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白魔導師、聖騎士学校へ入学する

 私立 聖鵬せいおう騎士学院……かつて、聖騎士の中でトップである聖騎士団長が建てた聖騎士学校の一つで、私立でありながらも実績が多く、国や貴族といった個人など、幅広い層からの多大な資金を貰い、充実した設備や人脈を兼ね備えた有名な聖騎士学校だそうだ。

 毎年、多くの聖騎士を輩出しており、卒業生には歴史に名を刻むような聖騎士も多い。

 倍率も高めな有名聖騎士学校。


 ぶっちゃけ、俺はこの学校の存在を初めて知ったし、知っている著名人なんて一人もいやしないが……

 そんな名門校に俺は今日、入学する。


 ラミス学院長と別れた後、別の教職員の方がやってきて、俺を学院の寮へと案内してくれた。

 これから、学生としての生活が始まる。


「新生活か……」


 玄関を通り部屋に入った後、俺は早速自身の部屋の壁を数回、強めに叩いてみた。

 普通なら、横の住人から煩いと、怒鳴られても仕方がない迷惑行為なのだが……

 事前に受けていた説明が本当だというのであれば、この程度の衝撃なんて大したことないだろう。

 そもそも、横に誰か人が住んでいるのかどうかも怪しいところだけど。


 この部屋……一見、ただの1LDKに見えるがそうではないらしい。

 この部屋は俺が住むために特別な改装を施したらしく、壁には硬度の高い金属の板が埋め込まれ、それとは別に魔法への耐性の強い、珍しい金属の混ぜられた合金素材の板も重ねられているそうだ。

 ドアの厚さも、一般的な家屋のドアの倍以上はあった。

 いくら鍛えた戦士が武器を振り翳そうと、そう簡単には破れまい……と、ここへと案内してくれた職員は言っていた。

 俺が安心して休めるようにとの考慮らしいが……


「これじゃ、部屋というよりは金庫じゃ……」


 さらにこの部屋、二階でありながらベッドの下に地下の脱出通路まで用意されている。なんでも、わざわざ下の階の部屋を空き部屋にし、改装。そして地下へと繋がる緊急避難用通路へと繋げたそうだ。

 いかに、この国において勇者という存在が大事にされているかが窺える。

 アレンが「聖教国はむしろ住みにくい。プライバシーがない」なんて愚痴を溢していたこともあったが納得だ。この国は過剰だ。アレンの傍にいたから分かるが、王国の方が程よく丁重に扱われる。 


「はぁ……」


 俺は手に握った魔杖を強く握りしめ、ため息をついた。

 机の上に置かれた制服と鞄、教科書をぼんやりと眺めていると、そこに封筒が置かれていることに気がつく。

 一応、確認しておくべきか。

 手に取り中身を確認する。


「えーと……何か用事がある時は、さっきの職員を通してラミスに伝えればいい、と。他には、って、ん?」


 金銭面で困った時は給付いたします……って、これはいくら何でも優遇が過ぎるんじゃないか?

