白魔導師、の初依頼
「その……迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」
クレアはそう言うと深く頭を下げた。
しかし、そんなクレアに何と言えばいいのかが分からず、戸惑ってしまう。
前回共闘した時は、クレアが帝国の第二皇女だなんて思いもしなかったため、自然体で話すことが出来ていた。だが、今は違う。彼女が第二皇女という、高貴な身分であると分かった今、俺はクレアに何と返せばいいのか、分からなくなってしまった。
「あー……いえ、こちらこそ、その……」
ダッガスが何とか言葉を返そうとするが、慣れていないせいか。
何度も言葉を言い直していた。
そんなダッガスがちらりとこちらへ視線を向けた。その表情からは「助けてくれ!」と言っているのが、よく分かる。
とは言え、俺もどう接すればいいのか分からない。
それはユイたちも同じらしい。
ダッガスと視線を合わせないようにと、目をそらした。
これこそ、無礼な気もするが……
かく言う、俺もそうなため、何も口出しはできなかった。
「あのー」
そんな俺たちを見ていた、クレアがゆっくりと口を開いた。
流石に不味かっただろうか。
「確かに私は帝国の第二皇女ですが、そこまで改まらなくて大丈夫ですよ。私としても出来れば、以前と同じように接して貰いたいですし、名前もクレアって呼んで貰えたほうが……」
変に気を使われても困る、と言いたいのだろう。
俺はなるべく自然な会話をしようと、話題を探した。
じーと、クレアの顔を見つめる。
顔色は、だいぶ良くなっているし、体調も以前に比べればかなり良くなってそうだ。
未だ痩せてはいるものの、あの時ほどではない。
それに足だって、もう歩けるほどに……。
「普通に歩いているみたいだが、足は大丈夫なのか?」
前回会った時は、歩くことすらままならないほどに衰弱していた。
こんなに早く回復するとは思えない。
きっと何か理由があるはずだ。
「それは、これのお陰だと思います」
そう言い、クレアが鞄から取り出したのは水色に輝くポーションだった。
見たことのないポーションだ。
他にクレアが特別接種したものはないようだし、このポーションのお陰で歩けるようになったと言うことだろう。
へぇ……そんな凄いポーションもあるんだな。
しかし、ユイは納得しなかったらしい。
「えっ、でも……ロイドの強化魔法でも、歩かせることは出来なかったんでしょ!?」
クレアの言葉を聞いたユイが驚き、大きな声をあげた。
まぁ、俺の強化魔法もまだまだだし、ポーションについて詳しいわけではないが、そんなポーションがあってもおかしくはないのではなかろうか。
「ユイ、どうかしたのか?」
「いや、だって……そんなポーション」
ユイは、よほど信じられないようでいまだに「嘘でしょ?」と言いたげな表情をしていた。
「アベルさんの知り合いの錬金術師が作ったらしいんですが、私も使ったときは驚きました。ポーションの効果があるうちは魔法は使えませんが、それでもこんなポーションは見たことがなかったので……」
なるほど。察するに、本人の魔力をそのまま身体能力の向上にでも使っているのだろう。
このポーションがどれほど凄いのか。ポーションに関する知識のない俺にはさっぱり分からないが、第二皇女が知らないと言うのだから、かなりのものなのだろう。
アベル……何となく分かっていたが、ただ者ではなさそうだ。勇者パーティーにいた時に関わったことのある騎士よりも、はるかに強そうだし、たぶん賢い。
味方である以上、過度に警戒する必要な無さそうだが、危険人物と認識しておいたほうがいいかもしれない。
「まぁ、ユイ。第二…クレアが大丈夫って言うんなら、いいんじゃないか?」
「そうですね。クレアさん、キツくなったら言ってください」
シリカの言葉に、クレアが頷く。
「よし、それじゃ行くぞ」
俺にとっては冒険者になってから初めての依頼でもある。
先ほど数日分の物資と共に、冒険者プレートを受け取っていた。
そこには俺の名前と冒険者ランク、他には登録日などが記されている。
冒険者ランクはD。
妥当な判断だ。
しかし他のDランク冒険者とは違い、その下には「Sランク冒険者のパーティーの時のみSランク以下の依頼に参加出来る」と記されていた。
アベルが冒険者ギルドの職員と話し、決めたらしいが……何か裏があるように感じるのは気のせいだろうか。
「ロイド、何してるの?」
ぼーと突っ立っていた俺に、ユイが問いかける。
気がつくとユイ達はすでに先へと進み始めていた。
こちらを振り返り、手を振るユイの姿が見える。
「いや、何でもない。すぐに行く」
そうだ、気にしていても仕方ない。
今は依頼に集中しなければ。
そう思い、俺はユイたちのもとへと走った。
こうして第二皇女護衛が始まった。
馬車を使えないため、王都まではかなりの時間がかかる。長い依頼になるのは間違いない。
そして、戦闘は避けては通れないことも。
しかし想像をはるかに越える事態が起こるなんて……
この時の俺は知るよしもなかった。




