白魔導師、と領主様(下)
今アベルは〝第二皇女〟を王都まで連れていって欲しいと言った。
しかし、そんなことを冒険者に頼んでいいのだろうか。
これがまだ、そこらの貴族の護衛ならば分かる。
数は少ないが、そんな依頼もあると耳にしたとがあったし、なくはないだろう。
だが、帝国の王様の、娘の護衛を冒険者に任せるなど聞いたこともない。
大抵は、騎士や勇者がやるものだ。
勇者パーティーに入るときに「王族関係の護衛などもある」と言われていたし、そう言うものは勇者の大切な仕事の一つといってもいいだろう。
「護衛についてですが、俺らの他には誰かいるんですか?」
念のため、アベルに尋ねてみる。
何となく答えは分かっているが。
「ううん、君達だけだよ。何せ、極秘依頼だからね。残念だけど王国騎士達もこのことは知らないから、協力を仰ぐのは無理そうだし……」
やはりそうか。アベルは先程、数少ない貴族しか知らないと言っていた。
それなら当然、王国騎士も知らないはずだ。
騎士団の中でも上位の人ならば知っているだろうが、流石に下っぱは知らないだろう。
どこから情報が漏れるかも分からないし、騎士団が混乱する場合だって考えられる。
まさかとは思っていたが、ここの領主……アベルは本気で俺達だけで護衛しろと言いたいらしい。
「いやいや、ちょっと待ってください! いくら何でもそれは無理です。一介の冒険者には荷が重すぎます」
ダッガスは、アベルの依頼をはっきりとそう断った。
ダッガスの言っていることは正しい。
いくらSランク冒険者とは言えども、冒険者パーティーにこの依頼を受けさせるのは無理がある。
しかし、
「何か問題あるのかい? だって君達は街を守った英雄じゃないか? それに勇者は逃げちゃったし……」
「「勇者が逃げた!?」」
ユイ達が驚き、声をあげる。
「うん、つい先程騎士たちを、勇者……いや、元勇者かな? とにかく、アレンのところへ向かわせんたんだけど……すでに建物はもぬけの殻。荷物なんかはほとんど残っていなかったよ。まぁ、もともと彼らに任せるつもりはなかったけどね」
俺も宴の際に、勇者パーティーのことについては色々と耳にした。
話によれば、冒険者や騎士団ともめ、緊急依頼を受けなかったらしい。
それ以前にも、何やら依頼を失敗したらしく、リナが片腕を失ってしまったそうだ。
まぁ、見切りをつけられても仕方ないだろう。
それに、讃えられていた分、この街にも居づらくなったんだろうな。
「と言うわけで……信頼出来て、その上皇女を任せられるくらい強い人は今、君達しかいないんだよ。本当は僕も同行したいけど、さっきも言ったように、街の復興の方に行かないといけないから……」
アベルは同行するつもりだったのか……。
まぁ、確かにこの人がいれば心強そうではある。
表には出さないが、かなりの魔力を持っているみたいだしな。部屋に入った時からずっと、彼からはどことなく強者の風格が感じられた。
「あっ、でも途中から一人、僕が信頼している人が合流する予定だから、きっと大丈夫だよ」
「いや、一人って……」
クロスがぽつりと呟く。
確かに一人加わったところで、何かが大きく変わるとは思えない。
ユイ達が、困った様子で考え込む。
断る理由を探しているのか、もしくはどうすればこの状況を回避できるかを探しているのか……
部屋の中がしーんと静まり返る。
「それで、出発は明日を予定してるんだけど……」
「いや、受けませんよ! 普通に考えて無理です。だって彼女を狙う者だっているんですよね?」
「うん。クロスくんの言う通り、いると思うよ。特に魔族とかね」
「マジかよ……」
なんだろう。
アベルは良くも悪くも嘘をついたり、誤魔化そうとしたりしない。
それ自体は、話を聞くことで、あらかじめこの依頼で伴うであろう危険を予測することが出来るし、対策も出来るため、嬉しいのだが……。
それら全てを伝えた上でそれでも尚、受けろと言う。
何というか、理不尽な奴だ。
そういう意味では、どこか師匠に似たものを感じられた。
「それじゃ、やっぱりこの街でかくまってた方が……」
シリカがおどおどとしながら言う。
クロスもシリカの意見に頷き、自分も同じ意見だとアピールする。
「まぁ、そうしたいところなんだけど……今、この街に攻め込まれたらそれこそ困るんだよ。クレア様だけでなく、住民まで守りきることは出来ない。守るにしても、先の騒動のせいで物資が少ないし……」
そう言えば、防衛戦でかなりの武器やマナポーションを消費したみたいだしな。
クレアのため、と言うよりかはイシュタルに住む人々のために、ここから王都へと移しておきたいのだろう。一国を滅ぼす力を有するクレアは奪われるとまずい存在であると同時に、危険を引き寄せる厄介な存在でもある。
行ったことはないが、王都は、この王国で最も栄えている都市だし、冒険者ギルドや騎士団の本部もあるようだ。
戦える人だって、ここより遥かに多いはず。
「これは、街の人のためでもあるんだ。だから頼む、依頼を受けてはくれないかな?」
それを聞いたユイがピクッと動く。
ユイの表情が暗くなっていく。
「ま、街の人のため……」
ユイの言葉にダッガスがいち早く反応する。
遅れて異変に気がついた俺たちも、慌ててユイへと視線を向けた。
「おい、ユイ。何を考えて……」
ダッガスが呼び掛けるが、ユイは聞こえてないようだ。
何かを考え込みながら、ぶつぶつ言っている。
しまったな。
……最悪のパターンだ。
この男、分かってて言っている。
全部分かって言っているのだ。
どこでそれを知り得たかは知らないが、彼は知っているのだろう。こう言うことで、ユイが断れなくなることを。
俺もクルムからユイについては聞いていたため、すぐに不味い展開になったと分かった。
「分かりました……その依頼受けさせてください」
ユイがきっぱりとそう言いきる。
それを聞いたアベルは無言でにっこりと笑みを浮かべた。




