白魔導師、退学する
慣れないキーボードで執筆したため、誤字が多いかもしれません。
後で入念に確認し、修正します!
◇
退学宣告を受けてから数日後。
俺は学院の寮を後にした。
退学宣告を受けた際はあまりにも唐突だったため驚きこそしたが、少し時間を置いて考えると別になんてことないことに気がつき、動揺はすぐにおさまっていた。
元々、勇者になんてなるつもりはなかったわけだし、俺はただ冒険者に戻るだけなのだと。
日常に戻るだけだ。
俺の退学に合わせ、ユイも退学届を出したが、こちらも予想通りの展開であり、ラミスも俺も驚きはしなかった。
こうして長いようで短い学院生活は幕を閉じ、冒険者としての日々が戻って来たわけだが問題が一つあった。
「ダッガスたちに伝えた集合日、だいぶ先なんだけど、それまでどうしようかしら!」
ユイがリョウエンとともに聖地にくる際、適当に待ち合わせの日時を決めたそうだがそれがまあまあ先なのだ。
ダッガスたちはこの期間に少し行きたいところがあるらしく、おそらくすぐは来ないとのこと。
「二人で依頼受ける?」
「ちょっと不安だな」
ユイの実力を疑うわけではないが、二人は少な過ぎる。
それとラミスに最後お別れの挨拶を告げた際、新しい冒険者プレートを渡されたのだが、何故かランクがBにまで上がっていた。ダンジョン攻略や学院での活躍を特別に加算してくれた結果らしいが、急に受けれる依頼の危険度が上がると言うのも不安なものだ。
「だよねぇ、でもさ、私お金ないんだよね。だから働かないと……」
「なぁ、なんで常に金欠なんだ?」
Sランク冒険者はかな稼げるはずなのだが、ユイは相変わらずお金がないらしい。
今回はユイの浪費というより、単純に学生期間中に依頼を受けれなかったため収入がなく、仕方ない……ということはないな。そんなんで消えゆくほど、もらっている額は低くないはずだ。
やはり浪費癖の問題か。
別に貸してもいいんだが、それじゃユイにとっても俺にとっても良くない。
「さて、これからどうするか……」
「おい、待たんかい!」
突如、背後から大声で呼び止められる。
何事かと振り返るとそこには背の低い獣人の姿があった。
肩で息をしているところを見るに、俺たちを走って追っかけてきたようだがなんのようだろうか。
「えーと、俺たちに何か」
「何か……じゃないわ! 妾のことを置いていきおって! 特にユイ! 主は誰のお陰で入学できたと思うとるんじゃ!」
「「あっ」」
確か名前はリョウエン。マーリンの弟子と名乗っていた研究者だ。
本当に師匠の弟子か怪しいところではあるが、嘘をつくメリットなんて思いつかないため、きっと本当なのだろう。そもそも俺がマーリンというダメ女の弟子だということは極一部の人間しか知らない。
「おい、ロイド! ちょっとこっちにくるのじゃ」
「は、はい」
リョウエンに服の裾を引っ張られユイと距離をとる。
「最近、マーリンから何か連絡はあったか?」
「唐突だな……」
「それで、どうなんじゃ?」
「ない。第一、俺は家出している身だ」
だから連絡なんてとっているはずがない。
「まだ仲直りしておらんおか!」
「リョウエンも俺の知っているマーリンの弟子ならわかるでしょ。勝手に家を飛び出して置いて、ふらっと連絡をした日には、怒り浸透で何をしてくるかわかったもんじゃないって」
大賢者と崇められているマーリンとは違い、うちのマーリンは短気で、人の話なんて碌に聞きやしない。
一方的にブチギレられる未来が待っているだけだ。
「相手にされるだけ、ありがたいと思え! この贅沢者めが!」
「人の話聞いてたか?」
おそらく俺とこのリョウエンの師匠は同一人物なのだろう。
思い返してみれば、酒で酔った際「しつこく絡んでくる獣人がいる」とか、そんな話もしていた気がする。
なるほど、こいつか。
マーリンの方が弟子だと口にしていた記憶はなく、むしろストーカーのように語っていた気さえするが、知人ではあるのだろう。
本当に嫌なのであれば師匠が無傷で野に放っておくわけはないし、友好的かはともかくとしてそこまで悪くは思っていなかったのかもしれない。
だが、この反応を見るに、リョウエンはあまり相手にもされていなかったのではないだろうか。
「ねぇ、なんの話してるの?」
痺れを切らしたユイが会話に参加してくると、リョウエンはこの話を切り上げた。
