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白魔導師、と領主様(上)

いつも誤字報告、ありがとうございます。


 ◇


 宿から歩くこと数十分後。

 俺たちの目の前には、それはそれはご立派な巨大な屋敷が建っている。


「す、凄いわね……」


 ユイが目の前に建つ大きな屋敷を見上げながら呟く。


 今、俺たちはイシュタルを治めている領主の家へと来ていた。

 流石はイシュタルの領主……貴族様と言ったところか。広大な庭の中には、大きな屋敷と他にそれには劣るものの、これまた凄い家が建っていた。これが離れ、あるいは別館という呼ばれる建物だろうか。人が住むのに、こんなにも広い屋敷がいるのかという疑問が頭を過ぎるが、何か別の使い道があるのかもしれない。

 門の向こうに広がる世界は、一般家庭出身の俺の価値観とはかけ離れたものだった。

 また、庭もかなり広いのに、しっかりと手入れが行き届いている。

 風に吹かれ、花の良い香りが鼻腔をくすぐる。


「いい匂いだな……」


「本当ですね……」


 シリカが俺の言葉に頷く。

 だが、俺とシリカ以外はあまり花に興味はないらしい。

 ダッガスは一度ちらりと花を見たものの、すぐに視線を別の場所へと向けていた。

 ユイとクロスに関しては、建物ばかりを見ていて、庭に咲く花にはまったく目を向けなかった。


 まぁでも、仕方ないか。

 普段なら目を向けるであろう花畑が霞んでしまうほどに、目の前に建つ屋敷は、大層ご立派なものだった。


 屋敷を眺めていると、大きな玄関の扉が開き、中から一人の老人が出てきた。

 黒いスーツに赤いネクタイをしており、髭もしっかりと整えられている、小綺麗な老人だ。何故か、その一挙手一投足に、美しささえ覚える。

 ここに住む領主に使えている者だろう。


「あなたは?」


 近づいてくる男に、ダッガスがそう尋ねる。


「私はここで執事を務めさせていただいている、セバスでございます。領主様より今日一日、皆様の案内を仰せつかりました」


 男はそう言うと、深々と頭を下げた。


「いえ……こちらこそ今日一日、よろしくお願いします」


「では、早速領主様のもとへとご案内致しますので、こちらへ」


 セバスに案内され、屋敷の中へと足を踏み入れる。

 壁面に豪華な装飾の施された長い廊下を、ゆっくりと進んでいく。

 途中、何人かの人とすれ違ったが、皆きちんとした服装をしており、真面目に働いていた。

 すれ違う度に手を止め、頭を下げるので、その度に俺も軽く頭を下げる。


 それにしても、綺麗な屋敷である。

 見た限りでは汚れが全く見当たらない。

 しっかりと従者らへの教育が行き届いているんだろう。

 ふむ、師匠をここで一度働かせてみたいほどである。

 ここならば、師匠をみっちりと鍛えてくれるかもしれない。特に掃除に関するスキルは、是非とも師匠に伝授してほしいところである。


 そんなことを考えがら歩き続け、二階への階段を上り、再び長い廊下を進む。

 そして、突き当たりの部屋の前でセバスの足が止まった。


「こちらでございます」


 セバスはそう言うと、その部屋の扉をゆっくりと開けた。

 中へと入るように促す。


「失礼します」


 ダッガスを先頭に、部屋の中へと入っていく。

 部屋の中にある家具は、どれも高価そうな物ばかりだ。

 しかし、シンプルな感じとなっており、必要なものだけがあると言った感じだ。こう、ギラギラとしたような、無駄に派手派手しい装飾が施されていないところが、庶民感覚の俺に好感を持たせる。


 俺が最後に部屋へと入ったところで、後ろから静かに扉を閉じる音が聞こえて来た。

 セバスは、他にも仕事があるのか……部屋の中へは入らないみたいだ。


「やぁ、君たちがイシュタルを救ってくれた冒険者パーティーかい?」


 声の聞こえる方へと目を向けると、そこには金髪の若い一人の男がいた。

 あぁ、この人が……。

 うっすらと、その男の顔にリナが重なる。どことなく、二人は似ている顔つきをしている。

 しかし、


「あの、領主様は?」


 ユイがあたりをキョロキョロと見渡しながら尋ねる。

 ダッガス達も、ユイほどではないが、周囲へと視線をむけていた。

 まぁ、分からないのも当然か……。ユイたちは、元々勇者パーティーに属していた俺ほどリナとの接点があるわけでもない。


 俺も念のためあたりを見渡すが、この部屋にはそこにいる領主の男とメイド以外に人はいないし、特に気になるものもない。

 目の前の男は、そんなユイ達を見て面白そうに笑った。


「ははは、何をいっているんだい? 僕がここの領主、アベル・ルーカスだよ」


「えっ……」


 それを聞いたユイ達が驚き、声をあげる。

 今の発言のいったい何処に驚く要素があったのだろうか……

 シリカがもじもじとしながら、ゆっくりと手を上げる。


「あの……」


「なんだい?」


「失礼ですが……アベル様は確か、今年で四十歳ですよね?」


「うん、そうだよ」


 シリカの問いに、アベルはにっこりと笑みを浮かべながら答えた。


「それがどうかしたのかい?」


「いや、その……かなりお若く見えるので……」


「まぁ、王国の騎士学園に通っていたころからずっと、運動は続けているからね。素振りをしたり、ランニングしたりとか」


「そ、そうなんですか……」


 納得がいかなかったのだろうか。

 シリカの反応はイマイチという感じだった。

 この状況で表情一つ変えずにいた俺に気がついたユイが、こちらを見つめてくる。


「ロイド、何であなたは驚いていないわけ?」


 まるで「信じられない」と言いたげな表情でこちらを見てくる。俺にはその反応が、理解し難いものだった。何をそんなに、驚くことがあるだろうか?


「いや、だって……」


 アベルはリナの父親だ。

 十九歳の娘を持つんだから、三十後半くらい……確かに、ふけていてもおかしくはない年齢だ。

 とは言え別に、師匠やリリィさんだって同じくらいの年だが、結構若く見えていたし……。


「見た目なんて、努力次第でいくらでも若く見せれるものなんじゃないのか?」


「いや、あんたね……そりゃ、ある程度はそうかもだけど、これはちょっと流石に無理があるでしょ。これはなかなかよ?」


 ユイだけでなく、ダッガスまでもが呆れた表情でこちらを見ている。

 えっ……何だ、この反応。

 俺は何か呆れられるようなことを言っただろうか?

 シリカやクロスも、ユイと同じような表情をしている。

 そう言えば、こんなことが前にもあった気がする……。


 しかしそんな中、アベルだけはにっこりと笑みを浮かべながら俺を見ていた。

 先程よりも、心なしか嬉しそうな表情をしている。


「うん、ロイドくんのいう通りだ。見た目なんて、努力しだいではどうにだって出来る……そうだな、例えば……」


「ごほんっ!」


 そこまで言いかけたあたりで、近くに控えていたメイドが咳払いをした。

 それを聞いたアベルがぴたりと話を止める。

 何かの合図だろうか?

 アベルはちらりとメイドを見て、再び話始めた。


「お喋りしすぎちゃったね。えーと、それじゃ本題に入るけど、君達は第二皇……じゃなくて、クレハを知っているだろう? とくに、ユイくんとロイドくんはね」



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