白魔導師、挨拶に行く
宴の翌日。
ダッガスから報酬を受け取った俺は、とある人の住む家へと足を進めていた。
ユイたちのパーティーメンバーであるクルムと言う人の家だ。
「えーと、ここか?」
周囲の家に比べ、ほんの少し大きな家の前で俺は足を止めた。
ダッガスの手書きの地図によれば、クルムの家はここで間違いないはず。
「よし……」
俺は深呼吸をし、扉をノックした。
ここに来る途中で茶菓子も買っておいたし、時間的にも大丈夫だろう……たぶん。
ユイが言うには話しやすい人だそうだ。
まぁ、ユイならば誰とでも話せる気がするせいか、その言葉に説得力はほぼなかったが、妹を看病するような人だし、悪い人ではないだろう。
「はーい、ちょっと待ってて」
そんなことを考えていると、家の中から明るい声が聞こえてきた。
妹の看病に追われていると聞いていたのだが、体調は大丈夫なのだろうか?
それからしばらくして、言われたとおり家の前で待っていると、中から赤い髪の女が出てきた。
鋭く、少し怖い目付きをしている。
思っていた人とは少し違うがこの人がクルムだろう。
失礼の無いようにしなければ……
「あなたがクルムさんですか?」
「えっ? まぁ、そうだけど……なんでうちの名前を知ってんの?」
そうだ……。
俺はユイ達からいろいろと聞いているため、クルムのことを知っている。
だが、クルムはここ数日ユイたちにも会っていないだろうし、俺のことを知らないのは当然だ。宴の時にも、彼女の顔を見た記憶はない。
お忙しいようだし、あまり時間は取りたくないが、軽く自己紹介をしておくべきか……
俺は名前と、ユイ達のパーティーに入ったこと、いや、入る予定だと言うことを話した。
「あぁ、お前があのロイドか!」
話を聞き終えたクルムがこちらを見ながらそう言った。
「その……俺のことを知っている……のか?」
「まぁな。知らないわけないだろ……街の英雄ロイドって言えば、この街に知らない奴はいないんじゃねぇか?」
あぁ……そう言えば、街の英雄って言われてるんだった。
その呼び方を認めた覚えはないが、ここまで広がっていたのか……
これはもうどうにもならなさそうだな。
「まぁ、たぶんそのロイドだが……」
「そうかそうか。まぁ、ここで立ち話も何だからさ、中入ってよ!」
クルムが俺に家へと入るように促す。
妹の看病もあるだろうし、手短に終わらせる予定だったのだが、断れる立場ではない。
言われた通り、俺はとりあえず家へとお邪魔することにした。
◇
「お、お邪魔します」
「あっ、そこの椅子に座っといて。今、お茶いれてくるから」
そう言うとクルムは、すぐにお茶をいれにいってしまった。
お菓子を渡そうと思っていたのだが……
まぁ、戻ってきてから渡せばいいだろう。
俺は手短に済ませるためにも、話すことや、考えをまとめながら、クルムが戻るのを待った。
「悪い、こんなものしか用意出来ないが……来客なんて久しぶりだからなぁ。許してくれ」
少しして、お茶と菓子を持ったクルムが戻ってきた。
俺の前にお茶の入ったコップを置き、向かいの席へと座る。
「それで。ロイドだっけか。どう言う経緯でユイ達のパーティーに入ることになったんだ?」
クルムが俺に尋ねる。
だいたい、どんな質問が来るのかは想像がついていた。
俺は簡潔にこれまでの経緯をのべる。
「俺はもともと勇者パーティーに所属してたんだが、クビにされてな……それで行く宛もなく、何となく広場のベンチに腰掛けていたら、急に声をかけられたんだ」
「まぁ、ユイらしいな……ってか、あんたって元勇者パーティーのメンバーだったのか?」
「まぁ、そうだが……」
やはり、と言うべきか。本来目立つようなあの勇者パーティーに所属してながら、俺を認識していた人はそう多くないらしい。
「へぇー……そうだったのか……で、その後はどうなったの?」
