白魔導師、逵溘?荳サ縺ィ蜃コ莨壹≧
決してタイトルが浮かばなかったから、文字化けさせたとかではない……です。
◇
それから更に数日後の晩、新しい魔法の習得に励んでいると、扉がノックされた。
時間帯的に子供達ではないだろう。
となると、ユイか?
もうクラウンとの一件から十数日は経つ。
魔法で怪我はほぼ完治したし、そろそろ元気になって、いつものユイに戻ってくれるのではないか。
そう期待しながら開けてみると、そこにはキャップを深々と被った私服姿のアシリアがいた。
長い髪は後ろで結び、まとめている。
それでも目立つ美貌をしているが、はっきり顔を見られない限り、アシリアだとは思わないだろう。
服装からお忍びで出かけ、と言うところまで推測できた。
「これはどういう……」
「ロイド様、至急私と一緒に来ていただきたい場所があります」
いつも以上に真剣な面持ちでアシリアはそう言った。
とっくに日は暮れており、とても外出するような時間ではない。
いくら魔族の脅威が一時的に去ったとは言え、つい先日まで連続殺人が起きていたこの街をふらつくのは、いかがなものかと悩ましいところではある。
それにアシリアと一緒となれば尚更だ。
「こんな時間に?」
「はい」
「危険じゃないか? クラウンのこともあるし」
「はい。ですが、心強い護衛が二人いますので心配はありません」
「護衛?」
そう話すアシリアの瞳は力強く、かなり重大な要件だと察するのは容易だった。アシリアが孤児院の子供や普段の仕事を差し置いてでも、すべきこと。
そしてそこに俺がどういうわけか関係しているらしい。
何だろうか。心当たりはない。勇者候補どころじゃないのは変わらないだろうし。
ただ、断れる雰囲気でもなかった。
その後、アシリアの指示に従い、俺たちは門を潜らず、孤児院の壁を越える形で外へ出た。
そこには驚くべきことに、同じく普段着とは違う、ラフで、それでいてしっかりと素顔を隠す服装のラミスと、こっちは相変わらずというような感じのエルの姿があった。
「これは、どういう組み合わせだ?」
聖騎士を志す学生の集う学院の学院長と、聖教国のSランク冒険者。
そして大聖人。
共通点と言えば、三人とも聖教国の偉いさん方と繋がりがありそう、と言うことくらいか。
「知り合いだったのか?」
「あぁ、集まる頻度は高くないが、もう出会ってからは何年も立つ。友人だ」
「そ、その……私は冒険者として、どうしても遠征しなくてはならないことが多いので。す、すみません」
エルはそういうとオドオドとした様子で、頭を下げた。
本当に友人なのか?とも感じたが、まぁ、いつも通りか。
「謝ることじゃないだろ……エルは仕事で遠征してくれているんだからな。ここを滅多に動けない俺たちの代わりに」
学院長と聖女であれば活動拠点が同じ聖地内であるため、会うことは難しくないだろうが、冒険者のエルはそうはいかないだろう。初めに会ったのは王国だったし、ユイたち以上に広い範囲で活動しているようだ。
「それで、どう言う要件で俺を……」
「詳しい話はあそこに潜ってからにしよう」
「そうですね。あまり、このメンバーで集まっているのを見られるのは、好ましくありませんからね」
「そうなのか?」
時間帯も時間帯だし、豪華で不思議な面子の集まりではある。普通に、何の対策もせずにであるけば間違いなく人目を引くだろう。
そういう意味で好ましくないと言ったのだと勝手に解釈し、納得する。
それから馬車に乗り、俺たちは朝まで揺られ、ある街へと到着した。
アシリアも学院長も、今日は各々部屋にこもって仕事をすると報告済みらしい。エルの方は特に何の言い訳がないが、オチらは必要ないだろう。
そうして連れてこられたのは、聖地から馬車で揺られ数時間ほどしたところにある別の街だった。
すっかり日は登っているが移動に半日。そこまで遠い距離ではない。
また、街は聖地に比べるとやはり小規模だが、そこそこの広さはある。
少し栄えてこそいるがあくまでもよくある街、という印象を受けた。
特別、何かがあるような街には見えない。
「ここが目的地なのか?」
「はい、ここが私たちの目的地、ハイドです」
わざわざ時間をかけてまで、この街を目指した理由は何なのか。
やはり、全くと言っていいほど見当がつかない。
