動き出す者達②
木造の家の一階にある広めのリビングで、マーリンらは机を囲むように椅子に腰かけていた。
皆、真剣な表情をしており、その中でマーリンだけが不満そうな顔をしている。それは酒を取り上げられたからなのだが、それを返そうと言うものはこの中にはいない。
「マーリン、少しは落ち着いたか?」
「えぇ……リリィの魔法のお陰でね!」
マーリンがリリィを強く睨む。本来なら萎縮し、気を失ってもおかしくない覇気がそこにはあったが。
だが、リリィはそれをスルーし、ウィル達に話を進めるように促す。
「それで、奴等は何をしていたんだ?」
眼鏡をかけた男、トールがウィルに尋ねる。
「どうやら奴等は帝国の第二皇女を誘拐した後、モンスターを使役させ、イシュタルを……いえ、正確には勇者の一人を潰そうとしていたらしいっすね……まぁ、失敗に終わりましたけど」
「そうか、そんなことが……」
失敗に終わったと聞き、トールはほっと胸を下ろす。
だが、安心している場合ではない。
トールはウィルの話に、ある人物が出てきたことに違和感を覚えた。
「待て、第二皇女が誘拐されただと? 彼女はあの魔法のこともあり、帝国が厳重に守っていたはずだ。それに誘拐されたなんて、俺は聞いたことないぞ」
帝国の第二皇女がいなくなれば、普通、国民の間でも騒ぎが起こるはずだ。
隣国である王国にも、当然伝わるだろう。
しかし、トールはそんな話を聞いたことがなかった。それはマーリンとリリィも同じらしく、驚いた表情をしている。
三人の視線がウィルへと集まる。
説明を求めているのだろう。
「あぁ、何故かって? それは帝国は隠したかったからっすよ。魔族の侵入だけならまだしも、帝国で最も厳重な警備を魔族が破ったと知れば、周りの国だけでなく、国民からの信頼を失う可能性がありますしね……」
帝国の第二皇女はその危険な魔法故に、普段は厳重な警備の中で生活している。それに、そもそも第二皇女の魔法のことは帝国の幹部や、王国、聖教国の一部の人しかしらないはずだ。
だが、第二皇女は誘拐され、その誘拐した者は第二皇女の魔法のことを知っていた。身代金目的で誘拐、その後その力に気がつき路線を変更、と言うことはないだろう。
「確かに……第二皇女の情報が漏れていた時点で大問題だ。帝国がそのことを隠そうとしていたならば、街でそんな話を聞いたことがなかったのにも頷ける」
最悪、第二皇女は闘病中とでも言っておけば、しばらく国民に悟られずにすむだろう。国同士で協力していたとなれば、尚更だ。
何処かの国が裏切らない限り、その情報が外部に漏れることはないだろう。
しかし、ここでふと疑問が浮かぶ。
それは何故、ウィルがそのことを知っていたのかと言うことだ。
「それじゃ、お前はどうしてそのことを知ってるんだ?」
トールがウィルに問う。
トールは、ウィルが普通知るはずのない情報を持っていたことに疑問を覚えていた。
再び、マーリン達の視線がウィルへと集まる。
「私っすか? そうっすね……今は情報屋として活動してるんすけど、その時にとある貴族から聞いたんすよ……もし、第二皇女に関する情報があれば伝えて欲しいってね。あぁ、信用出来る人なんで大丈夫っす。そこらへんはしっかり調査してるんで」
ウィルは現在、錬金術師ではなく情報屋として街を転々としながら生活しており、そのことはマーリン達も知っていた。
「そうだった……お前は今、錬金術師としては活動してないんだったな」
「えぇ。そのせいか、幻の錬金術師なんて呼ばれるようになってしまったっすけど……これでトールさん達とお揃いっすね」
ウィルが笑みを浮かべながら、マーリン達を見つめる。
「そんなに嬉しいか?」
「はい。伝説のパーティーの人達と同じなんて……光栄っすよ」
トールの問いに、ウィルが笑いながら答える。
ただ、その笑みは嬉しいというよりかは、からかっていると言うような感じだった。
「伝説のパーティーね……そんな風に名乗った覚えはないんだけど」
それを聞いたリリィが不満そうな表情で呟いた。
あと3話で一章完結です。




