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白魔導師、観光する①

 

 ◇


 俺とユイが入学し、二週間が経過した。

 その間、新たな友人は出来なかったが、入学初日以降もラタールとカンナと話す機会が多く、かなり仲が深められた。お陰で、それなりに充実した学校生活を送れている。

 勇者候補、なんて肩書きさえなえれば、もっと気楽に楽しい学校生活が送れたんだろうが……


「皆さんに重要な連絡をしておきます。来週、聖地を離れ、実際にモンスターと戦う、課外授業を行います」


 レイヤ先生の言葉を聞き、教室内がザワザワとしだす。

 課外授業、か。

 この学院に通う多くの学生は、モンスターとの実践経験は無いままこの学院に入学してくるそうだ。

 教師や聖騎士との模擬戦は授業内でも時折行っているらしく、また、入学前から何らかの講師を雇うなりで、剣や魔法の鍛錬を積んできている者も少なくはないらしい。入試対策とやらで、基本的な技能は身につけているものも多い。学力と技能のテストがあるらしいからな。

 だが、どれだけ鍛錬を積んでいようと、模擬戦を重ねていようと、それらはあくまでも絶対に死なないという状況でのものだ。実際に命のやり取りをするとなれば、話は変わってくる。不測の事態も決して珍しいものではない。

 殺されるかもしれない。

 そう言った緊張感が、手元を狂わせ、思考を鈍らせる。

 個人差は当然あるだろうがな。


「皆さんには、四人から六人のパーティーを組み、決められたエリアでモンスターを討伐してもらいます。エリア内のモンスターにはそれぞれ、ポイントが設定されていて、その合計で成績をつけるといった感じです。あっ、パーティーを組む際は他のクラスの生徒とでも構いませんよ。上位の成績を獲得したパーティーには例年同様報酬が用意されていますから、そのことも踏まえ、パーティー極めはしっかり考えてしてください」


 報酬……学校で用意される報酬か。

 冒険者なら金銭やランクだが、学校でもやはり金銭的なものなのだろうか?

 他のクラスメイトは検討がついているらしく、ざわついた様子が伺える。ラタールとカンナも予想はついている様子だし、後で聞いてみるとしよう。


「期間は、最大で五日。その間、リタイアしても構いません。その際は、パーティーでリタイアという扱いになりますが……模擬戦とは訳が違いますからね。体調不良を起こすこともあるでしょう。順位やリタイヤによるペナルティーはないので、くれぐれも無理はしないように。リタイア後も何か事情がない限りはスタート地点付近の安全の確保されたエリアで野営はしてもらいます。サボろう、なんて考えはだめってことですね」


 期間は五日。冒険者的には、珍しい話ではないが、多くの生徒の反応を見るに、学生には長い期間なのかもしれない。

 故に、リタイアという制度を儲けているようだが……

 そうは言われても、なかなか難しい話なのでは無いか、と感じたのは俺だけでは無いだろう。

 パーティーで行動する以上、意見の違いで揉めることもあるだろう。いや、揉めるだけならまだいいが、仮に、リタイヤしたいと感じている生徒が1人いたとしても、それを言い出し難い雰囲気だったら?

 また、続行を無理強いされたら?

 そういったことが、後々命取りになることは十分に考えられる。


「い、五日って、夜は危険だし、初めての狩にしてはあまりにも無理難題なのでは……」


 そう言った可能性を危惧してか、生徒が1人不安そうな表情でレイヤに問いかける。


「その点は心配ありません。私たち教師と、聖騎士が十数名、すぐに駆けつけられるよう至る所で待機していますから。それに皆さんが森に入る前日に、学院長が聖騎士を連れ、予め学生の他に追えない範疇のモンスターは討伐して回るそうです」


 それでも不安は完全には拭えない。

 だが、あえて不安の残る状況で行うから、効果的で意味のある課外授業になる、とも考えられる。完全に安心しきった状態で行うんじゃ、普段の模擬戦と大差ない。

 程よく、緊張を持たせることが狙い、か。

 実際、学院側の狙い通り、クラスメイトには緊張が見て取れる。


 しかし、俺はこの話を聞き、完全に安心しきっていた。

 元々、モンスターを狩ることを生業としていたため、そこまで緊張はないし、おそらく、学院は勇者候補の俺の存在を考慮し、相当強力な監視、および警備役を配備してくる。魔族の介入も、可能性としてはあり得るからな。事前のモンスターの選別にも相当力をいれてくるだろう。

 だからと言って油断は禁物だが、過剰に不安がる必要はない。


 それから、課外授業に関するプリントが配布され、解散となった。

 教室内は、どうやってパーティーを組むかで盛り上がる。

 さて。俺はどうしたものか……

 クラス内に友人はいないし、俺とユイはまだこの学院に来て以降、実技的な授業は受けてはいない。つまり、評価が難しい。俺とユイが冒険者であったことは知られているが、ランクはD。俺たちとは冒険者に対する考えの違いもある。

