白魔導師、街を旅立つ
◇
太陽がだいぶ高くまで昇った頃。
待ち合わせの場所である宿の前へと到着した。
そこにはすでに、準備を済ませたと思われるユイたちの姿があった。
皆、収納魔法を使っているのか、荷物のような物は見当たらなかった。
ユイを除いてだが……。
ユイも昨日の練習で収納魔法は使えるようになったのだが、収納出来る量があまりにも少ないため、武器以外は俺が持つこととなっている。
やはり、魔法が苦手なのだろう。
苦手なものを無理に急いで克服する必要はない。
繰り返し使い続けていれば、少しずつ収納出来る量も増えていくはずだ。焦ることはない。
「あっ、ロイド!」
俺に気がついたユイが歩きながら、こちらへと近寄ってくる。
「朝から見かけなかったけど、何処に行ってたの?」
「あぁ……その」
ユイの発言から、昨晩から居なかったことはバレてなさそうだ。
別にバレても困ることでもないのだが。
「ちょっと用事があってな。出掛けていただけだ」
わざわざ森で魔法の練習をしていたことを言う必要はないだろう。
あまり寝てないなんて言ったら、依頼に影響が出ないか心配されるかもしれない。
ただでさえ、帝国の第二皇女を王都まで護衛するという責任重大な依頼で、不安だろうに、そこでさらに不安をあおるような発言はしたくなかった。
それに用事(反省点の改善と魔法の練習)があって、(夜中に森へと)出掛けていたのは事実だ。
嘘はついてない。
「ならいいわ。見たところ元気そうだしね」
一睡もしていないわけではない。
ちゃんと仮眠は取っている。
俺たちを待つ、あまりにも荷が重い依頼に影響は出ないはずだ。
ちなみに、昨晩の魔法作りについてだが、結果として、俺の考えた魔法を実現することは現時点では無理だった。
もともと、魔法作りを短時間でするなんてことは不可能な話だ。
既存の魔法を改良するのに比べ、魔法作りは難易度がはるかに高い。
存在するものをいじるのと違い、存在しないものを一から作るのだから、魔法作りの方が難しいのは当然だろう。
まぁ、時間がかかることは想定内だ。魔法作りに関しては、空いた時間にコツコツとやっていこう。
依頼中にだって余裕があれば、時間を確保出来るかもしれないしな。
「それで、準備は出来てるの?」
「いや、一つだけ忘れ物があるから、それだけ取ってこようと思う」
昼過ぎまでならばまだ入室可能だ。
部屋に赤い魔石を置いたままだから、それだけ取りに行かなければ……
他のものは予め収納しておいたのだが、あれだけは出来なかったからな。
いや、もしかすると収納出来るのかも知れない。
だが、あの魔石が何なのか分からない以上、下手なことは避けるべきだとそう考えた。
それにあのサイズのものならば、収納魔法を使う必要もないだろうし。
「すぐ戻ってくる」
俺はそう言い、急ぎ足で部屋へと向かった。
扉を開け、部屋へと足を踏み入れる。
そしてベッドの下へと手を伸ばした。
ゴソゴソとてを動かしていると、柔らかい何かに触れた。
「あった……」
魔石を覆う布を掴み、そのままベッドの下から取り出した。
そこで俺はとある違和感を覚えた。
魔石がくるまれているはずなのに柔らかい。
重みはあるが、硬くないのだ。
もしかして、取られたのか?
そう思い、俺はおそるおそる布を開いた。
「砂……それとも灰か?」
そこにあったはずの赤い魔石の姿はなく、かわりにさらさらとした灰のようなものが、布の中から現れたのだ。
これがあの魔石なのか?
危険を承知で試しに魔力を流してみるが、これといった反応はない。
まったく別のもの、と考えるべきか……
ユイたちを待たせているため、俺はその物体を布にくるみ、収納し、部屋を後にした。
魔力に反応しないのならば、問題ないはずだ。
その後俺は急いでユイ達のもとへと戻った。
「すまない、待たせたな」
「大丈夫よ、まだ時間はあるから。はい、悪いけど荷物お願いね」
◇
荷物を収納した後、俺達はアベルの屋敷の近くにある林へと来ていた。
周囲はしーんと静まり返っており、ひんやりしている。
生い茂る木々が日光を遮っているため、若干暗い。
そんな林の中を歩いていると、アベルと数名の騎士の姿が見えてきた。
近くには、フードを被った人もいた。
おそらくはあれがクレアだろう。
正直、めちゃくちゃ怪しい格好なのだが、あれはすれ違う人達から、帝国の第二皇女だとバレないようにするものだろうな。
確かにあれならいくら怪しくても、帝国の第二皇女だとは思うまい。
一応、第二皇女の件は秘密事項らしいし。
それに魔族も襲撃してくるならば、それなりの実力者を出してくるはず。
見た目で誤魔化せるほど甘くはないだろう。
作戦から察するに魔族との戦闘は前提と言うことか……
「お待たせしました」
「あぁ、ダッカスくん。昨日ぶりだね」
アベルがにこにことしながら、こちらへと近寄ってきた。
まったく、何がそんなに嬉しいのやら。
その後、アベルによる簡単な説明が行われた。
マナポーションや救急キット、数日分の食料などはアベルが全て用意してくれた。
俺が収納魔法を使えることを知ってか、知らずか。
全部合わせるとかなりの量があった。
俺はそれを収納しながら、アベルの話へと耳を傾ける。
「まぁ、昨日も話したけど、途中から頼りになる助っ人が来るから。それと勇者の一人が王都に向かっているらしいよ。まぁ……彼は」
「彼は?」
「ううん、何でもない。変わり者だけど、きっと力になってくれるはずだよ」
そう言うとアベルは、苦笑いを浮かべた。
何故苦笑いかは知らないが、勇者がいると言うのは心強い。
それに頼りになる助っ人もだ。
アベルがあそこまでいうのだから、かなりの強者だろう。
「それじゃ、大変だろうけど第二皇女の護衛を頼んだよ」
こして第二皇女の護衛依頼が始まった。
ユイ達からは、緊張しているのが伝わってくる。
俺も経験のない依頼に少し緊張していた。
さて、俺もユイ達の足を引っ張らないように頑張らないと……