「アシリア、エル。今回は予定通り裏路地を通って目的地までいく。途中、どうしても裏路地を出ないといけないが、そこは工事中だと言い、人払いはしているが、特にアシリアはバレないよう注意してくれ」
「分かりました。ではロイドさん、行きましょう」
「あ、あぁ……」
そこまでして俺たちがたどり着いたのは教会だった。
教会は改修工事書かれた看板が設置され、周囲に近づけないようバリケードが張られている。
確かに、良い意味で歴史を感じる教会だった。
改修工事が必要な箇所があってもおかしくはない。
作業員が五名おり、うち一人が俺たちの存在に気がつき近寄ってきた。
作業員は一礼すると看板をすっとどけ、中へと入るよう促した。
そして俺たち四人が通ると、看板を元の位置に戻し、作業を再開した。
なんだ……。
作業員五名は妙に生気がないような気がするが。
寡黙さを放つ表情には一切の変化が見られない。
ずっと、無言で淡々と疲れさえ感じさせず、作業を続ける作業員たち。
きっと……さぞブラックな職場なのだろう。
教会内部も外装と同じく、聖地にあったものに比べるとやはり小さく、年季が感じられた。
何十年……いや、それ以上に長い間、ここで何人もの人が祈りを捧げ続けたのだろう。
そんなことを考えながら内装を観察していると、先を歩いていたアシリアが何かをいじり出した。
祭壇をいじっているのか?
何となく、やってはいけない……罰当たりな行動のような気がするが、アシリアが罰当たりな行動をするはずはない。
ということは、きっと祭壇はいじって良いのだろう。
なるほどな……新たな知見を得れた。
そんなくだらないことを俺が考えている間も黙々と何かをするアシリア。
アシリアがしばらく祭壇をいじっていると何かが作動する音が教会内に響いた。
「準備できました。こちらに……」
よく見ると床に四角いラインが引いてあった。
このラインの中に入れ、と言うことか?
疑う必要はないだろうと、俺は言われるがままその四角い線の内へと入った。
それを確認し、アシリアはポケットから正方形の小さな箱を取り出した。
アシリアが箱に魔力を込めると箱は開き鍵が現れる。
「マキナ様……到着いたしました」
鍵をギュッと両手で握りしめ、そう呟いた。
数秒後、
床がガコンッという音を立てたかと思うと、下へと沈み始めた。
「こ、これは⁉︎」
思わず魔杖を取り出し、身構えてしまう俺を見て、ラミスはそれはそれは面白そうに笑みを浮かべていた。
「そう慌てるな。これはエレベータという魔道具だ。これで地下街へと向かえる」
「エレベータ? というか何? 地下街だと⁉︎」
耳を疑うような発言に、年甲斐もなく大きなリアクションをしてしまう。
ある程度降下すると、そこには広い空間が広がっていた。
天井も高く、小さな街がすっぽりと収まるほど広い空洞。
というか、実際にすっぽりと収まっていた……街が。
淡く、美しい月光のような光に照らされた街には地上に比べ高層な建物が建てられていた。
平均して五、六階ほどはあるのではなかろうか。
美しい高層の建物が立ち並ぶ一方で、街は全体的にどことなく寂しげで、活気は感じられず、そもそも人影が見られなかった。
探知魔法を使ったわけじゃないが、おそらくここに人は住んでいない。
そんな寂しげな空気も相まって、幻想的で美しい静かな絶景を前に俺は数秒の間、言葉を失った。
「……ここは?」
「昔滅びた大国……魔工国の技術の宝庫で、聖教国の真なる主が鎮座する街。過去の遺物が支配する、模倣された街」
いよいよ理解が追いつかず、俺は再度言葉を失った。
何から聞けば良いのか、そもそも何を聞けば良いのかさえわからない。
聖教国の裏の真なる主だとか、模倣された街だとか、いきなり言われたってだな。
昔、それこそ聖教国が大きくなるより前にそんな国があったという話は、以前観光していた時にラタールにきたような気がする。
とは言え、俺が知っているのは『良くわからんが、謎に滅びた』ということくらいだ。
「ロイド、こんなんで驚くな。まだまだこれからだぞ」
俺はそんなわけのわからない街の中でも一際目立つ、高い建物へと案内された。
先ほど降下する時に使ったエレベータという魔道具を使い最上階へと向かう。