「い、いや、なんでもないのじゃ。それより主ら、これからどうするつもりなんじゃ?」
「いつも通り冒険者として活動……と言いたいところだが、ちょっと人数がな」
「そう言えば、他のメンバーとは別行動してるんじゃったのぉ」
その辺の話聖地に来るまでにユイから聞いていたらしく、なんとなく事情は察したらしい。
人数が少なく、依頼を受けるのを尻込みしていることも。
「なら妾が仲間になってやろうか? Aランク冒険者も兼業してるのじゃが……足は引っ張らんと思うぞ」
「いいの?」
リョウエンの一時的な加入……これは願ってもない申し出だ。
魔法系の職業らしく、バランスは悪くない。
剣士と魔法使い、そして白魔導師。
「あとはできればタンクか回復が欲しいところね」
守りを固めるか、回復を高めるか。
タンクならユイも担うことができる、回復なら俺が頑張れば最低限は問題ない。
ただ人数的に不安なため、可能であればもう一人欲しいところだ。
「回復職なら、妾に心当たりがある」
「本当に⁉︎」
「冒険者ではないが、かなりの腕じゃ。彼女は妾に恩もあるし断れ……ゴホン! 快く、快諾してくれるじゃろう」
「無理にじゃなくていいからな……」
「うむ!」
それからリョウエンは「しばし待ておれ! 二日後にこの場所で集合じゃ!」と言い、颯爽と走り去っていった。
詳しくは知らないが、かなり自信があったようだし、ある程度連れて来れる算段が整っているのだろう。
不穏な予感を感じたため、一応、一言言ってはおいたが、あの様子じゃ意味はなさそうだ。
「リョウエンが連れてくるって、ちょっと不安じゃない?」
「分からんでもないが、それにすがるしかないし……ああ見えてすごい人らしいし、人脈はそれなりにあるんじゃないか?」
詳しくは知らないが、研究者の人脈を信じるしかない。
「三日ねぇ、その間どうする?」
「どうするって……観光?」
「観光か……なんだか、学生として聖地を回ったのが懐かしいわね」
「そうだな。まだそんなに時間は経っていないはずだが」
「今頃、何してるんだろ?」
「普通に授業じゃないか?」
立派な聖騎士になるために、今この瞬間も励んでいることだろう。
勇者だなんだと言われた時は困惑もしたし、素直に嫌だなと感じたが、学校という貴重な体験ができたことだけは、良かったと思えている。
「授業って……あんなの聞いてても眠くなるだけだし、実践の方が手っ取り早くない?」
「無駄、とはまでは思わないが、みんなでそろって同じことをやることに意味があるのかは懐疑的だな」
とは言え、そうせざるを得ないのだろう。
多くの生徒に対し、教員の数は少ない。わざわざ聖騎士学院を卒業しておきながら、教員という選択肢を取る人が少ないのだろう。
現役の聖騎士は数はいるが、それでも仕事で忙しい。
今はアレンの一件もあって、尚のことだろう。
「だからこそ実戦あるのみでしょ? 座ってたって強くなれるわけじゃない。実戦の中で自分にあった戦闘スタイルを追求していく……お金も稼げて一石二鳥! 大体、冒険者の多くはそんなもんだし」
「才能がある人間はしれでいいかもしれないが、そうじゃない場合はやっぱり、ある程度基礎的な教育を受けれる環境があった方がいいんじゃないか?」
経験がないまま、いきなり死と隣り合わせの実戦はハードルが高いし、自分一人の力で、独学で成長していくのは難しい。
やはり、師匠と言える存在は必須だろう。
魔法職は特に、独学だけでは難しい。
それに聖騎士には実力の最低ラインがあるが、冒険者には存在しない。どれだけ弱くても、冒険者にはなれるが、聖騎士の世界はそうはいかない。
ユイのような圧倒的強者からすればどっちも大差ない実力かもしれないが、この聖教国の国民にとって聖騎士は頼りある守護者のような存在。
そう易々と負けたりしていい存在ではない。
「冒険者と違って学も必要だろうしな」
「うっ……」
俺も人のことを言えた身じゃないがな。
「改めて、街を一通り見てみるか? そうすれば、何かやりたいことが見つかるかもしれないし」
「そうね、そうしましょう」
改めて観光でもしようということで少し歩いていると、長蛇の列が目に入った。
ユイは人気の飲食店かと喜んでいたが、そうではなさそうだ。
長蛇の列の先頭には教会が見える。
あまり馴染みのない光景に思わず足を止めてしまったが、お祈りか何かだろうか?
