動き出す者達③
「おい、ウィル……話が逸れているぞ」
トールが逸れてしまった話を元に戻そうとする。それは脱線を避けるためか、あるいはあまり触れられたくない話題になった故か。
「確かにそうっすね。では、話を戻すとしましょう。えーと……第二皇女のところだったっすね」
「あぁ、そうだ。第二皇女が拐われたことについてだが、もっと詳しく……」
トールは第二皇女の誘拐について、詳しく話を聞きたいらしく、ウィルに続きを話すように促す。
また、リリィやマーリンもその話に興味があるようで、ウィルの話に耳を傾けている。
だが、次にウィルが放った一言は、トールやリリィの予想のはるか斜め上をいくものだった。
「でもそんなことはぶっちゃけ、どうでもいいんっすよ」
「なっ……それは、どういう……」
予想外の発言にトールは驚きながらも、いったいどういう意図があってウィルが発言したかを尋ねようとする。
「なんで、どうでもいいのかって顔してるっすね?」
「あぁ、どう考えても第二皇女の誘拐が一番の問題だろう」
トールの言葉にリリィとマーリンが頷く。
二人も同じ意見と言うことだろう。
「確かに、それも問題の一つではあるっす。だけど、本当に気にすべきことはそこじゃない。何故、このタイミングで魔族が動き出したのかってことっすよ」
ウィルがトール達に問いかけるように言う。
それを聞いたトール達はウィルの言いたいことを理解したらしく、ごくりと唾を飲んだ。
「まさか……」
「考えられる可能性は二つ。一つは新たな魔王の誕生。そしてもう一つは……魔王の復活……」
ウィルの口から出たその言葉を聞いた瞬間、マーリンが力強く机を叩き、立ち上がる。
「魔王は完全に倒したはずだ! 復活するはずがない……それに、だとすればあいつは、いったい何のために」
「落ち着けマーリン……可能性の一つであり、まだ確定したわけじゃないだろ」
「だが……」
「トールさんの言う通りっすよ。私は可能性の一つを上げたに過ぎません。一つ目の、新たな魔王の誕生の方が確率的には圧倒的に上っす」
ウィルにそう言われ、冷静さを取り戻したマーリンは一度咳払いをし、椅子へと座った。
「そうだな……すまない。話を続けてくれ」
ウィルはマーリンが落ち着いたのを確認し、再び話を始める。
「まぁ、幸い今回はロイドくんの活躍により、イシュタルも勇者も救われたんすけど……」
「待て、ロイドだと!? あいつがイシュタルにいるのか!?」
ロイドという言葉を聞いた瞬間、マーリンが再び立ち上がる。
「はい……ロイドくんのお陰で、魔族の計画は阻止されたんすけど」
それを聞いたマーリンはほっとため息をつき、安堵する。突然家を出ていったロイドのことをマーリンはとても心配していたのだ。
我に返ったマーリンは、ゆっくりと椅子に腰かける。
「それでどうだ? ……あいつは元気にやってたか?」
マーリンが何処か懐かしそうな目をしながら、ウィルに尋ねる。
「えぇ、勇者パーティーを追放されたみたいっすけど……今はとあるSランク冒険者のパーティーに所属して、いや、所属する予定みたいっすよ」
「なっ、あいつが追放だと!? そんなわけはないだろう! あいつは……」
マーリンは「どんなパーティーであれ、ロイドが追放されるはずがない」と言いたいのだろう。
ロイドの支援魔法の腕はウィルもよく知っている。
「そうっすよ。職業が『賢者』のマーリンさんが、私の頑張って頑張って作ったポーションを使って、やっと越えられるレベルの支援魔法の使い手っすからね」
ウィルの作るポーションはどれも、そこらの錬金術師の作るものとはレベルが違う。同じマナポーションを作ったとしてもウィルの作るものは数倍の効果を発揮する。
そんなウィルが「頑張って」と繰り返し強調して言うのだからよほどのものなのだろう。
「あぁ……だからこそ、ロイドに限ってそんなことは……」
ロイドの支援魔法の腕は、少なくともマーリンらの知る者達の中では右に出るものはいないと言えるほどのものだ。だからこそ、ロイドに限って、パーティーを追放されるなんてことはあり得ないと思っていた。
「確かにロイドくんは凄いっすよ。まぁ、直接会ったことはないんすけどね」
ウィルはロイドを幼い頃から知っているが、ロイドはウィルのことを一切知らない。
ロイドと面識があるのは、リリィとトールだけだ。
最も、ロイドは二人のこともマーリンの数少ない友達程度にしか思ってはいなかったが。
「でも、ロイドくんはもう少し自信を持ってもいいんじゃないっすか? なんと言うか、真面目過ぎるし、その上優秀なくせにその自覚がない……そういう人を嫌う奴もきっといると思うっすよ」
「うっ……そうかもしれないが……」
マーリンはウィルの言葉を否定することが出来なかった。
ウィルの言うことは間違っていない。
そう言う人だって世の中にはたくさんいる。
それは、マーリンも痛いほど知っていた。
かつて伝説のパーティーと言われ、多くの人から英雄と呼ばれた裏では、当時の勇者に嫌われたり、同世代の一部の冒険者から妬まれたりもしていた。
しかも、その自覚がないとなれば尚更だろう。
「そうだな……だが、ロイドには私のようにはなって欲しくなかった。自分の強さを過信するあまりに、仲間を失ってしまった、私のようには……」
マーリンがうつむく。
また、それを聞いていたリリィも暗い表情になる。
そんな中、トールだけは表情を変えることなく、真っ直ぐ前を見ていた。
眼鏡をくいっと上に持ち上げる。
「おい……また話が逸れてるぞ。それに、それは過去の話だろう。もうシビルは、俺達がうつむこうが、悲しもうが、決して戻ってはこないんだ。あいつが繋いだ未来を守る、それが今の俺達にしてやれる唯一のことなんじゃないか?」
うつむくマーリンとリリィにトールが問いかける。
「そうだな……過去ばかり見ていても仕方ない」
「えぇ、そうね。私達は今出来ることだけを考えましょう」
マーリンとリリィのその言葉を聞いたトールはほんの少し笑った。
「あぁ……それじゃウィルの話を聞き、対策を立てるとしよう」
「そうっすね。今回は何とかなりましたが……次もそうなるとは限りません。すべてが終わった後では遅いっすからね。私達も反撃に出るとしましょう」