目的の最上階に到着し、エレベータが開くとそこには両開きの扉があった。
「奥にてマキナ様がお待ちです」
「マキナ?」
「はい、聖教国の真の主人です」
「そうか……って、ちょっと待て! 聖教国の偉い人って言えば教皇じゃないのか?」
さらっと出てきた衝撃の言葉に、思わず大きな声を漏らしてしまう。
あまり聖教国に詳しくない俺でさえ、聖教国で一番の権力者が教皇であることは知っている。教皇は成り立ちこそ特殊だが、王国の国王や帝国の皇帝と並ぶ権力者だ。
「真の主はマキナ様ですが、マキナ様は基本、国政に関しては何もしないので……教皇が聖教国の『王』だという認識には間違いないかと思います」
「それじゃ何をしているんだ、その人は」
アシリアは「どうですね……」と言い、しばらく何かを考えていた。
どこまで話していいか、悩んでいるらしい。
「マキナ様の仕事は、対魔王軍に関すること全般ですかね。そのための魔道具開発や専属部隊を使っての魔王軍内でのスパイ活動、あとは魔法による魔王領の監視などです」
「軍事部門って感じか」
だが、それが聖教国の真の主人、というのはやはりしっくりこない。
「はい。それに、彼女はここから動けませんし、その……馬鹿ではないのです。そう、決して馬鹿ではないのですが、何と言いますか……抜けているというか、賢いけれどもちょっと常識に欠けるところがありまして。良い意味でも悪い意味でもリョウエン様が一番近いかもしれません」
「リョウエンみたいなタイプは研究や軍事面では群を抜いて優秀だが、政治なんかやらせるとかなり不味そうだな」
「はい、マキナ様が表に立つ姿は……正直、想像しできませんね」
そのマキナという人物がとてつもない大物だということを理解した上で、俺は扉に手を当てた。
この先にいるのだろう。
物理的にも、気持ち的な意味でも重たく感じる扉を俺は力強く押し開けた。
「ふふふ……やっと来たのだ。私は待ちくたびれたのだ!」
「えっ……」
想像を絶する光景に、俺はそんな情けない言葉を出した。
これは、
「私こそが、聖教国の主、マキナなのだ️! ロイド、よろしくなのだ!」
そこにいたのは薄い紫髪の、ちびっ子だった。
幼なげな顔と声に、おそらく百四十もないであろう身長、極め付けは「なのだ!」という独特すぎる口調。
ニコニコとした無邪気な笑み。
大層な玉座に腰掛けているものの、足は着いておらず、ふらふらとして落ち着きがない。
なんとも威厳にかけるというか、オーラがない。
今まで会ってきた立場の高い人たちの中で、最も威厳を感じないと断言してもいい。何なら、ユリハの方が大人びている。
この子が聖教国の主?
「その目、私の実力を疑っておるのだな?」
「えーと、その、実力というか、なんというか……はい、色々と」
「はーははっ! 主、素直で良いぞ。皆最初は口にはせずともそういう反応をするのだ。だからこういう時、どうすればいいのかは心得ているのだ!」
次の瞬間、和やかな、間の抜けた雰囲気は一転、背筋に冷たい感触が走った。
本能が危険を告げるより早く、その現象は現実となった。
目の前に広がる、どこまでも限りなく続く真っ白な空間。
その空間の果てが見えない。
天井も確認できず、ただ真っ白な床のみが永遠と存在する。
そんなあり得ない不思議な空間で、突如背後からコツンという足音が聞こえた。
「空間属性魔法……これもロイドも知っている収納魔法や転移魔法と同じ系統の魔法なのだ。そして、空間属性魔法の極地こそがこの魔法なのだ!」
振り返ると、自慢げにそう語るマキナがいた。
「空間属性魔法?」
「知らないのだ? そうかなだな……マーリンは約束通り、全ては語らなかったのだな」
これが収納魔法と同系統の魔法だとは俄かに信じられなかった。
次元が違いすぎる。
かなりの範囲で探知魔法を試しに使うが、不思議なことに俺とマキナの気配しか感じられない。
探知魔法に何も引っかからないということは、当たり前だが周囲に生物がいないということ。
「転移……」
「違うのだ!」
俺の答えはすぐさま否定されてしまう。
マキナが嘘をついている様子はない。確かに、転移だとしても、こんな意味のわからない空間がこの世に存在するとは思えなかった。そもそもこんな空間を、現実に作れるのかさえ怪しい。
となると……どういうことだ?
