白魔導師と金髪魔族②
辺りを見渡しながら、仁王立ちする筋肉質な金髪の男。
がたいが良く、身長も俺より遥かに高い大男。
筋骨隆々としたその姿を、見せつけるかのような軽装備。武具の類は、ぱっとは見当たらない。収納魔法で隠している可能性は否定できないが、魔法職って感じはまるでない。
ふむ。装備から察するに、近接戦闘……それも殴る蹴るなどの攻撃を得意とするタイプだろう。
そしてこの感じ……。
魔力を感じ、探知した時から分かってはいたが、やはりただの魔族ではない。クレアを背後に庇いつつ、距離を取りながら、冷静に分析を進める中、
「さてと。そんじゃさっさと仕事を終わらせるとするかな」
魔族の男がそう言った刹那、その存在感ある巨体が視界から消失した。
気配や姿を魔法を使用し消したわけではなく、純粋な身体能力による高速移動。気がついたときにはすでに俺の前から姿を消していたのだ。
「まずは一人目」
シリカがいた方向からそう声が聞こえると同時に、俺は反射的に強化魔法を一人へと集中させ、付与した。
付与する相手は敵の狙いであるシリカではなく、ダッガスだ。
俺の意図を組んだ……否、俺がそう動くことを予測していたダッガスは盾を構え、瞬時に魔族の男とシリカの間に割り込む。
「させるか!」
シリカに殴りかかる魔族の拳をギリギリのところで防ぐ。
しかし、その拳から放たれる威力は並みのそれではなく、ダッガスは威力を受け止めきれずに吹き飛ばされてしまう。
巨木に激しく衝突し、項垂れるダッガス。
また、よく見ればその手に握られる大盾は半壊しており、とてもまともに使えるとは思いがたい状態となっていた。
たった一撃……。
それだけでSランク冒険者を……しかも防御に長けたダッガスを戦闘不能に持ち込む魔族の男。
そんな魔族の男はどこか楽しげに、項垂れるダッガスのことを眺めていた。
「ほぉ、今のを防ぐのか。なるほど、ひょっとしてお前らがイシュタルで俺の計画を狂わせた冒険者か?」
魔族の男の言う「イシュタルでの計画」。思い当たる節は一つしかない。
察するに、この男こそがイシュタルで起こった出来事を計画し、引き起こした魔族の親玉ということだろう……と。
そう推測することが出来る。
「そうだが……あんたが、待ちを襲ったあの魔族たちの親玉ってことか?」
「うーん、果たして俺があいつらの親玉って言ってもいいかは微妙な所だが、まぁそんなもんだ。俺は魔王の部下にして四天王の一人、グリスト。さ、第二皇女クレアを渡してもらうか?」
「し、四天王!?」
それを聞いたユイは表情は驚愕へ変わり、数歩後退りした。
魔王軍の四天王と言えば、四人いる魔王の側近にして、四人全員が勇者なみの強さを誇るの部下……と聞いている。なるほど、確かにその通りかもしれない。
正直、こうして面と向かって対峙しているだけでも、逃げ出したくなるほどの威圧感がある。
俺なんかの敵う相手ではないのは確か。
まさか、こんな所で対峙することになるとは……控えめに言って最悪だ。
少数精鋭でくるだろうとは予測していたが、まさかそんな大物が直々に領地に乗り込んでくるとは思ってもいなかった。
くそっ、失念していた……。
しかし今は驚いている場合でも、後悔している場合でもない。
一端、すべての強化魔法を解除し、ダッガスに回復魔法を付与する。
持続する回復付与の魔法。
通常の回復魔法……ヒールなどを強化魔法の力で底上げすることでも、ダッガスを治癒することも可能だが、それには距離がありすぎる。とは言え、今はここを離れられない。
これは、それらとはまた別の回復魔法で、利点はその回復力と気配の感じ取れる範囲であれば離れていてもよいということ。範囲は大体、強化魔法の対象と同じくらいか。
そして、一度発動すればしばらく、回復魔法を付与した状態にできる。つまるとこ、魔法の発動そのものは一瞬というわけだ。
一般的な回復魔法を違って、治るまでつきっきりでかけ続ける必要はない。
俺が昔、回復魔法と強化魔法からアイデアをもらい、師匠たちと作ってみた試作の魔法だ。
回復力なら他の回復魔法にも劣らないが、その一方で、魔力消費が著しいため、俺の力では他の魔法の同時発動は厳しく、実戦向けではないが。
(こうでもしないと回復が間に合わない……)
今、この場を動けない以上、苦肉の策だ。
こうして俺画面と向かい続け、少しでもこの男との会話を引き延ばし、ダッガスの傷を癒す。
幸い、ダッガスの負った傷は俺の治せる範疇。
時間をかけれはを、再起は出来るはずだ。
最も、ダッガスが復活したとて、こいつの倒しかたなんて、検討もつかないが……
「こんなの、私たちにどうしろと……」
目の前で吹っ飛ばされたダッガスの光景を想起しながら、ぽつりとシリカが呟く。
圧倒的な実力さを前に、絶望に染まるユイたち。
「こうなれば、最悪……」
ーークレアだけでも逃がせないか
俺はそう思い、ちらりとクレアを見るのだった。