「それから、冒険者ギルドに連れていかれて、それで……」
その後は、俺がユイ達と出会ってからのことを話した。
時間はあるらしいので、ユイ達に受けさせられた試験のことや、居酒屋でのこと、そしてクルムを心配し、裏で白魔導師の募集をしていたことも話しておいた。
そして、今回の防衛戦についても……。
「……と言うことがあったんだ」
「へぇ……そんなことが……」
話を聞き終えたクルムが呟く。
結構長話をしてしまったな……。
まだ半月も経っていないというのに、そうは思えないほどの経験していると、改めて感じる。
そして、会話が行き詰まった辺りで、俺はあることを尋ねてみた。
当然、それはクルムの妹についてのことだ。
「その、妹の方は大丈夫なのか?」
「ん? あぁ……正直、大丈夫じゃないかな」
表情が一変し、深刻そうな暗い表情へと変わる。
よほど、重症なのだろう。
大丈夫じゃないのに、果たして、ここで長話しをしていていいのだろうかと、不安になってきた。
「病気……なんだよな?」
「あぁ……もともと私は別の街で、妹のシルビィーと二人でパーティーを組んでたんだ。でも、難易度S依頼の途中で、シルビィーが怪我を負ってしまってな……」
難易度S。
つまり、妹のシルビィーもSランク冒険者ということだ。
姉妹揃ってSランク冒険者……。
兄弟や姉妹でパーティーを組むということ自体は珍しくはない。
だが、その両方がSランク冒険者ということはなかなかないだろう。
「……ん?」
俺は話を聞いていて、とあるところに違和感を覚えた。
「怪我と言うのは?」
確か、聞いた話によればクルムの妹は病気だったはずだ。
だがクルムは怪我と、確かにそう言ったのだ。
怪我とはいったい……
「まぁ、怪我っつてもな。呪い……みたいなもんで、高位の浄化魔法じゃなければ完治させることは出来ないらしい」
呪い……つまりは、死霊魔法のことだろうか。
死霊魔法は呪術師や死霊使いが得意とする魔法で、希だが使えるモンスターもいる。
また、人間でもそれらの魔法が使えるのは希で、主に魔族が高い適正を誇っている。
聖女や僧侶と対になる職とでもいったところだ。
別に、特別強い魔法ではないが、中にはかなり高位の死霊魔法を使う者もいるだろう。
だが、そこまで強力な死霊魔法を使うモンスターがいるのだろうか?
それに、高位の浄化魔法と言うのは……
「その高位の浄化魔法って、例えばどんなのなんだ?」
「うーん、実際に見たことはないけど〝クリア〟とかだな……聖教国の聖騎士団長だけが使えるって言われてる浄化魔法だ」
「クリアね……って、ん?」
俺はその魔法をかつて聞いたことが、いや、見たことがあった。
マーリンの数少ない友達であるリリィさんが使っていた魔法だ。
あれが高位の浄化魔法なのだろうか?
いや、まさか……
「クリアって、一定範囲内の状態異常を治したり、それを引き起こすものを浄化する魔法のことか?」
「あぁ、それのことだ。ロイドも知ってたんだな。流石は街の英雄様だな」
「まぁ、知り合いが実際に使ってるのをなん度も見たことあるからな……」
「えっ?」
それを聞いたクルムがぽかんと口を開く。
そして信じられんと言わんばかりの顔で、恐る恐る尋ねた。
「それ、本当……なのか?」
「あぁ、師匠の友達のリリィさんが使っていたことがあるが……」
そこまで口にした辺りで、ふと思った。
たぶん、記憶違いだろうと。
聖騎士団長……
そんないかにも凄そうな人しか使えない魔法を使える人が、師匠の友達にいるはずない。
何故なら、あの師匠だ。
確かにリリィさんは凄く尊敬する人ではあるが、そこまで凄い人が師匠の知り合いとは考えにくい。
「すまない。やっぱり気のせ……」
「なぁ、リリィって……まさか、あの消えた剣聖、リリィのことなのか?」