なおさら理解が追いつかない。
マキナはやたら堂々とした、自慢げな態度で、困惑する俺を面白ろそうに眺めている。
「転移魔法も使えないことはないのだが、そもそもわれはこの地下街から動けないのだ」
アシリアも似たようなことを言っていたことを思い出す。
あれはてっきり「持ち場を離れるわけにはいけない」的な意味合いだと思っていたが、もっと単純に「あの街から移動することが不可能」という解釈が正しいらしい。
「転移じゃないとなると。空間を押し広げた、とか?」
「ふふふ、残念、それも違うのだ。あっ、ちなみにだが、仕組みは教えてやらないのだ。これは私の奥義の一つなのだ!」
再度探知魔法の範囲を拡大してみるがいくら広げようと感知できない。
一瞬、出力を最大にして数十キロへと探知範囲を拡大したが、その努力も虚しく、相変わらず俺とマキナ以外の気配は感じられなかった。
結構魔力を消費したが、これでもダメか……
「幻……あるいは催眠?」
「言ったのだ! これは空間魔法の一つなのだ!」
俄には信じ難い現象を前に混乱せずにはいられなかった。
これが魔法……だと?
今まで見てきたどの魔法とも一線を画す……上級とか、最上級とか、そんな括りさえ意味をなさないような魔法だ。
魔法の難易度は勿論、これだけの現象を引き起こし、維持し続ける魔力量。
はっきり言って異常だ。
「理解できない、といった顔なのだ! でも、安心するのだ! この魔法を扱えるのはこの世でただ一人、私だけなのだ! そして破られたことは……一度しかない!」
「一度はあるんだ……」
完全無欠な魔法ではないようだが、どうすればこの領域を突破できるか見当もつかない。
「今でも、この魔法を破った時のあの女のニヤケ顔を思い出すと腹が立つのだ!」
プンスカと腹を立て、地団駄を踏む。
相当悔しかったんだろうし、自信もあったんだろうな。
冷静さを取り戻し、自分がいかに危機的な状況に置かれているのか気がつく。
「この空間が現実ってことは餓死とか」
「可能ではあるのだ。最も、そんなことをしたことはないのだがな。そもそも、地下に来るやつなんぞいないのだ」
白い空間から一転、先ほどまでいた玉座のある間へと引き戻される。
詠唱なし、魔法発動の瞬間も見えなかった。
おまけに媒介もなし。
「これで、私がただの餓鬼ではないと分かったはじなのだ。そもそも人ですらないのだが……」
今の一連のやり取りで、目の前の子供が普通じゃないことを理性でも、本能でも、理解させられた。
これが聖教国の真の主。
今まで出会ったどんな敵……それこそクラウンさえも可愛く思えるような正真正銘の化け物。
そう考えていて、ふとある言葉に引っかかる。
「今、人じゃないって……」
再度目を凝らすが、マキナの姿はどこからどう見ても人間だった。
肌も髪質も、所作も、人間のそれなはずだ。
困惑する俺を見て目の前の『何か』は面白そうにニヤリと口角を上げた。
玉座に勢いよく腰掛け、足を組み、ピースを決めウインクし、告げる。
「私は、数百年稼働し続ける、自立型魔道具……古代魔法制御装置、No.4マキナなのだ!」
そう言うとマキナは、とても魔道具とは思えない、俺の知っている生きた人間と大差ない自然な笑みを見せたのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございまず。誠に、マジでありがとうございます。
しばらくは色々と忙しいため、また期間をあけ、まとめて投稿する予定です。




