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白魔導師と白い霧②


「なっ!?」

 

 突如、まるでタイミングを見計らったかのように立ち込め出した霧に動揺が走る。


「霧……? ここらで霧が出るなんて情報はなかったが」


 アベルからの事前説明で途中寄る村や街の特色、また道中気を付けなくてはならないことなどは聞いていた。

 例えば、ここはモンスターが出やすいとか、雨が降ると地盤が緩くなりやすく、戦闘しにくくなるなどだ。アベルはその辺りをまめまめしく、まとめ上げてくれていた。一見、人任せに見えるアベルだが、事前に相当な労力を割き、準備にあたっていたことが窺える。クレア護送のルートである以上、下手に他人任せにはできないところも多かったろうしな。

 だが、そんなアベルの調べ上げた事前情報の中に、霧なんて話しは一切出てこなかった。


「アベルが言い忘れた……のか?」


 まさか、第二皇女護衛なんていう重大な依頼で、アベルが何かを言い忘れたとは考えにくい。しかも霧という、場合によっては雨以上に厄介な現象ならばなおさら、伝え損ねるとは思えない。

 その後、霧はみるみる濃くなっていき、気がつけば数十センチ先しか見えなくなってしまっていた。

 視界はほぼ封じられている状態。

 俺はクレアの身の安全と周囲の状況を確認すべく、探知魔法を発動しようとした。そして、これらが想像よりずっと絶望的な、危機的状況であることに気がつく。


「この霧、探知魔法を妨害してくる……!」


「えっ、噓でしょ!?」


「いや……残念ながら嘘じゃない。霧に魔力が込められて、モンスターの気配を、魔力を探知できない! ……本当に近くの気配だけ、かろうじて探知出来てる感じだ」


「えっ。そ、そんな……」


 それは、ギリギリメンバー全員の位置がなんとなく分かる程度だった。

 ここまで範囲を縮小されるとは……。


 自身に慌てるなと言い聞かすが、これには動揺を隠せずにいた。

 くそっ、なんなんだ……この状況は。

 俺もまあまあな年月を森の中で過ごしてきた。

 自然には、人並みよりかは慣れており、知識だってあるつもりだった。

 だが、魔力の込められた霧など、体験したことはもちろん、聞いたことがない。

 この森の特色なのだろうか?

 だめだ。動揺が思考を急かし、平常を崩す。

 分かるのは、この霧がかなり広範囲にわたって発生しているということだけだった。


「この霧……厄介だな」


「そんな……やっぱり道を間違ったのかしら?」


「いや、それはない。それはさっき確認し……」


 いや、おかしい。

 つい先程まで、俺も度々探知魔法を使用してきた。

 であれば、もう少し早く魔力の霧の存在に気がつけたはずだ。


「いくらなんでも突然すぎじゃ……」


 ここにきて最悪の可能性が見えてきた。

 この霧……やはり、どう考えてもおかしい。

 それはたんなる「違和感」なんてレベルじゃなかった。

 見た感じ、ここは霧が発生するような場所ではない。時間帯的にもだ。

 それに、常識的に考えて霧に魔力が込められていることなんて、自然にはあり得ないのだ。

 ここは人為的、と考える方がしっくりくる。

 それにこの村の崩壊。

 これらが指すことは……


「魔族の襲撃か!?」


 それが魔族本人か、協力者かは不明だが、クレアをみすみす逃がすつもりはない、ということだろう。

 ここらで回収する算段か……。王都からは少し離れ、その上で極度の疲労が蓄積し、かつ、油断の高まるこのタイミングを狙って。

 そう言う結論に至ると、俺はすぐに行動に移った。


「ユイ、急ぐぞ!」


「ど、どうして!?」


「この霧、魔族の仕業である可能性が高い!」


「えっ!?」


 魔族がこの後、どう動くかなんて想像もつかない。

 ただ、俺の予想が正しければこの霧は王都の周囲さえも、丸々包みこんでしまうほど広範囲に張り巡らされている。

 だとすれば、かなりの魔力量を持つ魔族がいるということになるが、そんなことは想像したくもない。


「ね、ねぇ!? 急ぐって言っても、どこに行けばいいの!?」


 必死に問いかけてくるユイ。

 しかし、方向感覚も探知魔法も失った今、何処に行けばいいのかなんて俺にもわかるはずもなかった。

 霧が晴れるまで待つ。

 そんな考えが頭を過るが、果たして魔族がそれを待ってくれるだろうか。

 考え無しに霧を発生させたとは考えにくい。

 足止めの可能性は高い。

 それに、俺たちは何も見えないが、鼻のきくモンスターであれば、霧があろうと容易に行動することが出来る。

 と言うわけで、動くと言う選択をしたわけだが。

 ここで新たに考えられる可能性が一つ。


「ロイド! これって、俺たちが動くのを待っているわけじゃないよな?」


「分からない……」


 ダッガスの言う可能性も否めなかった。

 魔族が俺たちを誘導している可能性。

 十分にありうる。


「だが、移動を続けないとモンスターに嗅ぎ付けられるかもしれない。嗅覚が鋭いモンスターも少なくない!」


 視界と探知魔法を阻害する霧は、俺たちにとっては致命的だが、嗅覚に長けたモンスターからすれば、致命的にはなり得ない。


「くそっ、選択肢は一つだけか……!」


 悪態をつきながらも、俺たちはモンスターを蹴散らすようにして走った。

 クレアを囲むようにして移動する。確かこっちだったはずだという、もはや勘と言っても過言ではない、危うい方向感覚だけを頼りにして。


「くっ……モンスターが多くねぇか!?」


「たぶん、モンスターも困惑しているんだろう。動きが活発になっている」


「マジかよ……」


 弓で襲い掛かるモンスターを的確に打ち抜いていくクロス。

 どうやら収納魔法を上手く応用しているらしく、弦を引くと同時に矢が装填され、瞬時に打てるようになっているみたいだ。

 打ってから次の発射までにかかる時間がかなり短縮されている。

 収納魔法の応用……流石はSランク冒険者だ。


「って、感心している場合じゃないよな」


 全員が行動しやすいよう、身体強化や魔力消費の軽減等の強化魔法をかけていく。


「っ……魔族は何を狙っているんだ?」


 とりあえず、モンスターから逃げるべくこうして勘だけを頼りに動いているが、いっこうに魔族の狙いが見えてこない。

 すぐさま、襲撃が来ないことが、むしろ恐怖を駆り立てる。

 ここで俺たちの体力や魔力を削るつもりなのだろうか。

 だがこの霧を保っている以上、魔力は相手側も確実に消費しているはずだ。

 しかもこの広範囲……


「っ、本当に何を考えてるんだ!? ……魔族は」


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