俺もユイもこういった文化には詳しくはないが、お祈りというには少し違和感を覚えた。
「ねぇ、気がついた?」
「並んでいる全員がどこかに怪我をしている、あるいは体調が悪そうってことか?」
「うん。ただのお祈り……って、感じではなさそうね」
具合が悪いからこその神頼み、という線も考えられるが、おそらくそれは違うだろう。
並ぶ人は皆、どこか怪我や不調を抱えているが、教会から出てくる人にはそれが見受けられない。
皆、幸せそうな表情で、中には涙を流しながら抱き合う親子なんかもいる。
真摯に願い、祈れば、瞬時に元気になれる、大怪我だろうが治る、なんてことがあり得ないことぐらい学のない俺たちでも分かる。
となると、誰かが回復魔法を使っていると考えるのが妥当だろう。
「診療所みたいな役割もしてるのか。教会は」
「せっかくだし、ちょっと行ってみない?」
「こういうのって、誰でも入れるものなのか?」
別に怪我をしているわけでもない。
「とりあえず行ってみてダメだったらやめればいいじゃない」
「それもそうだな」
そういうわけで教会を目指し歩いていると、教会を警備している聖騎士の一人に呼び止められた。
「君たち、大聖人様の加護をお受けになるなら、最後尾に並んでください」
大聖人……この回復魔法の使い手は、そう呼ばれているらしい。
「私たちは回復にあやかりたいわけじゃなくて、観光に来たんだけど……教会って、やっぱ誰でも入れるわけではない感じ?」
聖騎士が俺とユイの全身を観察する。
俺とユイに怪我をしている様子がないか、顔色は問題ないかなど、健康状態を確認しているのだろう。
俺もユイも極めて健康だ。
「なるほど、そうですか……観光の方でしたか。失礼しました。観光でしたら、時間帯次第ですね。今は大丈夫ですが、身分の確認はさせていただきます。また、中を見ることは可能ですが、今は大聖人様がいらっしゃいますので、奥の方には近寄れませんし、護衛の聖騎士も多数います。大聖人様のいない時間帯であれば、奥まで見て回れますし、聖騎士もいないため、観光には向いているかと思いますが……」
「えぇ、それで大丈夫よ。ロイドも、それでいいわよね?」
「あぁ……軽く中さえ見れれば、それでいい」
たまたま通りかかったついでに観光していくだけだ。
改めてここに来るほど、興味はない。
「そうですか。では、どうぞ」
扉の先には紅絨毯が続いており、その先には数名の聖騎士と、一人の女性がいた。
修道服を着たブロンドヘアの女性。
あれが大聖人とやらだろう。
ステンドグラス越しに差し込む光や衣装に凝った教会の内装が相まって、大聖人が神々しく演出されて見えた。
「大聖人……」
そんな異名がつく理由の一端を垣間見た気がする。
あまりじーと見続けるのも失礼だろうと思いつつも、しばらくの間見入ってしまっていた。
「本場ってこともあって規模感は違うけど……」
「あんまり、お気には召さなかった感じか?」
「うーん、もう満足かな……やっぱり、観光って雰囲気じゃないみたいだし」
凄く美しい建物ではあるのだが、大聖人を守る聖騎士の威圧感や怪我が治癒したことを喜ぶ人々の方が気になってしまう。
とてもゆったり見て回ろうという気分にはなれない。
「それもそうだな」
そう言うわけで、俺たちは教会を後にし、次はどこに行こうかと考えていた……その時。
「待ってください!」
呼び止める女性の声に俺とユイは足を止めた。
そして振り返るとそこには意外な人物がいた。
ブロンドヘアに修道服……、
「あなたはひょっとしてSランク冒険者のユイ様でしょうか?」
息を切らせ走ってくるのは、大聖人と呼ばれている女性だった。
ユイに用があるらしいが、知り合い……という感じではないことが、先ほどの発言から伺える。
「ん? そうだけど?」
ユイ自身心当たりはないらしく、困惑しているようだった。
「私はアシリアと言います。その、無礼を承知でお願いがあります! 私の、孤児院によっていってはいただけないでしょうか?」
「孤児院? 時間はあるし、別にいいけど。どうして?」
「ユイ様のお噂は予々聞いております。この聖教国でも有名で、孤児院の子供達にもファンが多く……」
「そ、そう? なんか面と向かって言われると照れるわね」
多くのファンがいると言われ、ユイが嬉しそうに顔を赤る。
本人も大聖人に知られているほど有名だとは思っていなかったらしい。
「どうか、孤児院にきてはいただけませんか?」
「勿論、いいわよ」
気分が良くなっているユイはアシリアの要望に迷うことなくそう即答した。
「じゃ、行ってらっしゃい」
「うん! って、いやいや、ロイドは行かないの⁉︎」
まるで俺も一緒に行くと言わんばかりの反応に首を傾げる。
「まぁな。だってそうだろ。俺はお呼びじゃないみたいだし……適当に街でもぶらついていようかと。そうだな……待ち合わせ場所は」
俺が言い切る前に、ユイは俺の脛を強めに蹴った。
「痛っ! 何するんだ……」
「いい? 不貞腐れてないで、ロイドも来るの! わかった?」
「全然分からないんだが……」
別に不貞腐れて、行かないといったのではない。
今回は本当に俺の存在が不必要そうだから、少し魔法の改良や鍛錬でもしようと思っただけだ。
第一、子供とうまく触れ合える自信がない。
むしろ面倒だとすら感じているほどだ。
「えー」
「ほら、嫌そうな顔しない! そんなんじゃ、子供達と仲良くできないわよ」
「そもそも子供たちの目的は俺じゃな……」
「いいから、笑顔! ね?」
ユイが俺の頬を両方から引っ張り無理やり口角を上げる。
軽い気もちで引っ張っているのかも知らないが、ユイの怪力で引っ張られてるため、正直かなり痛い。
「あ、あぁ、分かった。だから離してくれ」
「よし、それじゃ行きましょ!」
気乗りはしないが、強引に腕を引かれながら俺はその孤児院へと向かった。




