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不穏な動き in 課外授業


 俺……カルティゴの所属するギースのパーティーは3日目の現在、142ポイントを獲得していた。

この数字は実際どうなのか。昨年度の、3日時点で最も多くポイントを獲得しているパーティーの得点が130であることから、かなり順調に進んでいると言っていいだろう。

流石はギースだ。むかつく所も多いが腕は確か。


 このままいけば優勝は間違いなし。


 昨日までの俺はそう確信し、疑いすらしなかった。


 だが、今は違う。

今年度はそれを軽く数倍は上回るパーティーが存在した。

 それがラタールの率いるパーティーだ。

 直接会って聞いたわけじゃないが、昨日噂で500ポイントを超えたという話を耳にした。ラタールと、幽霊女と、Dランク冒険者二人のパーティーに、そんなことが出るはずがない。だから、そんな馬鹿なことがあるかと笑い、聞き流していた。

だが、想定外なことに、これを裏付けるような行動が職員たちの間にも見られた。生徒たちの噂だけなら信憑性に欠けるが、教員や聖騎士たちまでも噂し、予想していなかった事態に動揺し慌てている様子なため、噂は事実だと考えていいだろう。


くそ……ラタールは強いがギース以下。カンナもおそらくあの力は使えない。

なら、あのDランク二人の仕業ということか?

低ランク冒険者風情にそこまでの力があるとは思えないが、現実は彼らのパーティーが独走している状態だ。

自分の判断ミスを悔やんでも悔やみきれない。



 2日目時点で500を超えているのなら、現状俺たちに勝ち目はないと言える。

 このままじゃ不味い。

 こんな粗暴で、悪評高いギースのパーティーに降ったのは、推薦状という甘い蜜を啜るためだ。俺は自慢だが、一年生の中では上位十人には入るほど、総合的な成績は高いと自負している。実技では叶わないようなやつもいるが、それを補うため、勉学にも日々励んでいる。

 将来、俺は大物になる。その資質がある。

 俺は、聖騎士になって出世し、副隊長、隊長、そしてトップである騎士団長の座に君臨して見せる。

 そのためにも、この課外授業で負けるわけにはいかない。


「仕方ない」


 ギースに頼るのはやめだ。

 確かにこいつは強いし、こう見えて頭も切れる。だが、ギースでは現状を打破することは出来ない。

 念のため、様々な問題が発生し、優勝が危うい事態に陥った時の対処法は考えてあった。

 こんなダブルスコア以上の差を叩きつけられるのは、想定外だが。


 人道には背くことになるが、仕方がない。

 俺が勝つため、やるべきことをやる。

 皆が寝静まったことを確認し、俺は野営のテントから抜け出した。

 その際、ギースの寝ているテントを見るが、動きは見られない。

 熟睡しているのだろう。


 ギースとて人間だ。

 特に今日は噂のこともあり、昨日以上に狩りに励んでいたため、疲労もかなり蓄積されているはず。


「まったく、馬鹿なやつだ。今さら正攻法なんて……そんなんじゃ優勝できるはずがないのは分かりきっているだろうに」



 俺が向かう先は、エリアを出て十数分のところにある洞窟だ。

 何でもそこには危険度Aレベルのモンスターが生息しているらしく、冒険者ギルで依頼を受ける冒険者を募っていることからこれは事実だと推測できる。

 俺の目的はそのモンスターを洞窟から引っ張り出し、授業エリア内に侵入させ、課外授業そのものを白紙へと戻すことだ。


 薄暗い森の中を、なるべく足音を立てないよう慎重に進む。

 エリア外にいることが教師、あるいは聖騎士に見つかれば厄介な事態になることは避けられない。

 だが、俺は目的の洞窟近辺には彼らも近づかないだろうと確信していた。


 この課外授業では各モンスターにポイントが設定されている。

 そして、それに例外はないと、はっきりと明言されている。

 仮にエリア外に出て聖騎士でも苦戦するような凶暴なモンスターを打ち取ったとしても加点はない、ということだ。過去にも例外は存在しない。過去にエリア内に侵入した、学院側の想定を遥かに上回る凶暴なモンスターが侵入し、それを生徒たちが討伐した事例はあるが、その際も加点にはされておらず、成績への影響はなかったと残されている。

 本当に、討伐するメリットはないわけだ。

 この学院は私立であるが、この聖教国内でもトップクラスの聖騎士学校だ。ある程度将来が期待される者しか入学はできない。だから、わざわざエリア外にまで出て、ポイントにすらならないモンスターに挑む馬鹿はいない。