 仲がいいわけでもないのに、あえて誘うほどのメリットはそこまでない。五日に及ぶ課外授業となれば尚更、そこまで親しくない人を誘う気にはならないだろう。

 実際、彼らの眼中に俺とユイの姿は映ってはいないようだ。

 ユイも、誰かから誘われにくい退場でいることはわかっている様だ。


「ロイドと私が組むのは確定として、あとは……」


「僕とカンナじゃダメかな?」


 ラタールとカンナの問いかけに、ユイは迷うことなく答える。


「ええ、勿論! ロイドも良いわよね?」


「あぁ、こちらこそよろしく頼む」


 人を選べるような立場じゃないし、Dランク冒険者というお世辞でも高いとは言えないランクの俺を誘ってくれるのは素直に嬉しかった。

 唯一、カンナの職業がいまだに不明なのが気がかりだが、なんとかなるだろう。

 この学院の生徒は、名門校に入学できるレベルの実力は持ち合わせている。俺なんかより、優れている生徒もいるだろう。

 職業不明とはいえ、カンナもそれ相応の実力があるのは確かなのだ。


「大体のものは学院側が用意してくれるみたいだけど、武器とかは自前のものでも良いみたい」


 カンナがプリントに目を通しながら言う。


「ならさ、せっかくだし、明日一緒にお出かけしない?」


「お出かけ?」


「そ、私、まだこっちに来てから街を見て回れてないし、道具選びのついでに観光したい!」


 俺もまだ、聖地に来てから街を細かくは見て回れてはいない。

 色々と、興味はある。


「僕はいいよ? カンナもいいよね」


「ええ、特に予定もないし」


「なら決まりね」


 なるほど。俺の意見は聞くまでもない、と。

 まぁ、予定はないし、一応、学院長に報告をしておく必要はあるが、許可は出るだろう。

 後で事前に説明を受けていた、連絡用の職員に伝言を頼んでおくとしよう。




 ◇



 翌朝。

 待ち合わせの時間に間に合うよう部屋を出ると、すでにユイが準備を済ませ待っていた。

 こういう自分の楽しみな予定のある日には、しっかりと早起きするんだな。

 普段からこうであって欲しいものだが、期待する無駄か……。


「にしても、聞いてた通り凄い扉ね……暇だったから何度か斬り裂こうとしたんだけど、びくともしない」


「斬り裂くって、朝っぱらから何やってんだ? 他の学生に見られたらどうする?」


「大丈夫よ、後で痴話喧嘩って言えば……」


「その範疇を大きく超えてると思うが?」


 扉に目を向けると、いくつかの軽い剣撃の跡が見られた。

 塗装が剥げている……だけじゃなさそうだ。浅いが僅かに傷がある。

 びくともしないんじゃなかったか?という疑問と、この扉に傷跡を残すユイのパワーにほんの少しの敬意と恐怖を抱きながら、俺はユイとラタールたちの元へと向かう。


 寮の外に出ると、私服姿のラタールとカンナの姿があった。

 ユイの姿を見て、カンナが少し驚いた表情を見せる。


「お、どうやらカンナの予想は外れたみたいだね」


「入学初日に遅刻してきたくらいだし、てっきり今日も遅刻してくると……」


 どうやら、ユイの遅刻予想をしていたらしい。

 そう言えば、初日にそんなことがあったな。あれからもう、二週間……ユイの寝坊癖は健在で、お陰で俺まで遅刻しかけた日もあった。なんなら、一度遅刻している。

 何かを賭けていたと言うわけではなさそうだが、悔しがるカンナ。ラタールは、予想通りの結果に満足している様子だ。

 流石の洞察力……

 ラタールは、クラスの中でも人気があるが、その秘訣の一つにこの洞察力の高さがあるのは間違いない。些細なことも見落とさず、困っている人がいればすぐに気がつき助けるし、成績も学力面では超優秀だ。

 一方でカンナは、意外にも消極的であまりクラスで他の生徒と絡んでいるのは見ない。

 決まって、ラタールと一緒に行動している。


「二人っていつも一緒にいるし、仲がいいんだな」


「そう、かもね。まぁ、ロイドとユイも変わらないと思うけどね」


「確かに……」


 ラタールはカウンターを食らった俺を見て、爽やかな笑みを受けべて見せた。

 ラタールは容姿も良い。

 それにこの性格だ。

 あえて気がついていないふりをしていたが、課外授業のグループ分けの際、何人ものクラスメイトがラタールを誘おうとしていた。

 誰とでも分け隔てなく接する態度も好印象。


 だからこそ、ラタールとカンナってどこか不思議な組み合わせに感じずにはいられない。


「何故、僕とカンナがよく一緒にいるんだろう、って顔をしてるね」


「読心系の魔法でも使えるのか?」


「そんなものなくても、顔を見れば分かるよ」


「そんなことでそこまで分かるのか……」


「まあね」


 勇者候補という厄介な事情を抱えていることだけは決してバレないよう、全力を尽くさなければ。


「うーん、僕とカンナの関係性か。なんて言えばいいかな……」


「ラタールが優しいのと、後は私のせい。いえ、正確に言えば私の職業のせい」


「それって、前に言ってやつ?」


 ユイの問いに、カンナは黙って頷いた。


「私の職業は不気味だし、この国ではあまりいい印象受けないから。誰も仲良くはしたがらないの」


「そんなことで?」


「そんなことが、この国ではかなり重視される傾向にあるからね」


 初めて、ラタールの表情が険しくなる。ラタールはこの国のそういった考えに、否定的な考えであることが窺える。

 職業による差別……

 改めて、俺には少し理解し難い国だと感じさせられるな。


「ならいっそ冒険者にならない?」


「冒険者?」


 ユイの提案に、カンナは首を傾げる。


「そ、自由だし、実力主義だからそういうのもほとんどないし」


「それは、ちょっと……」


 冒険者になることには抵抗があるといっと様子だ。

 この国では、冒険者になることは良しとされない傾向がある。そんな話をエルから聞いたことを思い出す。

 やはり、聖教国では聖騎士になることを目標とする人が多いらしい。

 冒険者、悪くないと思うが……これが国による価値観の差か。


 

 

 

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