 一応「本来、冒険者活動で得られるはずだった分は、お詫びとして聖教国側が補填する」という名目にはなっているが、受け取るのは可能な限り避けよう。

 下手に借りを作ると、後々面倒なことになりそうだし。


「って、こんな調子で本当に常識が学べるのか?」


 こういった正教国による優遇の数々がプレッシャーに変わり、俺を押しつぶそうとする。

 なんの実績のない人間でも、ただ武器に選ばれたという理由で重宝され、尊敬の眼差しすら向けられる。

 ただの一介の冒険者が、一瞬にして英雄へと早替わり。

 あのアレンですら、聖教国を拠点としなかった理由が身に染みて分かる。


「はぁ……」


 学校生活で、俺は表向きはただの生徒、として扱われるらしいが、監視の目はあると考えておいた方が良さそうだ。

 あの時、断っていれば……

 ユイ、ダッガス、シリカ、クロスの顔が浮かぶ。


「こうするしかなかったんだろうか……」


 今更後悔してところで遅いと、そう分かっていながらもそんな考えが頭を過った。





 ◇



 しばらくの間お世話になるであろう、担任教師……レイヤに連れられ教室へと向かう。

 レイヤは元聖騎士であり、魔法系の聖騎士として活躍していたそうだ。この学院の卒業生でもある。

 しかし、色々あってわずか三年で聖騎士を辞めてしまっているとのこと。


 そう言った、レイヤに関する情報がラミスから受け取った書類に記載されていた。

 ちなみに、俺はその、色々という部分については何も知らないし、聞かされていない。

 重要なのはそこじゃないし、プライベートなことだからな。

 本題はレイヤの過去じゃない。

 ラミスが俺に彼女に関する書類をわざわざ送ってきた一番の理由は、「彼女は俺の事情は一切知らない」ということを俺に伝えるためだ。最も身近な職員が何も知らなくてもいいのか?と、疑問にも感じたが、彼女が俺に普通に接することができるようにするため、伏せることにしたらしい。

 そうなると、いざって時が怖いが……まぁ、俺が簡単に思いつくようなことを、聖教国の偉い方々やラミス学院長が考慮していないはずがないし、大丈夫だろうと思考を放棄する。


「どうかした? さっきから難しい顔して」


「いえ、ちょっと緊張しているだけです」


 実際、初めて通う学校という環境を前に緊張は感じている。


「大丈夫よ。ここは年齢制限はあるけど、ロイドと同じくらいの年齢で入学してくる子はざらにいるし、きっと仲良くなれるはずよ、たぶん……」


 たぶん、と言った際に、ものすごく暗い表情になった気がしたが、おそらくは気のせいだろう。


「それにね、今日うちに、もう一人入学してくる子がいてね。その子も冒険者で、しかも歳も一緒なの。なんでも、有名な研究者の推薦を貰ってる子らしくて……」


 冒険者だから仲良くなれると言うこともないだろうが、こんな変な時期に入学してくる子がいるくらいだし、俺が変に浮くことはないだろうと安堵する。


 それから間もなくして、俺は教室の前に辿りついた。

 すでに、開始のチャイムはなっており、廊下に人はいない。

 少し待っていてと言い残し、レイヤが教室へと入って行く。


「それじゃ、入ってきて」


 そう言われ、今になって挨拶や自己紹介などを何も考えてこなかったことを後悔しながら、入室する。

失敗したな……余計なことを考えるあまり、今が何も見えていなかった。

教室に入ると、何十人という生徒の視線が俺へと集まっていた。

どうしたものか。

 少なくとも沈黙があまり長く続くのは良くのも良くないだろう。

 何か、とりあえず何でもいいから話さないと……


「えーと、ロイドです。学校は初めで、分からないことだらけなので、色々と教えてもらえると嬉しい」


 無難に、悪くない挨拶ができたはず……だ。

 それから謎の間が空くが、これは俺のせいではない。

 レイヤ先生が困った様子で廊下をチラチラと確認している。


「えーと、ちょっと待ってね。もう一人来るって聞いていたんだけど」


 謎の間が空いたのは、来ると聞いていたもう一人の入学者が何故かこの場にいないからだ。レイヤの様子を見るに、本来ならもう登校しているはずなのだろう。

 初日から遅刻とは……ある意味凄いな。

 その間、ずっと前にいる立っているのは御免なんだが。


「とりあえず、俺は先に座っても……」


 そう言いかけたあたりで、廊下からものすごい速さで廊下を駆けている足音が聞こえて来た。

 接近するにつれ、大きくなる足音。

 生徒の視線は教室の入り口へと集まる。


 そうして、息を切らしながら入ってきた入学者は、驚くことに俺の知っている人だった。

 ピンクの髪の小柄な入学者。


「はぁ、はぁ……遅れてすみません。ロイドと同じ冒険者で、ユイって言います! えーと、その……そう、剣術! 剣術を学びに来ました! これから、よろしくお願いします!」


 息を切らしながら、そう笑顔で挨拶して見せたユイを前に、俺は思う。



 こいつは何故ここにいて、いったい何をしているんだ? と。


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