 それを教師陣も理解している。

 だからこそ、洞窟近辺はを巡回はしないと確信している。

 洞窟はエリアからやや離れた場所に位置しているしな。限られた人員をこんなところに回しはしない。


「とは言え、流石にエリアの境目当たりは巡回しているだろうけどな。でも洞窟近辺にはいない。仮にその洞窟からモンスターが出てこようが、エリア内にさえ入ってこなければ課外授業を行う上では問題はないし、下手に近づけば、人の気配を感じ取ったモンスターが活性化するかもしれないからな」


 教師陣も安易には近づけないわけだ。


 だから、エリアから抜け出し、ある程度離れればばこっちのものだ。

 道中、いざと言う事態を想定し事前に埋めていた鞄を回収し、目的の場所へと向かう。


 ほんの少し騒ぎを起こせればいい。

 出てきたモンスターが多少強くても冒険者に倒せる程度の相手に、聖騎士が敵わないわけがない。

 そのため、被害もそこまで出ることはないだろう。

 いや、最悪犠牲者がでたとしても構わない。



 洞窟付近にはバリケードが設置されており、入口には立ち入りを禁ずると書かれた立札があったが、無視し洞窟内へと足を踏み入れる。

 当然だが、洞窟内は暗く、本当にモンスターが住み着いているのか疑わしく思えるほど静かだった。

 俺は鞄から松明を取り出し、奥へと歩みを進めた。

 光源の確保は魔法でも可能だが、あえて魔法を使わない。戦闘になった時、すぐに別の魔法を唱えるためだ。


 恐怖はある。

 だが、俺が優勝するためには必要不可欠なのだと、自分を鼓舞し、重い足を一歩、また一歩と踏み出していった。


 歩き始めて数十分が経過した辺りで、洞窟の奥から血や生き物が腐敗した匂いが漂ってきた。

 ここでモンスター同士の争いが起きた証拠だ。

 これ以上、深入りするのは危険だな。

 それに、この辺りまで来れば十分だろう。強烈な光を発生させたとしても、外にまでは及ばない。

杖を構え、大きく深呼吸し、詠唱する。


「フラッシュ・バレッド」


 黄色く輝く魔法陣から、白い光を放つ球体が射出される。

 球体の速度は遅く、浮遊しながら洞窟の奥へと一人でに向かう。

 そして十数秒後、眩い、痛いほどの純白の輝きが洞窟を照らした。

 いきなりの閃光に目をやられたのであろうモンスターたちの悲鳴が洞窟内に響き渡る。


「よし、ビンゴ」


 小声でそう呟きガッツポーズを決めた後、俺は脱兎の如く、洞窟内を駆け上がった。全力で、振り返ることなく、必死に足を動かす。

 そして気がつくと、洞窟の入り口まで到達していた。

 あと少し……


「や、やった!」


 洞窟の外に出て、初めて振り返るが追ってくるモンスターの姿はない。

 まだ油断はできない。

 俺は近くの茂みに身を隠しながら、洞窟の入り口を数分の間見張った。

 おかしい。

 逃げる間も、モンスターの雄叫びは聞こえてきた。

 間違いなく、効果はあったはずだ。

 それなのに、洞窟内からモンスターが出てくる気配はない。

 失敗か?

 そんな不安が胸に込み上げてくる。


 それから数分待てども、やはり洞窟内からモンスターが出てくる様子はない。


「くそ……」


 本来であれば、作戦が無事に上手くいったのか確認したから立ち去りたいところだが、長居はできない。

 俺が抜け出したことはすでにバレているかもしれない。

 不慣れな環境だ。疲労はあれども熟睡できず、目を覚ます奴もいるかもしれないからな。

 少しの間であればどうにでも言い訳できるが、あまりにも時間をかけると言い訳が難しくなるし、今後騒ぎが起きた際に、疑いの的になってしまうことも懸念される。

 結果が気になるところではあるが仕方がない。


 テントまでの道中、鞄から、肉食系のモンスターが好むとされる匂いを放つ液体の入った瓶を取り出し、それを振り撒いていった。

 匂いの効果は長く持ったとしても、早朝、皆が動き出す頃には気にならないほどにまで薄まっていることだろう。

 俺は空になった瓶を粉々にし、元あった場所へと埋め、鞄はまた別のところへと捨てた。

 本当なら燃やしたいが、今燃やせば人が来る可能性がある。

 全てが終わったことで、緊張が解けたのか、睡魔に襲われた。

 昼間から働きっぱなしだから、かなり疲労が溜まっているのだろう。

 テントへとバレないように戻り、重たくなった瞼を閉じた。

 俺の作戦が成功することを祈って。



 洞窟内から、他のモンスターを食い散らかしながら、巨大な何かが這い出てきたのは、それから数時間後のことだった。


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