていたわけではなかった。
そのくらいあの村は辺境にあり、隣街とはかなりの距離があったのだ。
それがたったの一日。
師匠の元を去って以降、最も走った一日だったと断言できる。
支援魔法の補助有りで、魔力切れ寸前まで使ってこれなのだから、素でこれを超えるガオンがいかに化け物じみているか。
「そうか……とりあえず、宿を探して」
「何言ってんだよ、まずは飯だろ?」
「……嘘だろ」
確かに、あそこの村民の方が言うには、ここは和食が美味しいことで有名だ。調理の腕が良いのもそうだが、新鮮で美味な山菜が群生しているのが大きい。ガオンのいた村のような農村は、この街に野菜を下ろしているため、基本的にどの食材も新鮮で旨いそう。
だから、食は楽しみではあった。
しかし、ほぼ一日中走った後となると話は変わってくる。
疲労のあまり食欲が全くと言っていいほどない。
むしろ、今何か口の中に入れようものなら、吐いてしまいそうだ。
「なぁ、行こうぜ! さっさと行かねぇと閉まっちまう」
「ちょ、待ってくれ」
「いーや、またねぇ。行くぞ!」
「はぁ……どうなってるんだ。あの体力」
早くも、同行を許したことを少しばかり後悔するのだった。
翌朝。疲労感は抜けることなく、全身が重い。
もう少しベッドで横になっていようと、そう決め込んだ矢先、窓の淵に何者かが降り立った。
嫌な予感がし、それはすぐに現実へと変わる。
「冒険者になりたい!」
たったその一言で、俺は重たい身体を引きずり、宿を出ることとなった。
全身、特に足の筋肉痛が酷く、力の入りが悪い。痺れるような感覚が常にあり、一定以上足が上がらない。
そんな苦痛を耐えながら、向かった冒険者ギルドでの登録は実にあっさりとしたものだった。冒険者になる上でこれといった面倒な試験はない。と言うのも、実力だけではなく、実績も見ていくのが冒険者ギルドの方向性だからだ。どれだけ強くても、基本的に、初めは最も低いランクから始まる。
そうして、冒険者になったガオンだが、現状ガオンが受けれる依頼はどれも簡単なものばかりで、おそらくガオンが望むようなものはない。
「うーん」
受付の女性が提案してきた依頼書をじーっと眺めるガオン。俺も、どんな依頼があるのか、覗き込み確認する。
この街は薬草採集以外に、山菜の採集も多い。
「よし、ありがとな。お姉さん」
「えっ? あ、はい」
全ての依頼に目を通したガオンは、依頼を受けることなく受付を去った。あれだけまじまじと見つめておきながら、何も依頼を受けずに去るガオンの後ろ姿を、職員の女性は唖然とした顔で見つめていた。
「受けないのか? 依頼」
「いや、受けるぞ」
何を言っているのかと首を傾げる俺を見て、ガオンはニヤリと笑みを浮かべる。
「依頼は全部覚えた。だから、今日中に私の受けれる依頼の八割を完遂する」
その言葉を聞いていた、冒険者たちから笑い声が上がった。
豪快な笑い声もあれば、クスクスと笑う声も聞こえる。
「おう、頑張れよ!」
無理だろうと知っての声援。
応援の声は上がるものの誰も本気にはしていないし、内心は明日、ガオンがどんな顔でこの場に現れるかを楽しみにしているのだろう。
粋がる新人を冷やかしている程度の感覚なのだろう。
ガオンはそんな言葉に平然と「ありがとよ」とだけ返し、俺の腕を弾きながら強引に冒険者ギルドを去った。
「なぁ、出来るとおもうか?」
「いやぁ、無理だろ。初心者あるあるだ、冒険者ってのを舐めてやがる。この世界がいいかに厳しいか分かってねぇ」
冒険者は夢のある職業だが、夢のある職業ほど厳しく、残酷なものである。万年低ランク冒険者として生涯を終えるものは決して珍しくはない。大多数はCランク前後が限界とされる世界。一生を賭けても、そのレベルなのだ。
ランクは一朝一夕で上がるものではない。
たった一つランクを上げるために、どれほど冒険者が依頼をこなしているのか。
「まぁ、俺らにだってそういう時期があったろ。いつかSランク冒険者になることを夢見て、でも、現実は十年やってやっとCランクだ」
「まぁ、明日か明後日くらいにはわかるだろ。いかに冒険者って世界が過酷かよ」
厳しい現実を知る彼らは、しかし、さらに残酷な現実を突きつけられることとなる。
また一週間後くらいに投稿します。
とりあえず、六章の分はおおよそ書き上がっているので、それまでは毎週投稿になります。




