白魔導師、とパンケーキ
◇
アベルの屋敷から出た後、俺達は街の中を、宿へと向かい歩いていた。
皆、暗い表情でうつむいている。
無言で歩いていると突然、先頭を歩いていたユイが振りかえった。
「皆、本当にごめん!」
ユイが深々と頭を下げる。
「もう気にすんなよ。悪いのはあいつだ。ユイが断れないのを知った上で言ってやがったし……」
「そうですよ……クロスの言う通りです。そんなに気にやむことはないです」
クロスとシリカの言葉に、ダッガスも頷く。
俺もクロス達と同じで、ユイのせいだとか、ユイが悪いだとか、そんなことは思っていない。
あれは確かに、腹黒アベルが悪い。
どこで仕入れた情報か知らないが、ユイは「人のため」と言われると断れないことを、あらかじめ知っての発言だった。
屋敷へと呼んだ時点で、こうなることは確定していたのだろう。
まんまとはめられたわけだ。
「ユイ、落ち込んでいても仕方がない。とりあえず、準備を整えないか?」
アベルは明日と言っていた。
文句の一つでも言いたいが、言い分はわからなくもないし、承諾してしまった以上は急いで準備をしなければならない。
どうせ今さら、「やっぱり無理です」とは言えないだろうしな。
「あぁ、ロイドの言う通りだ。明日までに出発出来るよう、準備を整えないと……」
ダッガスがそう言った直後、シリカが何かを思い出したらしく、こちらを向いた。
いったい、何の用だろうか?
「その、まだ昼ですし……時間はあるので、えーと……収納魔法を教えてくれませんか?」
あぁ、そう言えば……。
ハイウルフ討伐の依頼前に、そんなことを約束していた。
確かに、あの魔法なら簡単だし、今のうちに教えておいてもいいかもしれない。
この先、何があるかは分からない。
自分達の武器くらいは、自分で管理出来るようにしておいた方がいいだろう。
「そうだ、教えるって約束だったな……ダッガス達にも教えておきたいんだが、時間は大丈夫か?」
無理に習得することはないが、出来れば使えるようになっていて欲しい。
そんなに時間はかからないし、何より使えれば便利だからな。
時間があればいいのだが……
「俺は大丈夫だぜ。まぁ、荷物整理にそんな時間はかからないし……あれ、使えたら便利そうだもんな」
「確かに……いつまでも盾を背負うよりかは、魔法で持ち歩けた方が楽だ。それに、習得出来れば各々の貴重品を自分で管理出来るしな」
クロスとダッガスは大丈夫みたいだ。
シリカも時間はあるらしいしな。
後は、ユイなのだが……
下を向いており、顔が見えない。
もしかすると、未だにあのことを気に止んでいるのだろうか……
そう思ったその時。
ぐぅぅぅぅと言う、大きな音が聞こえてきた。
そして、その音の先には、両手でお腹を押さえるユイの姿があった。
「ごめん。その、お腹減ってて……」
ユイが申し訳なさそうに言う。
ダッガスらも多少ユイのことを心配していたようだが、馬鹿らしかったとため息をついている。そうだ。思い返せば、ユイはそんなことを気にして病むような人ではない。
「まぁ、今日は朝ごはん食べてなかったしな……今から食べに行くか」
ダッガスの言うように、今日は朝食を取っていない。
収納魔法の練習をする前に、食べておいた方がいいかもしれないな。
「そうだな」
「えぇ、そうしましょう。そう言えば、近くに行ってみたいお店があったんですよ。確かそこでは……」
そこから話が盛り上がり、俺達はパンケーキが美味しいという飲食店へと行くことになった。
聞けば、かなり有名なお店らしく、別の街から来るお客までいるみたいだ。
確かにそこのパンケーキは美味しかった。
ちなみに、俺が食べたのはわりとシンプルな奴だ。
メニューの中には、見たことのないようなものもあり、ユイとシリカはそれを頼んでいたが……
今、イシュタルの間ではそう言うのが流行っているらしい。
俺にはまったく分からなかったが、きっと美味しいんだろうな。
その後、パンケーキを食べ終えた俺達は、出会って最初に行った森へと向かった。
そう言えば……。
俺は森へと向かう最中でとあることを思い出した。
確かに、収納魔法の習得は簡単だ。
時間もそんなにかからない。
しかし、あれは意外と危険でもあることを……。そして、俺はそんな危険な方法以外の修練方法を知らない。他人に教える身になるなんて思っていなかったため、修練法の改善気にかけたこともなかった。
そんな大切なことを、俺はユイ達に伝え忘れていた。




