白魔導師、認められる
ケンセイリリィ……。
うーん、まったく聞いたことのない言葉だ。
「そのケンセイリリィってなんなんだ?」
俺はクルムの放った言葉の意味を理解できず、首をかしげた。
「伝説の冒険者、剣聖リリィ……または剣鬼とも言われてるな。冒険者の憧れだぞ? 知らないのか?」
剣鬼?
剣の鬼と言うことかだろうか。
いかにも怖そうな名前だ。
そしてその異名はどうにも、俺の知るリリィさんのイメージとは一致しなかった。
リリィさんは、真面目で優しい人間だ。
「巨大な剣に光を纏わせ、振り回し、敵を真っ二つにする……それが剣聖リリィだ。剣の腕は聖騎士団長とも並ぶと言われている」
「そ、そうなのか……」
何んだ、その怖い人は……。あのユイでさえ、そんなおっかない真似ができるとはちょっと考えにくい。
とりあえず、俺の知るリリィさんは確かに尊敬する人だし、凄い人でもあるが、そんな鬼みたいな人ではない。
本当に真面目で、優しい人だ。
きっと名前が同じなだけで、あのリリィさんとは関係ないだろう。
「すまない。やっぱり俺の気のせいだったみたいだ」
「まぁ……そうだよな。あの人はもう……」
クルムが少し残念そうな顔をする。
まぁ、その剣聖が妹を救う数少ない方法の一つだったのだから当然か。
申し訳ないことをしてしまった。
気まずい雰囲気を変えようと俺は、話題を探した。
「そうだ。ここに来る途中でお菓子を買ってきたんだが、よければ妹と食べてくれ」
俺はそう言い、お菓子の入った袋を渡した。
中にはカラフルで可愛いクッキーが入っている。
もちろん、俺の選んだものではない。
ハイウルフ討伐の依頼で農園に向かう途中、野営していた際にユイが「あそこのお菓子が美味しいんだよね」と言っているのを思いだし、買ってきただけである。
俺は一度も食べたこともない。
「おぉ……ってこれ、うちが大好きな奴じゃねぇか! マジでありがとな!」
「そ、そうか……喜んで貰えたなら何よりだ」
クルムはそう言うと、箱からクッキーを取り出し、美味しそうに食べ始めた。
ユイに聞いて正解だったな。
「うん……やっぱりここのクッキーは、最高だな!」
クルムが幸せそうな顔でクッキーを食べていく。
あのお菓子、そんなに美味しいのだろうか。
今度買って食べてみよう。
箱の中に並べられたクッキーを半分ほど食べたあたりで、クルムはしぶしぶクッキーの箱を閉じ、こちらに視線を向けた。
「それでどうだ? ユイ達と一緒にいるのは。楽しいだろ?」
「そうだな……」
まだ、入ってから一ヶ月も経っていないにも関わらず、様々なことがあったが、その一つ一つが勇者パーティーにいた時よりもはるかに楽しかった。
「うちも精神的に辛かった時、ユイやダッカス達に救われた身だからな。出来ればまだ、一緒に冒険してたかったんだが……」
まだ、妹のシルビィーの病気が今ほどひどくなかった頃、今からちょうど一年ほど前になるらしいが、その時にユイ達と出会ったそうだ。
クルムも白魔導師なのでソロでの活動は難しかったのだろう。その気持ちは、俺にも痛いほど分かる。仲間がいないと、本当に何も出来ない存在だから。
そこまで話した所で、クルムの表情が今までにないほど真剣なものになった。
「でもな……あんな明るいパーティーだが、あいつらは各々がそれぞれの悩みを抱えてる。例えば……ユイだな。あいつは故郷を襲われ、両親を殺された過去を持っている」
「そうなのか……」
初耳だ。
まぁ、パーティーに入って間もないし、知らなくても仕方ないか。
「……ユイは、自分と同じような人を出さないために、冒険者になったらしいしな。なんとなく、分かるんじゃねぇか?」
「あぁ……そうだな」
言われてみればそうかもしれない。
あの農園の依頼を受けたときも、ユイは人を助けることに執着していた気がする。
俺の話を聞かないほどに……。
「あいつは、人を救うためなら自分が犠牲になる覚悟で、普通に無茶するからな。見てるこっちはもう、心配で心配で……」
心のそこから、ユイを心配に思い、また大切に思っていることが、クルムの表情からわかった。
「まぁでも、あんたがパーティーに加わるなら、うちは安心して、パーティーを抜けることが出来るな」
クルムはそう言うと、にこりと笑みを浮かべた。
一応、パーティーメンバーとして認めて貰えたということだろうか。
まぁ、それはありがたいことなのだが、それでクルムの方は大丈夫なのか?
職を失えば、生計を立てるのが難しくなるのでは……。
「クルムはパーティーを抜けるのか?」
「あぁ……シルビィーの看病に専念しようと思う。幸い、金はまだあるからな。今の状態じゃ、長時間家をあけることも出来ない……」
なるほど。
本当に妹はかなり重症らしい。
だが、Sランク冒険者にそこまでの重傷を与えるとは……。
「シルビィーは何のモンスターにやられたんだ?」
かなり強力なモンスターなのだろうと推測し、イメージしながらクルムに尋ねた。
すると、クルムは何故か数秒の間、考え込んでしまった。
そして考えが固まったのか、ゆっくりと口を開いた。
「さぁ……それが分からないんだ。背後からの攻撃を受けたらしく、うちが駆けつけた時には意識が朦朧としてたからな……」
クルムが悔しげな表情を浮かべる。
妹のピンチに駆けつけるのが遅れたことを悔やんでいるのだろう。
「症状は?」
症状からモンスターの特定が出来るかもしれないと、そう思い俺は尋ねた。
こんな俺だが唯一、モンスターの知識だけは自信がある。
しかし、その症状は俺の予想外のものだった。
「……魔力の暴走だ」
「魔力の暴走?」
聞きなれない言葉を聞き、ふと疑問に思う。
「あぁ……高濃度の魔力が石化するってのは知ってるか?」
クルムの問いに、俺は無言で頷いた。
いわゆる魔石というやつだ。
高濃度の魔力が石化したものを魔石と言い、洞窟の奥などで希に発掘されることがある。
身体が魔石化するというのは聞いたことがないが……。
「身体が少しずつ魔石化していく……それがシルビィーの病気だ。今は魔力を定期的に放出させることで進行を遅らせているが、年々進行が速くなっているし、放出される魔力量も多くなっていっている。全身が魔石化するのも時間の問題だろうな……」
クルムが暗い顔で言う。
事態は思っていた以上に深刻そうだ。
「そうか。時間の問だ……」
ん? 待てよ……
魔力の暴走。
そして放出と聞き、俺はとあることを思い出す。
ひょっとすると……
「クルム……」
「どうかしたのか?」
魔力の暴走により、魔力の制御が出来なくなり、それにより発生した高濃度の魔力で身体が魔石化するのならば……
「もしかすると、シルビィーの病気を治すことが出来るかもしれない」




