白魔導師、帰還する
◇
「終わり……ましたね」
「あぁ、そうだな」
周囲にモンスターがいないことを確認し、木から飛び降りる。
木の影に隠れれば、魔族から狙われることはないだろう。
やはり、魔族はこれ以上俺たちに近づけないらしいからな。
地面に降りたのち、クレハを地面に座らせ、地面へと腰をおろした。
収納魔法からマナポーションを取り出し、クレハへと渡す。
これが最後のマナポーションだ。
「私が使ってもいいんですか?」
クレハが心配そうにこちらを見つめる。
確かに、今の俺の状態は大丈夫とはとても言えたものではない。
服はボロボロだし、身体のあちこちに傷や軽い火傷の痕がある。
急激に魔力を使いすぎたせいか、若干頭も痛い。
正直、俺だってマナポーションを飲みたいさ。
だが、辛いのはクレハも同じだろう。
魔族から解放されてすぐに、これだけの魔法を使ったのだ。
それにクレハの場合は精神的な疲労が大きいはず……
「俺は大丈夫だ。だから、クレハが使ってくれ」
「そうですか……では、ありがたくいただきます」
クレハがゆっくりとマナポーションを飲んでいく。
その間俺は、周囲を警戒しておく。
先程、周辺に敵がいないことはしっかりと確認した。
しかし、油断するわけにはいかない。
探知した範囲はそこまで広くなかったし、今は探知魔法を使うことすら出来ないからだ。
「本当に、まだまだだよな……」
自分とクレハにかけていた強化魔法も解けてしまった。
情けないな……。
師匠がこんな姿を見たら何と言うだろうか。
間違いなく連れ戻され、訓練させられるだろうな。
まぁ、師匠がこの姿を見ているなんてことは勿論ないだろうが……失態は失態だ。帰ったら、反省点をノートにまとめよう。
そして一つ一つ、改善していかなければならない。
叱ってくれる存在がいないからこそ、自分で気をつけねば。
「ロイドさん、ありがとうございました。これ……」
その時だ。
空の瓶を手渡そうとしたクレハが突然倒れた。
それに気づいた俺は慌てて、クレハへと駆け寄る。
そして喉元に手を当てた。
「…………」
息はしている。
どうやら、意識を失っただけのようだ。
「やはり、無理をしていたのか……」
相当な無理をして、魔法を使ってくれていたのだろう。
倒れたクレハの手からそっと空の瓶を取り、収納魔法で亜空間へとしまう。
魔力が回復したためか、もしくはモンスター達を無事に森へと帰せたためか……クレハの顔色が少し良くなっている気がした。
「さてと……」
杖を使いながら、重い身体を立ち上がらせる。
っ、全身が痛い……
だが、いつまでもここで休んでいるわけにもいかない。
「イシュタルへと戻るとするか」
俺は限界と根をあげる体に鞭を打ち、クレハを背負い、イシュタルに向かい足を進めた。
◇
「遅いわね……」
ユイが不安そうに森を見つめる。
ユイだけではない。
防衛戦に参加していた全ての人が不安そうに森を見つめていた。
十数分前。
イシュタル付近で暴れていたモンスターらが、まるで我に戻ったかのような動揺を見せたのち、森の奥へと引いていった……ユイやダッガスの話を聞いていたため、冒険者や騎士達は、すぐにそれがロイドのお陰であることを理解した。
そして作戦が成功したことも理解する。
冒険者や騎士は歓喜の声を上げた。
中には涙を流しながら喜ぶものや、抱き合うものもいた。
あれだけの絶望を前にしながらも奮闘し、その末に自分らはイシュタルを守りきったのだと。
しかし、数分が経過したにも関わらず、ロイドが森から出てくる様子がない。
よくない想像が頭を過ぎる。
「もしかしたら、ロイドは……」
冒険者の一人が諦めに塗れた顔で、そう呟いた。
その時だ。
「おい! アレ見ろよ!」
クロスが森の中を指差しながら叫ぶ。
目を凝らすとそこには、背中に銀髪の獣人を背負いながら、フラフラと歩くロイドの姿があった。
冒険者と騎士らから、再び歓喜の声が上がる。
「ロイド!」
ユイが走ってロイドに駆け寄った
そしてロイドに抱きつく。
「もう、心配したんだからね……」
「ユイ……すまない」
「えっ?」
ロイドはそう言うと、ほっとした様子で力なくユイに倒れかかった。
ロイドとクレハ、二人分の体重がユイにかかる。
クレハは痩せ細ってるため軽いとは言えども、ロイドはそれなりの筋肉があるので重いだろう。
しかし、さすがはSランク冒険者の資格を持つ剣士。
ユイは少し重そうな素振りこそ見せるも、簡単に二人分の重みを受け止める。
「ロイド? ねぇ、重いんだけど……って、ロイド? 聞いてるの?」
ユイがロイドに何度も語りかける。
しかし、返事がくる様子はない。
不思議に思ったユイは倒れかかるロイドの顔を見た。
「あぁ……なるほどね」
ユイはそう言うとロイドとクレハをそっと地面へ寝かせた。
後ろからは、異変に気がついたダッガスやシリカらが駆け寄ってくる。
「おい、ユイ。急にどうしたん……」
「しっー! ダッガス、静かにして」
ダッガスの必死の問いかけを、口の前で指を立てながらユイが遮る。
そしてユイはロイドの方へと視線を向けた。
また、それに続きダッガスらもロイドへと視線を向ける。そして、ほっと安堵し、胸を下ろした。
「かなり無茶したらしいわね。寝ちゃったみたい」
ユイたちの視線の先には、疲れ果てて眠るロイドの姿があった。




